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やまだ
2026-02-22 15:19:00
1983文字
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羅小黑戦記
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2021.09.16 落とし物と師弟の話
「ぼくのメダル、なんでおまえが持ってるんだよ! 盗んだんだろ!」
「だから違うってば。拾ったって言ってるじゃん」
「嘘つくな!」
子ども同士の喧嘩か、と顔を上げたムゲンは、その子どもたちの一方がシャオヘイであったことに軽く目を瞠った。ムゲンが公園の屋台に並ぶほんの僅かな時間のうちにいったい何があったのか、待たせていた場所よりもやや離れた所で口論が始まっている。
顔を怒りで真っ赤にする少年に対して、彼と向かいあうシャオヘイはひたすらつまらなそうな無表情でいる。少年へ向けて突き出した手のひらには金色の、おそらくメダルが一枚あって、本来の持ち主のもとへ戻る機を窺ってためらうようにきらめいていた。
午前の公園は人が多い。めいめい好きに過ごしているために、子ども同士の言いあいをまともに受け取って仲裁に入ろうとする者など誰もいなかった。シャオヘイたちの傍らを、ジョギング中の老夫婦などは微笑みすらして通り過ぎて行く。
地団駄を踏んで泥棒泥棒と繰り返す少年へ、シャオヘイは面倒そうに溜め息をついてぐっと手を突き出した。
「じゃあもう泥棒でいいよ。いいからさ、さっさとこれ持ってどっか行ってくれない?
……
おまえ、さっきからうるさい」
「泥棒のくせに
……
!」
激昂する少年がさっと振り上げた手は明らかにメダルではなく、シャオヘイの顔に狙いを定めている。無表情でいた子どもの目が剣呑になる前に、ムゲンはその背後から薄い肩を引き寄せた。
「そこまでにしておけ」
ムゲンを見上げてまるくほどける瞳へ微笑んでやってから、急に現れた大人に唖然としている少年を見る。シャオヘイより少し背が高い。
「どうしてそんなに怒っているんだ? この子が君に何かした?」
師匠、と不満げにうなるシャオヘイの肩を数回叩く。膨れっ面で横を向いた子に向けて、まだ赤い顔をしている少年は忌々しそうに人さし指を突きつけた。
「こいつが、ぼくのメダル盗んだんだっ」
「盗んでない。こいつがポケットから落としたから拾ったんだ」
「ちゃんとしまってたのに落とすわけないだろ!」
「だったら盗むほうが大変じゃん。なんでぼくがわざわざそんなことしなきゃいけないんだよ」
「シャオヘイ」
「師匠、だってぼく
……
」
シャオヘイの小さな体すべてが不満を訴えている。突き出た下唇がわななくのを見てそっと薄い背を撫でた。
ふっくらした手のひらから取りあげたメダルを、少年の手に握らせる。
「君の大切なものだね?」
「
……
そうだけど」
「この子も、落ちたメダルを見てそう思ったんだ。早く返してやりたくて声をかけたんだよ」
そんなの、と言いながら、少年はスニーカーの爪先で地面を蹴った。
「わかんないよ。こいつ生意気なんだもん。いちいちむかつくこと言ってさ、だから
……
」
「この子は盗んだ物を見せびらかすようなことはしない」
少年の舌打ちは大きかった。輝きの一片すら隠すように握ったメダルをポケット深くに潜らせて、ムゲンとシャオヘイそれぞれをきつく睨んでから身を翻す。
「
……
もういいよ! 大人が割りこんでくるなんて、ずるい!」
「確かにな」
きっとムゲンの呟きは少年の耳には届かなかっただろう。
あっという間に人ごみへ紛れた背中を見送ってから、改めてムゲンはすぐ傍らに視線を落とす。顎が胸につくほど俯いている子のつむじが見えた。いとけない手がムゲンの服の裾をきつく握りしめている。
「親切をしたんだなシャオヘイ。それに、よく短気を起こさなかった」
「
……
でも、やなこといっぱい言われた。拾ったりしなきゃよかった」
「そんなことはないさ」
ムゲンが膝を折り、視線を合わせようとしても、シャオヘイはまだ俯いて顔を上げない。かたくなな態度の子どもはしかし、ムゲンが背中に触れると待ちかねたように懐へ擦り寄ってきた。
すん、と鼻を啜る音が聞こえてムゲンは微笑む。
「どうして泣くんだ。さっきまであんなに強気だっただろう」
「ぼく盗んだりしてない
……
」
「うん」
「な、なんでいいことしたのに、怒られるの
……
」
「嫌だったな。でも偉かったぞ。よくやったな、シャオヘイ」
嗚咽がムゲンの服をみるみる濡らしていく。小さな体を抱え上げ、懐が温かく湿る感覚を懐かしく思う。とん、とん、とまるまった背を叩いてやりながら歩きだす。
「おまえはいいことをしたんだよシャオヘイ。たとえ相手に感謝されなくとも、疎まれたとしても、自分の感じた善悪を信じなさい。そういうおまえを、私も言じているから」
まるで時間があの桟橋に戻ってしまったかのようだ。
ムゲンはあの日のような青空の下、衆目に一切構わずわんわん泣きじゃくるシャオヘイの、それでもあの日よりいくらか重くなった体と心を懐にしっかりと抱えなおして微笑んだ。
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