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やまだ
2026-02-22 14:54:13
1644文字
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羅小黑戦記
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2021.08.29 いいやつな師弟の話
ただ強い、と伝えるのならそれは誉め言葉だろう。
なら化け物のように強い、と吐き捨てて逃げていくのはどうなんだろう、と、シャオヘイは口をへの字にしながら腕を組み考えている。つい今しがた後にした館で、ムゲンの背中に向けて投げかけられた言葉だ。
真正面から言わない時点で答えは出ているようなものなのだが、それでも考えてしまう。あまりにも行く先行く先でムゲンがそう囁かれているのを聞き拾うからだ。
「シャオヘイ、ちゃんと前を見て歩け。ぶつかるぞ」
「
……
ん」
シャオヘイのことを妖精と言ったり、ムゲンを人間と呼ぶのはたぶんおかしくない。事実だからだ。ムゲンを強いと言うのもそうだ。シャオヘイの師匠になった人は物凄く強い。
ただ、化け物、だなんてわざわざ付け足す必要があるんだろうか。
「わぶっ」
「
……
シャオヘイ」
すぐ目の前がムゲンの服でいっぱいだった。じんじんする鼻をさすりながら真上を見ると、ずっと高いところに半目のムゲンの顔がある。
「だから言ったのに」
「何を?」
ムゲンならさっきから黙って歩いていただけだろう。
きょとんとするシャオヘイをムゲンはそのまましばらく見下ろして、それから断りなくひょいっと抱きあげて再び歩きだした。師匠、とシャオヘイが声をかけても、一瞥をくれるだけだ。
「もー、なんなのさ? 師匠が立ち止まったからぼくもぶつかっちゃったんじゃん」
「
……
そうだな」
「どこまで考えてたか忘れちゃった
……
」
「何をそんなに考えこんでたんだ?」
「
……
うーんと」
説明しようとすると難しい。ムゲンのこと、だけでは足りないし、さっき見聞きしたことを事細かに伝えるのは陰口みたいで卑怯な気がする。ムゲンの背中に嫌なことを言って逃げていった奴と同じにはなりたくない。
ムゲンの腕の中で身じろぎする。首にしがみついて後ろを眺めてみると、もう館はずっと遠くにあった。
「えっと
……
師匠はさ」
「うん」
「師匠はさ、妖精のこと好き?」
どうしてムゲンは人間なのに執行人なんて仕事をしているのか、その理由をまだシャオヘイは何も知らない。聞きそびれて今日になってしまった。
強すぎるから、なんて無茶苦茶な理由で館に立ち入ることもできなかったり、妖精に陰口を叩かれたり、散々だ。もしシャオヘイが人間から同じことをされたら大嫌いになると思う。
「シャオヘイは、人間が嫌いか?」
「えっ」
訊いたのはシャオヘイなのに、反対に尋ね返されてしまった。普段シャオヘイが同じことをすると行儀が悪いから、と暗めるくせに、大人はずるい。ムゲンの肩に頭を乗せてちぇっと舌を鳴らした。
「
……
別に、そういうのもうどうでもいいよ。人間にもいいやつはいるし
……
妖精でも、やだなって思うやつだっているし」
「
……
そうだな」
シャオヘイの頭の下で、ムゲンの肩がゆっくり上がってゆっくり下がった。
「私も同じだ。人間にも妖精にも、尊敬すべき相手はいるよ。こうはなるまいと思わせる者も」
囁くような声は柔らかくあたたかだった。笑っているらしい。ふうん、とシャオヘイがうなるとムゲンは吐息で笑う。
「じゃあさ、師匠はその、ソンケーすべき相手のために執行人してるの?」
「そうじゃない」
「じゃあなんで?」
「私の好悪に関係なく、人間も妖精もあるがまま生きることができればいいと思うから」
「ふーん
……
」
ふたりで歩いてきた道を眺めながら、シャオヘイは何か巨大なものを振り仰いだときのような途方もない気分になって息をつく。
「師匠ってさあ
……
」
「うん?」
「師匠って、いいやつだねぇ
……
」
ふ、とムゲンが笑う声がした。大きな手がシャオへイの後ろ頭をぽんとやる。
「おまえだっていい奴だよ」
「
……
ふん」
唇を尖らせて、シャオヘイはただムゲンに体重を預けるのだ。
いいやつなのは当然だ。
シャオヘイはムゲンの弟子なのだから、これから今よりもっといいやつになれるに決まっている。
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