やまだ
2026-02-22 14:47:18
1957文字
Public 羅小黑戦記
 

No title

2021.08.22 web版40話後の小黑と山新の話

 ゲームの中でいろんなことがありすぎて、くたびれてしまった。目が覚めてすぐ、小黒は起きるのを待っていてくれた友達と少し話をして、それから物干し場に出て伸びをした。ううん、とめいっぱい伸ばした手足に、裏山から吹き下りてくる風が気持ちいい。
 うまくできなかったことがたくさんある。
 新しく学んだこともたくさんある。
 小黒は小黒を信じているから、きっとこれからできるようになることもたくさんあるだろう。明日が来るたび小黒は強くなれる。
「小黒」
 振り向くと、廊下から山新が半分だけ顔を覗かせていた。眠たそうな目がいつもより伏せがちだ。
「なに」
……衆生の門、もうやりたくなくなった?」
「なんで? またみんなで遊ぼうよ」
 もう任務には失敗したから、ゲームの中で緊張しつづける必要もない。
  まだ見たことのない景色があの世界には山ほどあるはずで、それを四人で探しに行くのは絶対に楽しいのだ。山新の質問の意味が、小黒にはわからなかった。
 首を傾げたら山新はなぜだか長い溜め息をついてからにやっと笑った。ぴょんぴょん跳ねて小黒の隣に立つと、さっきの小黒のように空に向けて力いっぱい伸びをする。
「そうだよね、あんたってそういう奴だよね」
「なんだよそれ。ぼく、山新とこうして喋るようになって何日も経ってないよ」
「でも、わかるよ」
 不敵な笑みのまま、山新はやけに自信たっぷりにそう言いきった。
「あんなに一緒に冒険したんだもん。あたしにもわかる。あんたはいい奴だよ」
……あっそ」
 横を向くと空が青くて、田んぼが青くて、山も青々としていた。そのすべてを撫でてきた風が小黒の熱い顔の上もぺろんと通り過ぎていく。
「あのさ。……ごめんね」
……はぁ?」
 せっかくいい気分でいたのに、小黒は眉をひそめて隣の山新を窺うことになった。
 山新はいつもと同じに見える。泣いているわけでも、怒ってもいない。ほんのちょっぴり笑ってさえいた。
 それでも小黒は、山新のその顔を見て、いやだな、と思う。こういう優しい顔でごめんと言う人のことを、もう随分昔から、小黒はあまり好きじゃない。
「あたしがもうちょっとしっかりやれてたら、あんたの任務もうまくいってたかもしれない。ごめん」
……言うと思った! 何それ、わけわかんない!」
 負わなくていい責任を勝手に負って、勝手に苦しい気持ちになって、勝手に小黒の気持ちをわかった気になる人が、好きじゃない。
 小黒の好きな人が優しさのあまり傷ついて苦しんでしまうのが、昔から嫌いだった。会話もできないまま終わってしまうのはそのうちでも最悪だ。
 だから小黒はそんなときすぐに違うと言えるように、大事な人の顔をちゃんと見るようになった。山新とも、しっかりと真正面から目を合わせる。
「ぼくがここまでこれたのはみんなのおかげだけど、ぼくの任務が失敗したのはぼくのせいだよ。ぼくはちゃんと、何が間違ってたか、足りなかったか、もう自分で考えた。山新に分けてあげれるのなんか一個もない。全部ぼくのだ」
 山新はぽかんとして小黒を見ている。目と口をまんまるくして、その顔がなんだか小皇みたいだった。楽しくなってへへっと笑う。
「ぼくは山新みたく色んなことを考えて動けないし、阿根みたいに注意深くも、頼もしくもない。小白みたいに強くもないし。……一緒に遊んで、そういうのがわかって、よかった。だから謝んないでよ」
 謝られても小黒には許すようなことがないのだ。
 山新はじっと小黒を見て、それからへなへなと物干し場にしゃがみこんでしまった。膝を抱えて、なんだか大きな溜め息なんかついている。
……何してんのさ」
「別に。……あんたってこういう奴なんだ、って思っただけ」
「さっきはぼくのことわかってるみたいに言ってたじゃん」
「さっきはさっき。今は今」
 小黒も山新と一緒に物干し場にしゃがみこんだ。ぽかんと広がる空の端から真っ白な入道雲が立っている。
「ね、ゲームも面白かったけど、あとでみんなで川に行こうよ。ぼくずっと猫でいたから泳いでないんだ」
……あたしはスイカが食べたい」
「いいね。ぼくも」
 しばらくそのまま、ふたりで空を見ていた。じりじり肌を焼くような陽射しも、湿気を含んでねばつく空気も、不思議と煩わしく感じない時間だった。
「小黒」
「ん」
 さすがに尻や足の裏が熱さでひりひりしてきたころ、山新が低い声でぼそっと呟いた。
「あたし、あんたと友達になれて嬉しい」
 小黒も山新も空を見ているから、お互いがどんな顔でいるかわからない。でも隣にいるだけで十分伝わる気がして、小黒も友達の顔を覗いたりせずにちょっと頷いてから一言だけ返事をした。
「ぼくも」