ゴワ吉
2026-02-22 14:39:54
7231文字
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実習に行った筈の恋仲たちが手乗りサイズになっている件

一人風邪を引いてしまった勘右衛門の元へ留守中の恋仲たちが小人サイズで看病してくれる話です。五人交際、ハッピー

「ごほっごほ……、はぁまいったな」
 見慣れた天井を見つめ、勘右衛門は一人ぼやく。呟いても咳をしても響くのは己の声ばかりで虚しさばかりが募った。
 実は昨晩から風邪の予兆があり、念のためと医務室に行っていた。この予感が外れれば、と期待を込めて苦い重湯を飲んだのに。
(しっかり発熱するんだもんなぁ。おかげでおれだけ実習不参加だし……
 五学年全員参加の実習が今日を含め二日間行われ、勘右衛門もそれに参加予定だった。しかし突然の体調不良により欠席する事になり、泣く泣く留守番だ。
 今ごろ級友たちは野山を駆け回り、組ごとに考えた作戦に奔走している事だろう。い組も兵助が臨時で士気を取っている筈だ。
 本来それを担うのは学級委員長である勘右衛門だが風邪であれば仕方ない。い組の皆も納得してくれたしきっと無事にやり遂げてくれるだろう。
 しかし問題は恋仲の四人だ。勘右衛門の看病をしたいと傍を離れようとしない彼らを木下先生、新野先生に説得され、ごねにごねていた。
「くれぐれも安静に。帰ったら湯豆腐たくさん作るから」
「僕らが居ないからって動き回らないこと」
「絶対安静だからな、勘右衛門」
「俺のとこで飼ってる猫のみけちゃん、貸してやるよ」
 何とか説得に納得し、兵助たちはそれぞれの言葉と置き土産を残して出発していった。八左ヱ門の貸してくれたみけちゃんは飼い主が居なくなると早々に居なくなってしまったけれど。
……はぁ、情けない。よりによって実習前に体調崩すなんてなぁ」
 このところ学園長先生の突然の思い付きもなかった。比較的のんびり過ごして鍛錬も程々にしていたのに体調を崩すなんて。
 五年生にもなって体調管理も出来ず、級友に迷惑をかけてしまった。痛みの走る頭の隅で嫌な考えが浮かんで止まらない。
 きっと皆が聞けばそんな事ないと口をそろえて言ってくれる。だが今の風邪と孤独とが重なって不安は止まらず、段々と視界が滲みだした。
っ、おれこんなに弱かったかなぁ。ほんと、やだなぁ」
 普段のように朗らかな口調で嫌味を呟いてもそれに返事する者はない。次第に重くのしかかっていた涙が頬を伝い、布団へ落ちていく。
 諦めて勘右衛門はそのまましばらく静かに泣き続けた。風邪の時は寂しくなる、なんていつかの善法寺先輩の言葉を思い出しながら泣いて、いつの間にか眠りについていた。

__

 ――こしょこしょ。
 耳元で何かが囁いている。ぼんやりとした意識でゆっくり目を覚ますと額と首に違和感を感じた。「なんだ?手拭い、と……ねぎ?」
 ひんやりと気持ちよかった正体とネギは何だかよく分からない。誰が何のために巻いたのか分からず起き上がって取ろうとすると、くっと指を止められた。
「ん?……えっ、な、なに?」
 勘右衛門の左手、その人差し指をなんと兵助にそっくりな小人が掴んでいた。何だか分からないが勘右衛門の行動を止めようと必死に首にかかった手を引いている。
「もしかしてこのねぎ、取っちゃだめなの、かな?」
 恐る恐る問いかけてみると兵助似の小人がこくりと頷く。もしかしたらこれを巻いたのもこの子かもしれない。
 そう思い、ふと周りを見れば眠る前には無かった桶や竹筒まである。筒を揺らしてみればちゃぷん、と聞こえたので中身は水だろうか。
「一体誰が……。まさか、君が?」
 内心それは無いと思いながらも多少の可能性に賭けて聞いてみる。すると先程のように彼はコクンと頷き、誇らしげに胸を張った。
 その様子を眺めていると襖が一人でに開き、外から猫が入って来た。八左ヱ門から託され、逃げてしまったみけちゃんである。
「みけちゃ――っごほ、ごほ!」
 名前を呼んで傍に寄せようとした瞬間、大きく噎せてしまった。ねぎの効果で多少和らいでいたが今度は乾燥のせいで咳が出てしまう。
 慌てて傍の竹筒を取り、一気に飲んでいく。慌て過ぎて口端から水が零れてしまったが、下から手拭いが差し出された。
「はぁ、悪いな。へい……あれぇ!?」
 だが下にいたのは兵助似の小人ではなく、雷蔵、三郎、八左ヱ門そっくりの小人だ。目つきも髪型も兵助同様にそっくりそのままである。
……と、とりあえず手拭い貰うな。ありがとう」
 困惑はすれど差し出してくれていた手拭いは素直に受け取る。すると三人は嬉しそうにニコッと微笑んだ。
 何だか恋仲たちが手乗りサイズで看病してくれるみたいだ。実際どんな妖の仕業か、もしくは幻術の類かもしれないが。
「どんな姿でもやっぱ嬉しいな。ありがとな、お前ら」
 言葉を交わす事は出来ないが恋仲そっくりの小人が勘右衛門の寂しさを和らげてくれる。ほのかに感じた微笑ましさに釣られて笑い返すと彼らの頬がぽっと赤くなった。
「もしかして照れてんのか?なにか本物のあいつ等より素直で可愛いじゃん」
 ちょいちょい、と手招きして勘右衛門の両手に四人を乗せてみる。すっぽりと収まってしまう可愛らしい容姿に勘右衛門側の方が守らねばと思ってしまう。
 だが視界がクラリと歪みだす。そういえば発熱していたんだと思い出して、小人たちを下ろして布団に横たわった。
「ごめんなぁ。多少熱も下がったと思うんだけどもうしばらく横になってていい?」
 申し訳なさそうに呟いた言葉に小人たちは揃ってコクコクと頷き、皆それぞれバラバラに散って行ってしまう。目で追える範囲で見つめていると兵助が新しい手拭いを持って戻って来た。
 器用に絞った手拭いを勘右衛門の額に置き直し、口元を拭ったものは雷蔵が手を貸して一緒に桶へ入れていた。何とも微笑ましいその光景に悪寒以上に母性が溢れてとまらない。 
「可愛過ぎるだろ……。ん?」
 思わず口元を押さえて見つめていると勘右衛門の傍に三郎と八左ヱ門が戻ってきていた。二人で一緒に転がしてきたみかんを置いて懸命に剥き始める。
 どうやら口元を押さえているのを見て勘右衛門が咳き込む予兆だと思ったらしい。健気な姿に涙が出そうだ。
「だ、大丈夫か?おれが剥こうか?」
 嬉しいけれど何だか申し訳なくて手を出そうとすると彼らはぶんぶんと首を振って拒絶し、小さな手で作業に戻ってしまう。兵助たちの方を見れば二人でジャブジャブと手拭いを洗っていた。
 なんだか恋仲に似ている分、彼らが傍にいない寂寥が顔を出す。自覚しないよう努めていた想いが彼らを見ていると溢れて、たまらず勘右衛門は鼻をすすった。
 するとその音に小人たちが一斉に反応し、勘右衛門の元へ集合してきた。自分たちの頭巾を外して涙で濡れた頬へ伸ばしてくる。
「ははっ、ありがとなぁ」
 どうやらこの布で拭いて、と訴えているようだ。それらを受け取るも涙一粒が大きくてあっと言う間に頭巾がダメになってしまう。
 起き上がって自身の額に置かれた手拭いで改めて拭う。するとそれを見ていた小人たちが悲しそうに項垂れた。
「どうした?あ、おれならもう大丈夫だよ!ありがとう」
 手拭いを使っているのを見て役に立てなかったと思っているのだろうか。そんな事ないと勘右衛門は否定し、お礼を告げると小人たちは嬉しそうにニコニコ笑ってくれた。
 勘右衛門が泣き止むと今度は四人でみかんを剝き始める。皮が剝き終わって白い筋まで取ろうとしたので勘右衛門は上からみかんを奪って一つ頬張った。
「んっ、甘いなぁ。ありがと、お前ら」
 それを見て小人たちは満足そうに胸を張るが兵助だけはまだしょんもり項垂れている。その仕草に本物の兵助と重なって思わず笑いがこみ上げてしまう。
 兵助もいつもみかんは白い筋まで取って渡してくれる。自分が食べる分は気にしない癖に勘右衛門の分だけは、とか言って聞きやしないのだ。
「へーすけ、そんなに落ち込むなよ。十分みかんは美味かったよ」
 人差し指を伸ばして兵助の頭を撫でるとたちまち機嫌が治って笑ってくれた。だがそれに焼き餅を焼いて他の三人がその場で地団駄を踏み出したので順番に撫でてやる。
「ははは。もう~、嫉妬深いのも本物そっくりなのか」
 面倒くさいと感じる時もあるけれど大抵はその愛しさに勘右衛門が負けてしまう。仕方ないな、なんて折れてなるべく両手を広げて四人を抱きしめるのがお決まりだ。
 この幻術がいつまで続くのか分からないがまだもう少しだけ消えてほしくない。首に巻かれたねぎを取り、寝転んで四人を自分の傍へおいでと手招いた。
「一人だとさ、眠れなくて。一緒に寝てくれないか?」
 こんな甘えたこと本物の皆には恥ずかしくて言えないが小人相手なら頼ることが出来た。彼らは嬉しそうに目を輝かせ、いそいそと勘右衛門にひっついてくる。
 横向きに寝転んで四人を抱き寄せるように顔の傍へ集合させる。みんな思い思いに寝転んで勘右衛門をニコニコ見つめるから何だか気になって寝付けやしない。
「ふふっ、これじゃ当分寝れないなぁ。そうだ、おれ達のなれそめでも聞く?」
 何気なく呟いた言葉に小人たちは興味があるのか無いのか、首をひねる。
「おれさ、昔から一歩引いた所から皆を見るのが好きなんだよね。無意識なんだけど」
 輪の中心じゃなくて騒ぎの一歩外から様子を見守るのが好きだ。楽しそうなら後から合流するし困ってそうなら助けに入るけれど、最初からその中にはいない。
 別に彼らが嫌いだから距離を取っている訳では無い。一線引いた外から眺めて、満足したら加わるし気分じゃなかったらそのまま背を向ける。そんな事を無意識に五年も繰り返していた。
「でもそれを兵助が最初におかしい、って言い出してさ。そんな事ないよなんて返したらあいつ、ボロボロ泣き出したんだよ」
 兵助の反応は勘右衛門も予想外で、どうしようかと考えあぐねている間も兵助の涙は勢いを増す。事態がいよいよ大事になる手前、ろ組が助け舟を出してくれた。
 だが兵助から事情を聞いた三人はあろう事か兵助側に加勢し始めたのだ。とんだ裏切りである。
「もうそうなるとおれもどうしようも無くてさ、みんなの主張を受け入れたんだよね」
 最初は戸惑うばかりな中心も段々と居心地が良くなってきて、次第にみんなが居ないと探してしまうほどに勘右衛門は絆されていった。
 その延長線上で彼らから告白され、誰の事も見捨てたくなくて五人交際がはじまったのだ。本当にこうなる筈じゃなかったと勘右衛門自身が一番思うし今でも不相応じゃないかと不安になる。
本当はさ、実習行ってほしくなかったんだ。ずっとおれの傍にいて手拭い交換してご飯も食べさせて欲しい。らしく、無いけどね」
 つい語り過ぎて感傷に浸ってしまう。それこそらしくないと話題を変えようと思ったが、ふと小人たちを見るとぷぅぷぅと寝息を立てていた。
 話が長すぎて眠ってしまったようだ。寝かしつけるつもりは無かったが、これはこれで微笑ましくて笑みがこぼれる。
「おやすみ。兵助、雷蔵、三郎、八左ヱ門」
 名前を呼んだせいでまた寂しさが募っていく。小さいけれど頼もしい恋仲たちの面影がある小人を見つめ、勘右衛門も目を閉じた。

__

 ――ガタゴト、耳元で物音がする。その音に勘右衛門が目を覚ますと部屋は真っ暗になっていた。
 寝始めたときは昼間だったのに随分と時間が経っている。傍に寝転んでいた小人たちを探そうと身じろぐと手に何かが当たった。
「ん?……あれ、いまの何だ?」
 部屋が暗くてあまり見えないが自分以外の何者かの気配がする。それも複数だ。
 忍術学園が誇る防犯忍者と謳われる小松田をかいくぐっての潜入などタソガレドキ忍者しかあり得ない。そして勘右衛門が寝ている場所は医務室だ。
(確か雑渡さん、だったか。あの人が来ている?でも何でおれの傍で?……いやそもそも雑渡さん以外もいないか!?)
 何がなんだか分からないがどうやら眠っているらしいので起こさない程度に目を慣らしていく。段々と闇に慣れてくると傍に寝転ぶ彼らの顔や装束の格好が見えて来た。
 なんと本物の兵助たちだ。みんな一様に薄汚れた格好で頭巾も髪も結んだままで随分疲れているのか勘右衛門が触れても起きる気配がない。
(確か今日の昼に帰るはずじゃ。早めに帰って来たのかな)
 彼らの帰還にホッと安堵するが、ふと小人たちの存在を思い出す。慌てて眠っていた場所を探るが転がっている感触はない。
 まさか兵助たちに潰されてしまったのだろうか。嫌な考えが過った瞬間、勘右衛門の腰に抱き着いていた八左ヱ門が目を覚ました。
「ん、なんだよ……もう少し、寝かせて
「あっ、は、はち。なぁ、お前そっくりの小人見てないか?」
「小人ぉ?んなの知らねぇけど……
「そっか……。お前らそっくりの可愛い子たちだったんだけどな」
 消えてしまう前に一言看病をしてくれたお礼が言いたかったのに。勘右衛門が残念そうにしていると八左ヱ門の向かい側にいた雷蔵が顔をあげる。
「僕らにそっくりで可愛い子?勘右衛門、僕らが留守の間に浮気でもしたの?」
「ん?いやいやそうじゃなくてさ」
「そんなの俺は許さないぞっ!」
「うわうるさ」
 雷蔵の言葉にどこかで転がっていた兵助が飛び上がる。その声のした方を向けば彼がのそのそと起き上がり、また傍の三郎も体を起こした。
「全く騒々しいな。おちおち寝ても居られない」
「あ、三郎おはよう。てかお前らこそ、実習どうしたんだよ?まさかもう終わって帰って来たのか?」
 たった二日間と言えど徹夜の実習だ。慣れているとはいえど体力は限界な筈なのにどうしてここにいるんだ。
 そう訴えるように勘右衛門が尋ねると兵助が言い難そうに口を開いた。
「だって寂しかったし心配だったんだ。俺たちは勘右衛門の恋仲なんだから」
 兵助らしく照れもない真っすぐな眼差しで告げられる。その言葉には三郎たちも頷いた。
「心配は当然だろう。もちろん実習は完璧に終わらせたがな」
「ここだけの話。結構三郎らしくない失敗しちゃったんだよね?」
「それも勘右衛門を心配して上の空だったって訳か。あ、怪我とかしてねぇから大丈夫だぞ!」
 ほら、と八左ヱ門が両手を広げてみせる。それに吸い込まれるように勘右衛門は抱き着いた。
はー、はちの匂いだ。でも結構土臭いな」
「文字通りの山を駆けずり回ったわけだからな。勘右衛門は温いし相変わらず甘い匂いがするな」
「僕もぎゅうしたいな、えいっ」
「ぐぇ」
 宣言と共に雷蔵が後ろから抱き着いてきた。八左ヱ門と同じ外の匂いを纏って、ぎゅうと締めつけられる。
 苦しいけれどいつもする抱擁とは逆で勘右衛門が包み込まれている。不思議と心地よくて段々とウトウトしてきた。
「あっ、勘右衛門が寝ちゃう。兵助、三郎も早く」
「う、うん」
「あ、待って。俺も頭巾をとってから」
 雷蔵に続き、三郎、兵助も勘右衛門を包み込んで抱き着く。湯浴み前で頭巾が汚れているからそれを避けて、外の香りと四人分の体温がぎゅうっと締めつけて来た。
「あはは、苦し……。でも、ありがとみんな」
 重たくなってきた瞼を何とか上げて四人を見上げる。土にまみれて所心汚れているけれど愛しい自慢の恋仲たちが勘右衛門を見つめていた。
 そういえば本当に小人たちは消えてしまったのだろうか。また目が覚めた後に探しに行きたい。
「勘右衛門、もう限界だろ?無理せず寝て良いぞ」
「そうだよ。俺たちは何処にも行かないから」
「眠ってもずっと傍にいるよ」
「うん。にしても俺のみけちゃん、何処行っちまったんだろ?」
 三郎に頭、兵助に頬、雷蔵に背中を撫でられるとゆっくり瞼がおりてくる。とうとう抗えなくなった睡魔に勘右衛門はそのまま意識を手放した。
 自分一人分だけじゃない愛しい温度に抱かれ、夢を見ることなく翌朝までぐっすり眠ったのだった。

「んー、やっぱ居ないなぁ
 翌朝、新野先生の診察で解熱、自室に戻って良い許可がおりた。お世話になった保健委員へも礼を告げて帰る道すがら、考えるのは小人になった恋仲たちだ。
 一体あれの正体は何で誰の仕業だったのか。もう一度会いたい一心で軒下を覗いてみるが全く姿は見つからない。
「勘右衛門!何してるんだ?」
 廊下から迎えに来た兵助が不思議そうに見下ろしてくる。勘右衛門は顔を上げて訳を話そうと口を開く。
 だがふと、自分だけの秘密でもいいかも。と思って口を閉じた。何となくあの子たちの存在は独占しておきたいと欲が芽生えてニコッと笑顔を貼り付けた。
「何でもない!それより兵助、湯豆腐作ってくれてるんだろ?」
「あぁ、もちろん。食堂に用意して、八たちも先に居る筈だよ」
「八たちも?それは頼もしいな」
 どうせ湯豆腐だけ並んでいる訳じゃないだろう。兵助の作れる大量の豆腐料理が食堂に並べられているのを想像し、今から冷や汗が滲む。
 廊下を曲がり、兵助と並んで食堂へ向かう。あの子達と出会えた医務室が遠ざかっていく中、ふと横目に後ろを見ると小さな布が落ちていた。
……、兵助、ちょっと待ってて」
「え?う、うん」
 思わず足を止めて振り返り、咄嗟に駆け出した。埃かも、と過りながらそれを拾うとそれは五年生と同じ色の布で、広げれば確かに頭巾だ。
 あの子達の誰かが落としたものに違いない。それを勘右衛門は大事に拾い、きっといつか会える気がしてそっと懐へ仕舞い込んだ。
「何かあった?」
「ごめん、見間違いだった。早く行こっか」
 心配する兵助に再度謝って、改めて食堂へ向かう。きっと探しにここへ戻ってきたら、返すついでに改めてお礼を言いたい。小さいけれど頼もしくて可愛い姿の恋仲たちを想いながら勘右衛門は懐を撫でた。

おしまい