やまだ
2026-02-22 14:23:29
1386文字
Public 羅小黑戦記
 

No title

2021.08.09 web版40話のネタバレの師弟

 ふわふわした髪を改めて撫でると、子どもは気まずさとはにかみの混じりあった顔で无限を仰いだ。
……なに」
「礼を言っていなかったと思って」
……お礼? ぼくに? 師匠が?」
 きょとんと目をまるくする小黒と初めて出会ってから、およそ四年が経っている。背が伸び、体つきもしっかりして、当時と変わらないのはよく回る口と猫耳、そして甘え癖くらいだ。
「私の助けになろうとしてくれただろう?」
……べ、別に……
 俯いた小黒の膨らんだ頬の陰から、唇の先端がつんと覗いている。まだ无限の衣の裾を掴んで離さない手は、小黒が昔からする意思表示だった。一緒に行く、一緒にやる、と言いながら何度服を伸ばされたか知れない。
「ありがとう、小黒」
……うん」
 ゲーム世界に寄り添っているのに体温を感じる。川のせせらぎや森の香りを含んだ風はふたりで旅した日々を想起させた。
 あの日々は今でもムゲンの胸をあたためる。
「師匠……
「ん?」
「ぼく……ぼくも早く師匠ぐらい強くなりたい。なれる?」
「その前に小白と学校に通うんだろ?」
「そうだけど。ねぇ、なれる?」
 あどけなく裾を引く仕草は无限を微笑ませた。
 頭に置いていた手で小黒の肩を抱き寄せる。素直に寄りかかってくる子の重みを感じるのも道分と久しぶりだった。
 泣いて帰ってくるような子ではないと信じてはいたが、友人たちの力を借りここまでやり抜いた小黒は本当によくやった。いつか、どんな未来を選んだとしても、仲間と分けあった達成感や噛みしめた無力さは、きっとこの子の糧になる。
「なれるさ」
……うん!」
 小黒はにっこり笑って无限の脇腹にしがみつく。
 やっと裾から離れた手が今度は胴をぎゅうぎゅうと離さない。
「友達の前では格好よかったのにな。もうやめたのか?」
「師匠はいいんだ。だって師匠だもん」
「そうか」
「うん。ぼくも師匠のかっこ悪いとこいっぱい知ってるし、お互いさまってやつでしょ?」
……そうか」
 非常に遺憾ではあるが反論できるだけの根拠がなかった。
 无限が半目になって川の流れを眺めていたら、その隙に小黒は腿の上によじ登ってきた。もっと小さかったころのように胡坐のあいだにどすんと座り、无限の膝を肘置き代わりにする。
 ふ、と笑って小黒の両肩に手をかけた。
「ちょっ……師匠、重い!」
「我慢しろ」
「もー! 師匠っていっつもそう!」
 台詞と裏腹なはしゃぎ声が弾けた先を追いかけて上向く。視線の先に広がる満天の星空も、現実のものと大差ない。
「ね、師匠」
「うん?」
 甘えた声に呼ばれて下を向く。
「待っててね。ぼく、勉強も修行ももっと頑張るから。ぼくもさっきの師匠みたいになるから」
 无限の眼下にも星がある。きらきらとよく光る瞳をいっぱいに見開いて、天限の力をおそれることもなく、小黒はただひたむきに今日の先へと思いを馳せている。
 待っているよ、とは言わない。子どもの薄い肩を掴む手に、ほんの少し力を込めるだけだ。
「私も負けていられないな。もっと修行しなければ」
「えーっ、師匠はもう修行しなくていいよ! 今より強くなるのずるい!」
「勝負ごとで手加減はしない主義だ」
……ずるいっ!」
 この星がふさわしい場所を得ていきいきと光り輝く日を、无限は心待ちにしている。