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やまだ
2026-02-22 14:16:22
1814文字
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羅小黑戦記
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2021.06.01 大陸のこどもの日だったので書いた、少し大きくなった小黑と小白の話
「小黒はあっという間に大人になっちゃったね」
「そう?」
うん、と小白が頷いて見上げる小黒のほうはきょとんとしているのだ。昔は肩が並ぶくらいだったし、もっと言えば頭に乗せて歩けるほどの小猫だったのに、あれからたった五年かそこらでこんなに差がついてしまった。
高級中学に通うようになった小白だって少しは変わったつもりでいる。けれどたまに会う小黒は、そのたび軽々と小白の自認を飛び越えていくのだった。
「私の小猫ちゃんがこーんなに大きくなっちゃって!」
「
……
猫になろうか?」
「うーん、今度でいいや! 今日はご飯食べに行こ」
「うん! ぼくお腹ぺこぺこなんだ」
「あはは。私も!」
待ちあわせ場所にしていた駅前広場は時間が経つにつれどんどん混雑してきている。小黒は人いきれを抜け出そうともがく小白の手をとり、するすると器用に隙間を縫って歩いてくれた。
たまに小白が人とぶつかりそうになるとさりげなく庇ってくれる男の子は、もう頭に猫の耳なんてつけていない。ふわふわ揺れる黒髪から覗く耳は人間と同じ形だ。
小白が十歳のころ、蒸し暑い夏の夜、お兄ちゃんのタンクトップとショートパンツ姿で月を眺めていたあの小黒をまだ覚えている。たった五年で、あの子はカットソーとデニムパンツが似合うしなやかな後ろ姿を手に入れた。
「小黒」
「うん? なに」
広場から離れた所で、繋がっていた手が解かれた。
並んで歩くときも小黒は小白の歩幅に合わせてくれる。小白より誕生日は遅いのに、仕草がお兄ちゃんみたいになってきた。
「執行人のお仕事、大変?」
「大変! でも小白みたいに勉強するほうがぼくには大変だよ。こっちのほうがまし」
「もう字読めるようになった?」
「
……
うーんと」
「あ、わかったから大丈夫」
「で
……
でもこの前、師匠からの手紙ひとりで読めたよ!」
おおー、と小白が両手を叩くと、小黒はまんざらでもない顔をした。昔は短い手紙も読めなかったことを思うとなかなかの進歩だ。
「无限さん、なんて?」
「そのうち遊ぼうって。阿根や山新も誘って」
「わあ、いいね! 楽しみ!」
小黒の師匠も、小白の大事な友達だ。物静かな人だけれど優しくて、小黒と同じ顔で微笑む。いろんなことを知っているのに火を使う料理だけはとんちんかんで、そのくせ自分でやりたがるのが困りものだ。无限が冷蔵庫を開けるだけで小白はどきっとするし、小黒なんてまるで戦いの最中みたいな顔になる。
面白い人だ。
あの人のために小黒は頑張って大人になろうとしている。まだ十五歳なのに、しんとした目で前を見る。
小黒のそういうときの横顔は无限とそっくりだった。
「小黒、大変じゃない?」
「小白?」
同じ質問を繰り返したと思われたようだった。小白を見下ろして、小黒はちょっと首を傾げる。背が伸びても、ふっくらまるみを帯びていた輪郭がするどさをみせるようになっても、そうやっていると小黒にはかわいい黒猫の名残があった。
小白の十歳からの思い出にはいつも小黒がいる。
「子どもでいられる時間を大人になるために使うの、大変じゃない?」
足を止めて、ぱちんぱちんと小黒は素早く瞬きした。
小白と小黒の周りを賑やかな音が流れている。道のまんなかで立ち止まる小白たちは随分邪魔だろうに、なぜか広場と違って誰とも、肩が触れることもなかった。
「小白が心配してくれてるの、わかるよ」
やがて小黒は、ふ、と微笑んだ。
「だけどぼくは妖精だから。守られなきゃいけない期間って、人間よりずっと短いんだ」
「そうなの?」
うん、と頷く小黒を見る。意地を張っているわけではなさそうだった。
「それに
……
」
「それに?」
今度は小白が首を傾げる番だった。細めた目をきらきらさせる小黒の、嬉しそうな照れ臭そうな、そして懐かしそうなはにかみ顔を仰ぐ。
「妖精のぼくをただの人間の子どもみたいに育ててくれた人のために頑張るの、そりゃ大変だけどさ。でも結構楽しいよ」
つられて小白も笑ってしまうような顔だった。
「そっかあ」
すっかり大人びた幼馴染みだけれど、案外変わらないところも多いのかもしれない。少し、ほっとする。
五年前の蒸し暑い夏の夜を今でもはっきり覚えている。
ぼくの師匠は世界で一番優しいんだよ、と教えてくれたあのときと、今の小黒はまったく同じ瞳で笑っていた。
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