Meguri_sumi
2026-02-22 13:12:19
2357文字
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キミに贈る祝福(おみたす)

⚽️の誕生日を二人で迎える瞬間の話

 明日が来るまであと五分。臣は自分の隣ですでにうとうとと微睡んでいる男を見て、少し申し訳なく思いながらもその肩をとんとんと軽く叩いた。

「丞さん、まだ寝ないで」

 優しく肩に触れながら声を掛けると、枕に顔を埋めていた丞からは「んぅ」と不満げにくぐもった声が聞こえた。それでも少しすると、重たそうな瞼をなんとか持ち上げた丞が臣の方に顔を向ける。

「あと五分だけ、起きててくれませんか」

 臣がそう頼むと丞は眠そうな表情を浮かべながらも、少し間を置いてから「わかった」と小さく頷いた。
 たった数分なんて普段はあっという間に過ぎてしまうはずなのに、今はやけにその時間が長く感じられる。臣はそわそわしながらその瞬間が訪れるのを今か今かと待っていた。

「丞さん」
「ん?」
「まだ起きてます?」
「ああ」

 時間ばかりが気になって、たいした話題も浮かばない。ただひたすらに丞がちゃんと起きているのかを確認し続けてしまう。丞もそれを嫌がることなく律儀に返事をしてくれるが、その声色からはいまだに抜けきらない眠気が漂っていた。
 今しがた終えたばかりの行為のことを思えば、丞がこうも眠そうなのも仕方がないと思う。いつもだったらそのまま寝てもらうところだが、今日ばかりはどうしても起きていてもらいたい理由がある。
 そうしてあまり意味のない会話とも言えない会話を何往復か続けていると、臣がずっと待っていたその瞬間はようやくやって来た。部屋に備え付けてあるデジタル時計が午前零時を表示して、その下に小さく映し出されていた日付も同時に切り替わる。

「丞さん、誕生日おめでとうございます」

 待ち望んだその瞬間を迎えると、臣はパッと丞の方に顔を向けて言った。
 わざわざ誕生日前日の夜に時間を作ってもらって日付を越える瞬間を一緒に過ごせるようにしたのは、この言葉を誰よりも早く伝えるためだった。

「ああ、ありがとな」

 丞は顔を綻ばせると、臣を見つめ返して落ち着いた様子で答える。多分、どうして臣がこの時間まで起きていてくれと言っていたのかもうわかっていたのだろう。少し幼稚な独占欲も含んだ臣なりの祝福の気持ちを、丞が素直に受け取ってくれたのが嬉しい。
 手を伸ばしてそっとその頬を撫でると、丞は少しくすぐったそうにしながらもそんな柔らかい触れ合いを静かに受け入れてくれた。
 二人きりでこうして静かに過ごせる時間が何よりも幸せだと思える。丞も同じように感じてくれていることがその表情から読み取れるからなおさらだ。
 ふと、そんな幸せな静けさの中に身を預けていると、ちょっとした違和感を覚えた。そういえば、なんだか静か過ぎる気がする。少し視線を巡らせて、その違和感の正体を探る。ベッド脇に置いてあるサイドテーブルが目に入った時、臣はようやく気がついた。

「丞さん、スマホは?」

 視界に映ったサイドテーブルの上には、臣のスマートフォンが置いてある。いつもは丞のものも一緒に置いてあることが多いのだが、今日そこに置いてあるのは臣のもの一台だけだった。
 きっと午前零時を回ったら、丞のスマートフォンにはたくさんの人からお祝いのメッセージが届くだろうと思っていた。MANKAIカンパニーの劇団員の中にも、日付が変わった瞬間にすぐにお祝いを送ってくる人間が少なからずいる。だからせめて、自分は一番に直接おめでとうを伝えられるようにわざわざ丞を連れ出したのだ。
 しかし、臣の予想に反して丞のスマートフォンはどこに置いてあるのかわからないくらい、静かに鳴りを潜めたままだった。

「電源切って鞄の中にしまってある」
「え、どうして……

 丞の言葉を聞いて、臣は目を丸くした。普段はそんなことをしないのに、どうしていろんな人から連絡がありそうなこの瞬間に限ってそうしているのか、純粋に疑問に思う。
 臣がそう思って尋ねると、丞は臣の顔をじっと見つめてゆっくり口を開いた。

「お前が一番に祝ってくれるんだと思ったから、どうせなら誰にも邪魔されたくないだろ」

 想像もしていなかった答えを聞かされて、臣は思わず目を見開いた。その言葉の通りなら、臣が丞の誕生日を一番に祝いたいと思っていたのと同じように、丞も臣に一番に祝われたいと思っていてくれたということだ。二人で過ごすこの瞬間を特別なものだと思って準備していたのは臣だけではなかった。その事実に、じわじわと胸の奥が温かくなる。

「丞さんのこと独り占めしてて、これじゃあ俺がプレゼント貰ってるようなもんですね」
「俺だってお前のこと独り占めしてるんだから、それはおあいこだろ」

 臣が嬉しさを隠しきれずにそんなことを言うと、丞は穏やかに微笑んだ。今日は丞にたくさんのものを与えてあげたい日なのに、自分の方が特別なプレゼントを貰えているような気分になる。

「ねえ、丞さん……もうちょっとだけ、夜更かししません?」

 さっきまで手のひらで触れていた頬に、今度は軽く口づけを落とす。臣が言わんとしていることはすぐに伝わったようで、丞は少し呆れたような笑みを浮かべたが、その後すぐに臣の頬に同じようにキスを返した。

「朝早く帰るんだから、ほどほどにしろよ」

 寮に帰れば、丞はきっと劇団のみんなから祝福を受けるだろう。たくさんの人に祝われて笑顔になる丞を見るのももちろん幸せだが、今この瞬間だけは、自分が与える愛で満たされていてほしいと思った。丞がそれを受け入れてくれるなら、臣はどれだけたくさんのものであっても彼に与えるのを厭わない。
 自分が伝える愛が、丞にとっても特別な贈り物になりますように。そう祈りながら臣は丞に、重ねた唇から確かな祝福を贈った。