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幸希(ユキ)
2026-02-22 12:11:21
3277文字
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君の見る夢
むっちゃんの言う“世界”ってなんだろう。と思った。
解釈自体はきっと二番煎じ。着地点途中で見失って要領得なくなっちゃった。
「世界を掴むぜよ!」
うちのむっちゃんに限らず、どこの本丸の陸奥守吉行もその言葉を口にする。元の主から来てる言葉なら、貿易だとか新しい文化だとか、そういうのを指すのかなと、昔はぼんやり思っていた。
「新しい時代に連れて行っちゃる!」
隊長になった、極めた陸奥守吉行が口にする“新しい時代”。修行に向かい、帰ってきた陸奥守は幾度となく「時代」、そして以前と変わらず「世界」という言葉を発していた。
(むっちゃんの言う世界、時代ってどんなものなんだろ。)
修行の手紙の中で、むっちゃんは「新しい道具も古い道具も使い方次第」、「新しいものがあるのを知らず、古いものだけを使い続ければそれは選択肢を狭めるだけ」と言っていた。考え方で言えば多分温故知新になるのだろう。ただそれが世界や時代とどう繋がっていくのか。私の貧弱な頭では全く考えがつかない。
(“世界”の定義で考えようとしても曖昧だし広義過ぎる。
……
いや、別に抽象的だからこその発言だったりする?)
具体的な言葉がないと理解がしづらいけど、抽象的な言葉はその反面想像の余地がある。“世界”と言うのは簡単だが、その意味や意義を思うと幅が広い。分野1つとってもそうだし、全てを表すにも“世界”は使えてしまう。なら、むっちゃんの話す“世界”は?
(限定的な分野や界隈に置けるという意味なのか、そういうのに限定しない広い意味なのか。)
十中八九後者だろう、とは思う。いろんな方向に興味のアンテナを伸ばすむっちゃんの性質を思えば、1つの事で固執するわけがないし、そこで留まれるような刀じゃない。
もっと、もっと多くの事を知りたいと。それこそ、“世界”を知りたいと。
(そういえばむっちゃんの紋
…
。)
錨を模したような刀紋。元の主が船や海外貿易に長けていた事から来たと思っていた。でも、
(知りたいことを、知りたいものを見る為に、“世界”という大海原に出ていく。錨は船が波に攫われないようにするための重り。楔。目的を見失わないための目印と言い換えることも出来る。)
“世界”、“時代”、刀紋。あくまで私の解釈でしかないけども。
(“世界”は大海原。“時代”は大海原をうねらせる波。錨を模した紋を掲げるむっちゃんが目印。そう考えれば、まぁ通りはするか。)
『新しい時代に連れてっちゃる!』
(世界を揺るがすような波が来たとしても、それを乗りこなして、それまでも見た事がない景色を見せてやる!
………
的な感じだったりするのかね。)
考えてはみるものの、やっぱり頭の足りなさを感じる。根本的なところからはきっと程遠い。
(でも、)
『主と共になら、わしらはどこへでも行けるっちゅう事じゃ』
七周年という節目を迎えた日、むっちゃんはそう言った。恋仲という関係ばかり目立つけど、本来うちのむっちゃんはこの本丸の始まりの刀だ。審神者を支え導き、その矛でもあり盾にもなり、最も信の置く近しい存在。むっちゃんが“錨”なら、多分私のような審神者は羅針盤か操舵手だ。
(どっちにしたって頼りねーな。多分あちこち行こうとして「そっちやない!」って引き戻されてるやつだ。あ、そういえば
…
)
もう1つ「碇」を思い出す。指すものは変わらないが、持たれる意味が変わるらしい。「碇」は、安らぎや安心の象徴、心の支え、精神的な安定性を意味する場合があって、これは宗教的な意味も含んでるらしい。細かいところまでは知らんけども。
(“錨/碇”を支えにしながら、波間を縫って新天地に向かう
…
。どこへでもか
…
。)
形を成しそうで成さない、ただの可能性に過ぎない考えがぐるぐると頭の中を巡っていく。ただ、何となく方向性みたいなものは見えた気がした。
「聞くのもありか。」
「何がじゃ?」
「にぎゃ!?」
「ちんな悲鳴やにゃ。」
「急に出てこないでよびっくりするじゃん!!」
すまんすまん、と笑いながら頭を撫でてくるむっちゃん。普段は穏やかだしスパダリかと思うくらい頼りがいがあるのに、時たまいたずらのような事をしてくるから心臓に悪い。笑い方が無邪気だから可愛い反面、何でそんなに可愛いかっこいいのと逆ギレしたくなる。よくしてるが。
「むっちゃん。」
「ん?」
「むっちゃんにとっての“世界”って何?」
ぱちり、と琥珀の目が瞬く。そのままゆるりと目が付せられて、思案するように視線が斜め上に向けられた。
「ほうじゃのう
…
。」
「
……
。」
「時勢は目まぐるしゅう変わっていく。事を知らんままでおれば、波に呑まれて行くべき先を見失ってしまう。かといって目先の事に踊らされちょったら、道を誤ってしまう可能性もある。」
「うん。」
「無知は罪やない。ただ知らんままでおる事を是としてはいかん。知る努力はするべきじゃと、そう思う。」
「そうだね。私もそう思う。」
「知っちょってもそのままでおったら宝の持ち腐れじゃ。然るべき時に使う、利用する、応用する。それをして初めて実になる。」
「うん。」
「そうしたもんが行きつく先が、願わくば平和であってほしい。血が流れんで済むなら、それをする事で勝てるがやったら、わしはそれが一番やと思うがよ。」
寂しそうな笑みを浮かべるむっちゃん。元来、この刀は血が流れるような争いを好まない。けれど争いが現状避けられないものである事もよく知っている。
「じゃあ、むっちゃんの言ってる“世界”は“平和な世の中”って事?」
「それも含めて、じゃな。」
「ん?」
「平和な世を願っちゅうのはほんまじゃ。けんどそれだけやない。」
「??」
「叶えたいもんが叶えられる。争いのない平和な関係が築ける。夢想したもんが形になる。そうした事が為せる。次の時代に何が起こるからぁて、そがな事誰にも分からん。分からんならそれが出来るよう備えればえい。使い方を知ればえい。その為の力をつければえい。分からんからこそ、面白いがじゃ!」
琥珀が空を映す。
「1つの事だけが為したい訳やない。いろんな事が叶えばえい。世界は、そんな一言で括れる程狭うないきに。」
「
…
前々から思ってはいたけど、スケールでっかすぎて私には想像がしづらいわ。むっちゃんどこまで見てるの。」
「さあての?」
「
…
腹立つけど、そこを決めちゃったらそれこそ面白さが減りそう。」
「夢は果てしないもんじゃ。そうじゃろ?」
「終わらないのが夢だもんね。」
ケラケラと楽しそうに笑うむっちゃん。私の想定よりどでかい事を言われて正直頭は限界を訴えてる。でも、むっちゃんがただ1点だけを叶えるだけに留まらないっていう事だけは合ってた。強欲を自称し、「選択肢を狭めるだけ」と言うやつが1つだけを選ぶ訳がない。己が野心に忠実なこの刀が。
「全ては繋がっちゅう。一見無関係に見えたとしても、どこかで繋がりは出てくる。わしが堀川達と遠からず縁があったように。」
「あれ本気で知らなかったからびっくりした。しかもその大元辿ったら関鍛冶まで行くじゃん。私の出身方面。」
「おまさんとも少なからず縁があった。そう思うと、あれもこれも手を伸ばしとうなるがは道理じゃろ?」
「理屈としては分かる。でもやっぱりスケールでっかいよ。手に余る。」
「まははは!」
はぁ、とため息をこぼせば、抱き寄せられた。
「気になったがか?」
「うん。」
「理解は出来たが?」
「10分の1も出来た気がしなぁい。」
ゆるゆる頭を撫でられて額に唇が落とされる。
「んっ」
「分かろうとしてくれたのが嬉しいぜよ。」
「理解力なさすぎて我ながら頼りないと思う。」
「ほうか?」
「でも理解する努力はやめたくないんだよなぁ。分かんないくせに。」
「頼りないらぁて思わんよ。自慢の主じゃ。」
「贔屓目ー。」
陸奥守吉行。坂本龍馬の佩刀。土佐の名刀。世界を目指し夢見る刀。願わくばあなたの望みが叶いますように。その“世界”が、“時代”が、共に見られますように。
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