toko-honey
2026-02-22 10:59:33
3558文字
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結んでほどけて1【結ぶ】

レオン×タクミ。タクミの髪をきっかけにレオンがタクミに惹かれていくお話の第1話。1日1話の連載で全7話です。
Japanese Only
#leokumiweek2026

 カムイの軍と合流するためレオンがマークスと共に無限渓谷に駆けつけたとき、戦闘はもう始まっていた。
 レオンはブリュンヒルデを唱えた。林の間を縫って進軍してきた騎兵が直撃を受けて倒れる。
「自分の国の兵と戦わなきゃいけないなんて、何だか変な感じだね」
 倒した騎兵は暗夜王国の正規軍の兵だ。兵法書どおりの隊列を組み、林の奥から続々と現われてくる。
「手心を加えようなどとは思うな」
 レオンの傍らでマークスがジークフリートを振るった。林から飛び出してきた別の騎兵が胴に斬撃を食らう。その兵が馬から転がり落ちていくのを尻目に、マークスは返す刀で次の一騎を片付けた。
「私たちがここに来た理由を忘れるな。すべては暗夜王国のためだ」
「わかってるよ。手心を加えようなんて思っていないさ。マクベスが国から排除しなきゃいけない輩だってこともね」
 もともとマクベスのやり口は大嫌いなのだ。あんなのが自国の軍師として重宝されているだなんて虫唾が走る。それを潰していいと言われたのだから、レオンは徹底的にやるつもりだった。
 レオンとマークスが攻撃の要となって進軍すると、林に攻め込んできた騎兵隊はたちまち総崩れとなった。まるで雑草でも刈るかのように簡単だった。この小隊の隊長は基本を忠実に守るタイプなのだろう。次に兵がどう動くのか、何を狙っているのか、レオンには手に取るようにわかった。
 林を抜けて砦を制圧し、山の東側を南下して高台にある弓砲台を占拠する。山の上に陣取っていた敵と魔道砲台はカミラが片付けたようだ。あとは反対側の西側のルートを回ってくるカムイ達との合流を待つばかりだ。
「それにしても遅くない? 向こうに手こずるような相手なんていたっけ?」
 レオンはマクベスのいる南の砦を見た。砦の東側を守る兵はもう一兵も残っていなかった。伏兵の気配もなく、すぐに攻め込んで落とせそうだ。だがマークスは大人しく待つつもりのようだった。
「カムイ達はガンズの軍との連戦だったのだ。万全の体制ではなかったのだろう」
「もう僕たちだけで倒しちゃう? カミラ姉さんもいるし」
 レオンがブリュンヒルデをマークスに示すと、マークスはとがめるような顔をした。
「駄目だ。当初の作戦通りにしろ」
「苦戦しているのかもしれないよ」
「向こうには白夜の王族がいるはずだ。そうやすやすとやられはせん」
「へえ、王族がいるにしては大したことないね」
「レオン」
 レオンは手綱を握り直した。馬の腹を軽く蹴る。
「僕が斥候として見てくるよ。ついでに加勢もね」
「待て、レオン!」
 マークスの声に構わず、レオンは馬を走らせた。

 山の崖沿いに西へと移動していくと林の中に一人の白夜兵が目に入った。弓兵だ。長い髪を高い位置で結んでいる。髪の長さからするとおそらく女だ。彼女はストラテジストと対峙していた。周囲に仲間はいない。
 彼女の装備はあちこちが焼け焦げていた。右袖などはすっかり焦げ落ちて腕が見えている。至近距離からサンダーを食らったようだ。距離を取って反撃しようとしているが、それよりもストラテジストの魔道書から魔法陣が浮かび上がる方が早かった。
 レオンはとっさに呪文を唱えた。ブリュンヒルデの枝がストラテジストを捕え、その生命力を奪い取る。直撃だった。背後からの不意打ちは予想外だったのだろう。魔法陣と枝の幻影が消えると同時にストラテジストは馬ごと吹き飛び、地面に落ちて動かなくなった。
 レオンは白夜兵に近付こうとした。彼女はレオンの方へと安心したような顔を向けかけ、すぐさま表情を硬くして素早く距離を取った。結んだ髪を揺らし、こちらに向けてさっと弓を構える。ぎらりとした眼光は、視線だけでこちらを射抜こうとでもしているかのようだった。
「なにが目的だ」
 彼女の口から出てきたのは男の声だった。レオンの動きが止まる。
「僕を助けて恩を売って、それを手土産にしてこちらに取り入るつもりなのか。そのくらいのことでだまされると思うなよ」
 大人になりきれていない少年の声だが、まぎれもなく男の声だった。ただの勘違いといえばそうなのだが、卑劣なマクベス軍の兵から白夜の女性兵を助けてやったと思い込んでいただけに、軽くショックを受ける。
 半ば呆然としながら弓兵を見つめているうちに弓の弦と矢が緑色に光り始めた。独特な装飾の弓に弦と矢はなく、光そのものが弦と矢を形作っている。それを見てレオンはやっと気が付いた。この顔、この光る弓、そしてこの特徴的な長い髪。思い当たるのは一人だ。
「なんだ、お前。白夜の間抜け王子か」
 タクミという名前よりも先に、つい率直な感想が出た。イズモ公国でイザナ公と一緒に捕まっていたあの王子。仮にも王族でありながら他の有象無象と一緒くたに部屋に詰め込まれていたことを思うと、間抜けという言葉がぴったりだった。
「なっ……、何だと!!」
 光の弦と矢がいったん消えたと思ったら、猛烈に輝き始めた。その光で相手の表情がよく見える。照らされたタクミの顔には、先ほどよりもずっとわかりやすい直接的な怒りの表情が浮かんでいた。
「誰が間抜け王子だ! なんなんだよあんた!」
「僕は暗夜王国の王子レオンだ。以後お見知りおきを」
「はあっ!?」
 レオンは右手を胸に当てて軽く会釈した。殊更丁寧に優雅に行ったその動作は、タクミの怒りを一層駆り立てたようだった。弓こそ下ろしはしたものの、タクミの勢いは止まらなかった。
「暗夜の王族がなんでこんなところにいるんだよ!」
「『来てくれ』って言ったのはそっちだろ。一緒に戦って欲しいんじゃないの」
「僕はそんなことは言っていない。言ったのはカムイ姉さんだ!」
「だから僕もカムイ姉さんのために来たんだ。断じてお前のためじゃない」
「だったらこんなところでいつまでもサボっていないでカムイ姉さんのところに行けよ! だいたい余計なお世話なんだよ。あんな奴、僕一人でやれたんだ」
「ふうん。その割には苦戦しているように見えたけど」
 レオンはタクミの焼け焦げた右袖を指で示す。タクミはあわてた様子で右袖をレオンから見えないように背中側に隠した。
「とにかく、僕がやるつもりだったんだ! 勝手に手を出しておいて、いいことしたつもりになんてなるなよな!」
 タクミはぎゃんぎゃん喚いてはレオンへの文句をひっきりなしに連ねてきた。ここまで一言の礼もない。
 近くに味方の兵はおらず、弓が苦手とする魔法相手に大きなダメージを受けていて、誰がどう見たって大ピンチだった。それを助けてやったというのに、タクミはその事実を絶対に認めたくないようだった。
――なんでこんな奴のこと女だと思ったんだろう。
 女性だから弱いとか守ってやるとか、そういった心がけはレオンにはなかった。女性が弱いわけではないのは身近にカミラがいるからよくわかっている。
 ただ、これから白夜軍と協力するにあたって、白夜兵を守ったという実績があれば先方への心象もよくなるだろうと踏んでの行動だった。兵が男性でも助けるつもりではあったが、今までの経験上、女性のほうが助けた後のこちらへの感謝の気持ちが大きくなる傾向がある。だから都合がいいと思ったのだ。
 ところが蓋を開けてみれば助けたのは男で、さらには白夜の王子だった。
 白夜王子タクミは噂通りの気難しい性格のようで、レオンへの感謝どころか初っ端から文句ばかりだ。助けたことで、なけなしのプライドでも傷付けてしまったのだろう。こんなことになるとわかっていたら助けなかったのに。こうなったのもタクミを女だと勘違いしたせいで、女と勘違いしたのはあの髪のせいだ。やたらと長くてさらさらと揺れる、あの。
 レオンがうんざりしながらもタクミを適当にあしらっていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。カムイだ。
「レオンさん! こんなところにいたんですか。タクミさんも一緒だったんですね」
「好きで一緒にいるわけじゃないよ」
「僕だって!」
「マクベスは兄さん達と倒しました。レオンさん、来てくれてありがとうございます。とても心強いです。タクミさんもありがとうございます。マクベスを倒せたのは皆さんのおかげです」
 カムイはレオンとタクミにそれぞれ笑顔で声をかけ、それでようやくタクミの文句が収まった。
 皆に紹介するからと言われてレオンはカムイの後を着いていった。その横をタクミが駆け抜ける。
「先に行ってるから」
 カムイにだけ声をかけ、タクミは林を抜けて走って行った。その背中の上で長い髪が左右に揺れる。ぎゅっときつく結ばれたその髪は、彼の気難しさを表しているかのようだった。