匣舟
2026-02-22 09:59:55
5244文字
Public RKRN
 

暖を取る効率の良い方法

冬リクで頂きましたイルミデートをする三乱です。
リクエスト頂きありがとうございました‪ෆ‪.*・゚


 きらきらとイルミネーションが光り輝くこの季節。どこもかしこも外に出歩けばイルミネーションがあって、乱太郎が掛けている眼鏡の奥にある瞳までその光が届いて目がチカチカしそうだ。乱太郎が恋人と待ち合わせている駅前もイルミネーションが輝いており、そこで戯れている恋人たちの姿が乱太郎の目に入った。
(まだかなあ、三治郎。)
 イルミネーションを見ながら手を繋いで歩いている恋人たちを見ていると、自分の恋人に早く会いたい気持ちになってきた。早く来ないかな。と思いながら、手に持っている携帯の画面をタップして、携帯を起動させてみたものの、新着の通知はありません。という文字が表示されていて、仕方なく携帯を持っている腕を下ろす。
 いつも自分の不運に時間を左右されるから集合時間より十分早く来るのが乱太郎のモットーなのだが、いかんせん今日は早く着きすぎた。集合時間の三十分前に到着してしまったのだ。そりゃあ、三治郎はまだだよなあ。と現実を目の当たりにして、携帯をコートのポケットにしまう。
 恋人である三治郎とは同じ大学で学部は違うけども、ほぼ毎日大学構内で顔を合わせているのだが、会ったとしても二人ともゼミやバイトで忙しく、一分に満たない程度の逢瀬を約三か月間程度続けていたので、今日のデートは待望の長時間誰にも邪魔されずに逢瀬できる日なのだ。
 だから、今日の乱太郎は朝に目を覚ましてからいつになくやる気に満ち溢れていた。いつも後回しにしてしまう洗濯だってちゃんとしたし、また今度でいいかな。とさぼってしまう家の掃除だって掃除機もかけて、さらに雑巾がけもして、最後に寒かったけれど、家の換気だってした。
 それから休む間もなく一週間の買い出しに行ったし、作り置きをして、洗い物もして、最後にデートに行く服装をあーでもない、こーでもないと自分一人で鏡の前に立ってファッションショーだってした。それほど久しぶりの三治郎とのデートが乱太郎の中で楽しみだったのだ。
 最終的に自分が良いと思う最高のコーデが決まった時には綺麗だった部屋が汚くなっていて、もう一度綺麗にした話は割愛させていただくが。
 きっと三治郎と久しぶりにデートができることに浮かれていたのだろう。と乱太郎は恥ずかしながらもそう考えながら、もこもこのマフラーに顔をうずめながら自分の火照っている顔を誰にも見られないように隠した。
 どうやって暇をつぶそうか。と息をふーっと吐くと、自分の頭上に白い息がもくもくと浮かび上がった。冬だから寒いのは当たり前なのは分かっているが、それにしても今日は寒い。暖かい裏起毛の服を着てきたし、厚手のコートも、暖かそうなマフラーも、ニット帽だって被ってきたのに、その温かさを貫通してしまうほどの寒さだった。
 そういえば、今日の朝やっていたテレビの天気予報のキャスターが、きょうは記録的な寒さになりそうだからもしかしたら都心でも雪が降るかもしれない。と言っていたことを今、なんとなく思い出して白い息を吐きながら空を見上げると、ちら、ちらと白い小さなものが空から降ってきていて、それがあたり一面に舞っていた。その白い小さなものが雪だと気づくのに、乱太郎は数秒かかった。
(わ!本当に雪だ!)
 もう子どもといえる年齢でもないのに、柄になく雪が降ってきたことに乱太郎は少し興奮していた。コートに隠していた手を自分の胸の上くらいに突き出して、ふわふわと地面に降り積もろうとしている雪を手のひらに着地させて溶ける瞬間を見守るぐらい、乱太郎は雪が降ってきたことにはしゃいでいる。
 なぜ、こんなにも乱太郎がはしゃいでいるかといえば、都会ではあまり見ることがない光景だからだ。普段住んでいるところでは雪が降ることは滅多にないし、雪が降ったとしても積もることはほとんどないので、なかなか見ることができない光景だから雪を見られることが嬉しいのである。
 ちらちらと降ってくる雪に夢中になっていると、自分の背後から走ってくる足音が聞こえた。もしかしたら三治郎かもしれない。と舞い落ちる雪を乗せようと手を広げるのをやめて振り返ろうとしたときだった。急に背中に温かい人肌を感じたと思ったら、次の瞬間には抱きしめられていることに気が付いた。
「へ……?」
「ごめんね。待たせちゃった?」
 自分の耳元でよく知っている声が聞こえて、思わず胸が高鳴る。だって、ずっと待っていた愛おしい人の声だったから。
「三治郎?」
「うん、遅れてごめんね?」
 遅れているも何も、自分がこんなに早く着いてしまったのが仇になっているんだから、三治郎は何も謝ることなんてないのに。と思いながら、自分の体を包み込んでくれるこの暖かさに安心してしまい、彼に背中を預けて体重をかける。
 すると、三治郎はあわわ。と情けない声を出してバランスを保とうと地面に脚を踏ん張っていて、そんな三治郎を見て乱太郎は無意識に笑ってしまった。
寒かったでしょ。」
 三治郎はそう言いながら、乱太郎がコートのポケットに入れていた手を取り出して自分の両手で乱太郎の手を包み込みながら自分の口元に近づけてハアッ。と息を吹きかける。
 そして、自分の体温を分け与えるかのように指と指を絡ませてぎゅっと握った。そして、そのまま乱太郎の手を自分のコートのポケットに入れてしまい、おまけと言わんばかりに乱太郎の頬に軽いキスをした。
 突然の出来事に乱太郎はぽかんと口を開けてしまったが、次の瞬間には頬と耳まで赤く染まってしまい、その赤く染まった顔を見られまいと俯いて、三治郎の腕の中から脱出しようと身じろいだが、三治郎によってがっちりホールドされていて逃れることはできなかった。
 久しぶりだからか、三治郎のスキンシップに対する免疫が薄れており、少し触れられるだけで心臓はバクバクうるさいし、顔が赤くなってしまっていて、このままでは心臓がいくつあっても足りない。と乱太郎は心の中で嘆きながら、三治郎の前では平常心を装うようにした。
「も、もう。誰かに見られてたらどうするの。」
「大丈夫だよ。みんな、雪とイルミネーションに夢中で僕らのことなんか眼中にないよ。」
 それに、あったかくなったでしょ?と耳元で三治郎に囁かれてしまい、また乱太郎の体温はぐんぐんと上がった。今日の三治郎はいつもより積極的である。
 たぶん、いや絶対三治郎も久しぶりのデートでテンションが上がっており、行動も大胆になっているのだろう。乱太郎が三治郎の方に振り向くと、やっぱり三治郎の顔は赤く染まっていて、ちょっと照れ臭そうに笑っている。
そんなこと言いながら三治郎も赤くなってるじゃない。」
……ば、ばれちゃった?」
 そんなやり取りをしていると目が合い、どちらともなくふふ。と小さく笑い、どちらともなく三治郎のポケットの中で繋がれた手を離さないようにぎゅっと強く握り直し、ふわふわと雪が舞うイルミネーションが光る街並みを歩く。そう、今日の目的はイルミネーションを見ながら駅前に出店しているクリスマスマーケットに行くことだったのだ。
 二人が歩いている道は広くてクリスマスマーケットに来ているカップルや家族連れが多く、雪が降っているせいか、かなり混雑している。イルミネーションと雪が合わさることによってクリスマスマーケット自体が幻想的な雰囲気になっているのも原因の一つなのだろう。乱太郎と三治郎もその雰囲気に当てられ、どちらからともなく指を絡めるような繋ぎ方に変えていった。
「三治郎。なにか食べたいものとかある?」
「うーん、僕は特にないかな。乱太郎はなにか食べたいものあるの?」
「うーん……。あっ、じゃあホットチョコレート探してもいい?」
 温まりそうじゃない?と乱太郎がそう言うと、三治郎はいいね。と笑ってくれて、乱太郎と三治郎はホットチョコレートが売っているお店を探すことになった。クリスマスマーケットの中には様々な飲食店があり、どれも魅力的なものばかりで、周りを見渡して食べ物の写真が映し出された看板を見るだけでもワクワクするぐらいだ。
 どこにあるのかな?と考えながらお店選びをしている最中にも乱太郎と三治郎はずっと手を繋いだままで、それがなんだか嬉しくなって三治郎との距離を縮めて横にぴったりくっつく。すると、三治郎も乱太郎の肩に寄り添うようにぴったりくっつきながら、二人はどんなお店があるのか隅々まで見渡していた。
「あ、あそこにあるよ。」
 三治郎から軽く腕を引っ張られた乱太郎は、彼が指をさしている先を見ると、ホットチョコレートの匂いが漂う出店があった。そこはホットチョコレートの他にもワッフルを売っているらしく、甘くておいしそうな香りが乱太郎たちの鼻を掠める。二人は顔を見合せて微笑んでから早速、ホットチョコレートとワッフルが売っているお店に向かおうと、人混みを縫いながら進んでいく。
「私はミルクホットチョコレートにするよ。三治郎はどうする?」
「えー、迷っちゃうなぁ。僕はダークにしようかなぁ……。」
 でもほうじ茶とかでもいいなあ。と言いながら、三治郎はメニュー表とにらめっこしながらうんうんと唸っている。その姿がなんだか可愛らしく感じ、乱太郎は思わず微笑んだ。
 結局、三治郎は散々自分たちの注文が来るまで悩んだ結果、ミルクホットチョコレートを選んだ乱太郎とは違うダークホットチョコレートにしたが、余裕があったらほうじ茶も飲みたい!と言いながら、店員さんにホットチョコレートを二つ受け取り、再びイルミネーションが綺麗に飾られた道を歩き出す。
「うわあ、甘い香りめっちゃするね。」
「ね、乱太郎のは匂いからして甘そう。」
「あはは。それにしても雪、結構降ってるねえ。」
「そうだね。この降り方だともしかしたら、明日積もってるかもしれないね。」
「あはは、そうなったら一限目の授業サボっちゃうかも。」
「僕も〜、みんなで授業サボって雪合戦大会しちゃおうよ!」
「うわあ、したい!あとでみんなに連絡しなきゃ!」
 三治郎と乱太郎はそう話しながら、ゆっくりホットチョコレートが飲める場所を探して手を繋いで歩いていると、少し先にあるベンチがちょうど空いていたので、そこに座ることにした。
 三治郎は乱太郎の隣に腰掛けると、乱太郎の肩にもたれかかりながらダークホットチョコレートを一口飲み込んだ。乱太郎もそれに倣うようにミルクホットチョコレートを口に含むと、ホットチョコレートの上に乗っている生クリームの甘さとミルクのまろやかさが口いっぱいに広がって乱太郎は思わず頬が緩んだ。その様子を見て、三治郎はくすっと笑いながら乱太郎の頬を撫でる。
「おいしい?」
「うん。すごく美味しいよ。三治郎も一口飲む?」
 乱太郎は自分のコップを持った手を三治郎に差し出すと、三治郎は首を横に振って、乱太郎の手を握りしめながら乱太郎に寄りかかるように身を乗り出した。そのまま、乱太郎の唇に自分の唇を重ねる。ちゅ、というリップ音と共に離れていったと同時にキスをされた乱太郎の心拍数は自然と上がっていく。
「うん、やっぱり甘いね。」
 そんな乱太郎に三治郎は悪戯っぽく微笑みながらペロッと舌なめずりすると、その仕草に乱太郎の鼓動は更に大きく跳ね上がる。そんな顔が真っ赤に染まった乱太郎の反応に満足したのか、三治郎は乱太郎から身体を離すと、持っていたホットチョコレートに再び口をつけた。
「イルミネーション、綺麗だねえ。」
 三治郎は手に持っていたホットチョコレートをベンチに置いて、周りを見渡しながら呟いた。確かに、街灯と一緒にイルミネーションが飾られていたり、木々が電球で彩られていて、とても綺麗に見える。雪も舞っているおかげで余計にイルミネーションが幻想的に見えているような気がした。
……そうだね、綺麗だねえ。」
 乱太郎は相槌を打ちながら、三治郎と同じ方向に視線を移す。きらきらと輝くイルミネーションの光が雪を反射していて、まるで夜空に星がひときわ煌めいているかのような景色が広がっていた。その景色を眺めているうちに、乱太郎は次第に自分の表情筋が緩んでいることに気づく。
「来年も行こうね。」
「うん、絶対だよ。」
 目の前のイルミネーションを見ながら、二人は繋がれている手を離さないようにとしっかりと指を絡め合う。今、自分はきっとすごく幸せそうな顔をしているんだろうな。と思いながら、乱太郎は三治郎の肩にそっと自分の頭を乗せた。
 すると、三治郎も乱太郎の頭に自分の頭を乗せてくる。そのまま乱太郎は三治郎と肩を寄せ合いながら、暫くの間二人は無言でイルミネーションを眺め続けた。雪は未だに止むことはなく、イルミネーションの光を反射させながら静かに降り続いてゆくのだった。