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Ymi:no
2026-02-22 07:52:19
2399文字
Public
ビマヨダ小話
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奥様はお猫様~家計簿~
猫ヨダナと人間ビマの小ネタ
「
何度
なぁんど
言ったら分かるのだ!」
静かな部屋ににゃーん! と怒号が飛ぶ。浅葱色のエプロンを纏い、腰に手を当てた嫁さんが、唇を尖らせてぷりぷりと怒っていた。
「悪ぃって
……
! 次からは気をつけるからよ!」
両手を合わせ、嫁さんを拝み倒す。嫁さんは他ならぬ、俺のために怒ってくれているのだ。感謝こそすれ、言い返すなどお門違いも甚だしい。
「むう
……
まあ、本気で怒っているわけではない。来月はちゃんと、小遣いを使うのだぞ」
猫から人型になった嫁さんは、俺のためにと家のことをやってくれるようになった。家計管理もその内のひとつで、俺の収入であれそれと遣り繰りをしてくれている。ただ料理して寝るだけだった部屋には随分と生活感が出て、整理整頓や掃除もされていて綺麗で、家計を圧迫していた食費も満足感を減らさずに整えてくれた。今では二人で、ちょっとした旅行ができるまでになっていた。
そんな中で、嫁さんが俺のためにと用意してくれたのが、件の小遣いである。一人暮らしの頃は、料理研究と言っては外食で散財していた。それが小遣いのようなもので、相当な額を使い込んでいたが、嫁さんが朝食に夕食、弁当まで作ってくれるようになり
――
これがめちゃくちゃ美味い
――
ぴたっと止まった。外食で嫁さんが食べられるものもひとつもない。そうすると今度は小遣いの使い道がなく、貯まるままに放置していたら、それがバレて雷が落とされたというわけであった。
❀❀❀
「小遣い、小遣いなぁ
……
」
たぷたぷとスマホを叩き、ECショップを流し見る。何かに使わなければ、とは思うが、どんなものを見てもあまりピンとこない。
「先輩? なにやってるんですか〜?」
「ぉわっ、
……
あー、なんだお前か」
「驚きすぎじゃないですか〜?」
「なんだよ
……
」
けらけらと笑う同じ部署の後輩に、むっと眉根が寄る。
「ほほ〜ん
……
分かりましたよぉ! 奥さんのことでしょ〜」
「ぐっ」
「先輩、奥さんのこと大好きですもんねぇ」
「
……
そりゃあなあ」
「ほらほら話す話す〜! この可愛い後輩がアドバイスしてあげますよぉ」
「むぐ」
「お小遣いの使い道ですか〜」
「おう。使えって言われても、特に欲しいもんもねぇし
……
」
ぽりぽりと頭を搔くと、後輩が口でひゅうと言う。
「ほんとにいい奥さんですねぇ〜。世の男たちはお小遣い少なくて泣いてるくらいなのに」
「そうなんだよなあ」
結婚している同僚たちが、口々に言っているので間違いはないと思う。俺は本当に恵まれている。
「うんうん。お互い想いあってるバカップルな先輩に、後輩ちゃんがアイデアをあげましょう〜」
「本当か?!」
「本当ですぅ。例えばぁ、
――
」
「
――――――――
」
❀❀❀
「帰ったぜ!」
玄関の前に立つと同時に、ドアが開く。
「おかえり」
ひょこっと顔を出した嫁さんに、中へと迎え入れられる。曰くあの小さな猫耳で、外廊下の足音まで拾えるらしい。帰る前に連絡はしているが、それはそれとしてこうして出迎えられると、新婚さんのようで顔がにやけてしまう。
「ほれ、後ろを向け」
「おう」
俺からジャケットと鞄を剥ぎ取ると、ぽすぽすと可愛い足音を立てて戻っていく。靴を脱いでから揃え、後を追いかける。大した長さのない廊下では、あっという間に距離が縮まった。
「今日の夕飯はサグパニールだ」
にっと上目遣いに笑う嫁さんに、自然と頬が緩む。
「日本のカレーも美味いけどよ、やっぱ故郷の飯が恋しいよなぁ」
「んっふっふ〜、だろうと思ったわ! お前の手料理の方が美味いがな、それでもわし様もミルクの味は格別だと思うのだ、
――
んむ」
ぎゅっと抱き寄せて、唇を重ねる。可愛いことばかり言う口は塞いでしまうに限る。
「どうした? シたいのか?」
まるんとした赤紫の瞳が、不思議そうにこちらを見遣る。
「シたいのはいつもだけどよ。そうじゃなくて
――
あ」
「ん?」
お前が可愛いこと言うから、と続けようとして、ハッと思い出す。
「小遣い!」
「お、おおう
……
?」
ぱちぱちと瞬く嫁さんから鞄を預かり、ポケットを探る。
「ん〜
……
しょぉ
…………
お、出せた」
書類に潰されないよう、内ポケットに避難してあった小さな箱を取り出す。
「ほう。何を買ったのだ?」
手元を覗き込み、興味津々な嫁さんに目元が緩む。
「開けていいぜ」
「? わし様がか?」
首を傾げる嫁さんに、にっこりと笑い返す。
「これは
……
ネックレスか」
「おう。
……
嫁さんにどうかと思ってな」
後輩がくれたアイデア、それは嫁さんへのプレゼントを買うことだった。確かにこれなら小遣いも使えるし、買いたいものなんていくらでも思いつく。
「はへ?」
「小遣いで買ったんだ。な、受け取ってくれるだろ?」
「
……………………
」
「
……
気に入らなかったか?」
しゅんと肩を落とせば、嫁さんが唇を尖らせてそっぽを向いた。
「いや、
……
これはありがたく受け取っておこう。それはそれとして、」
「ん?」
「小遣いは没収だ」
「お、おう
……
? そうか
……
?」
次の月に半額没収された小遣いは、オーダーメイドのシャツに化けた。今後は嫁さんが俺のために、何かしらを選んで買ってきてくれるらしい。
スマホの画面を眺めながら、真っ赤な顔で包みを押しつける嫁さんの姿を思い出す。可愛い。大変に可愛い。
「にやにや通り越して、でれでれじゃないですかぁ〜」
茶化すような後輩の声に顔を上げる。
「おう、お前のおかげで助かったぜ! ありがとな!」
「それはよかったですぅ」
礼を伝えれば、後輩がひらひらと手を振った。そのまま去っていく背を見送り、改めてスマホに視線を落とす。ロック画面には、ネックレスをつけた嫁さんと新しいシャツを着た俺が写っていた。
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