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カズシ
2026-02-22 01:53:22
3141文字
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歳勇
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走れイサミん
近藤勇は激怒した。必ずやあの邪智暴虐の男根をどうにかせねばならぬと決意した。近藤に土方の気持ちは分からぬ。自分は剣士である。刀を振り、人を助けて暮らしてきた。だが、土方のデカい男根には人一倍敏感だった。
こんなはずではなかったのに!と、内心で喚き散らして近藤は居住区の通路を競歩もかくやというスピードで闊歩していた。黒い羽織姿は白い廊下でよく目立つ。ついでに溢れんばかりの赤黒い魔力を霧のように纏っているのですれ違うサーヴァントが何事かと振り返る。
これは良くない兆候だと人目を避け、なんとか自室に戻ろうと通路を曲がった時、正面から歩いてくる男と目が合った。今一番会いたくなかった相手だ。
「あっ」
と言う間に、土方が鬼の形相になる。普通に怖い。白い自分にはそんな顔しないくせに、近藤差別だ。訴えてやる。しかし脳内裁判で勝訴を掲げる前に、土方は長い脚のメリットを遺憾無く発揮し駆けて来た。一歩で詰めてくる距離が大きすぎて距離感が狂いそうだ。瞬きの間に怒髪天を衝く男の顔が近づいてくるなんて、子供が見たら夢に見そうな迫力である。まあカルデアにいる子供はだいたいサーヴァントなので夢は見ないが。だが瞼の裏に焼き付きそうなインパクトがある。とても怖い。反射的に回れ右をする。逃げねば。
「逃げるな!」
「嫌だ!」
背後から響く雷轟の様な声がこちらの行動を咎めたが、捕まったら最後、狼に食われる兎になるのは火を見るより明らかだった。まさに脱兎のごとく。近藤は猛スピードで廊下を駆け抜け自分に割り当てられた部屋の前へとたどり着いた。急いでドアを開き、閉めようとする。が、閉め切る前に土方のブーツが音を立てて差し込まれた。行儀の悪い足に反して、ドアはお行儀よく来訪者を招く様に再び開かれる。なにやら裏切られた様な気持ちになりながら、近藤はジリジリと後ずさった。兎の次は袋の鼠だ。
「あんたな、そんなになるまでなんで放置してんだよ」
閉まったドアを背後にして土方が呆れた様に告げる。獲物を追い詰めた余裕からか、先程よりも冷静だ。なので彼の言葉が余計に刺さった。
「う
…
っ」
そんなになるまで。とは、今も近藤の身体から舞うマガツヒの魔力だろう。燐光の様に散るそれは、空気に溶けるように消えていく。これを発散しなければ周囲を巻き込む厄となるのは重々承知している。別に自分も好きで放置していたわけではない。シミュレーターは皆が使いたがるので中々個人では使わせて貰えない事も考慮して行動しているつもりだ。しかしイレギュラーは起こるのだ。
「き、昨日の朝までは、普通だったんだ」
土方のじっとりと責める視線から逃れる様にソッポを向き、もにょもにょと言い訳を述べる。
「夜に、甘味のぶっへ? と、やらがあるからとマスター誘われて
…
、たくさん食べた
……
から
…
か?」
食事とはサーヴァントにとって効率は悪くとも魔力供給の手段である。昨日食べた西洋の菓子を思い出す。いっぱい食べていいからねとマスターである立香の言葉に甘えたのがいけなかったのか。厨房を仕切るサーヴァント渾身の出来だというケーキは三つも食べてしまった。また食べたい。
舌の上で蕩ける生クリームの食感が蘇り、近藤は頬を緩めた。涎まで出そうだ。
「ほぉ~? それが原因で? 思ったより早く? その良くねえ魔力が溜まったと?」
だが土方の地の底から這い出る地獄の様な声を聞いていると、涙の方が先に出そうだった。腕組みした男が威圧感と共に顔を覗き込んでくる。一歩飛び退いて近藤は喚いた。
「不可抗力だっ!」
「それはそうかもしれねぇが」
言いながら、土方の手が伸びてくる。それをベチンとはたき落として、近藤は細い顎をツンと反らせた。
「嫌だ」
「まだ何も言ってねえし、してねえし」
そこまで告げて、男は意地悪そうに口角を上げた。
「何をされると思ったんだ?」
分かりきった事だった。以前にも、想定外にマガツヒの魔力が溜まるのが早く、この男に見つかった事がある。その時は、もう他に手段が無いと土方に縋ったわけだが、その後の事は筆舌に尽くしがたい。まさに精も根も尽き果てるといった惨状で、魔力どころか体力まで根こそぎ持っていかれた。つまるところ抱き潰されてしまったわけである。指一本動かせなくなるなど、体力には自信があっただけにこれには近藤のプライドが大変に傷ついた。
「い、一度、寝たぐらいで分かったような顔をするな」
なので、つい突き放した言い方になるが、土方は小動物でも見るような眼差しを向けてくる。
「じゃあ何回ヤッたらいいんだ?」
「え
…
」
あけすけな物言いだが、質問の形式を取られた近藤は思わず真面目に考えてしまった。二回は、流石に少なすぎるか。三回も、二度有ることは三度あると言うし流れで起こりそうだし。
「
…
七回?」
考え込んで出した答えは、単純に一週間毎日すれば流石にOKだろうという謎の理論だった。何がOKなのかは近藤にも分からない。だが土方はなるほどと深く頷いた。
「じゃあ今日あと六回するか」
目の前がすうっと暗くなる。あまりの衝撃に退去が始まったのかと思ったが、単に目眩がしただけだった。一回で息も絶え絶え、座に戻されるかと覚悟をしたのに、それを六回。もはやそれは拷問では。いやこの男、拷問は得意だったか。間者の足に釘を刺していた男は、男根を挿すのも得意という事なのか。挿される方の身にもなって欲しい。断固許しがたい。男根だけに。
「裏局中法度裏局中法度裏局中法度」
悪霊を退散させる呪文のように自らのスキルを連呼する。土方に効きが悪いのは承知の上だが無いよりは良い。その証拠に、土方の動きがやや鈍くなった気がする。隙を見て逃げよう。そうしよう。しかし出鼻をくじかれた。
「前も思ったんだが」
「なんだ!?」
自棄っぱちだが律儀に返事をする近藤に、土方は首を傾げた。
「その裏局中法度ってどんな内容なんだ」
「
……
ん?」
改めて聞かれると、さてどんな内容だったかと思考が土方から逸れる。その隙を見逃す男では無かった。腕を捕まれ寝台へと放り投げられた。背中を柔らかな感触が受け止める。もうオシマイだと近藤は大の字で天井を見上げた。シミ一つ無い白い天井を背景にして、土方が伸し掛かってくる。
「う~
…
」
情けない声でこれから自分に降りかかるであろう事を嘆くと、目の前で赤い瞳が眇められた。美味しい餌にありついた獣が浮かべる満足げな目だ。
「ちゃんと気持ちよくしてやるから」
お前それ白い方や煙管を咥えた方にも言えるのかと憤慨したくなるが、鼻先に唇を落とされては何も言えなくなる。
「せめて明かりを消してくれ」
「あんたの顔を見てやりてぇな」
希望は素気なく却下された。だがここで引いてはチンチン・チャンバラ・ジ・エンド。こちらの負けである。
「虎徹が光るから大丈夫だ」
なおも引かない近藤からいきなり水を向けられた刀が戸惑うように明滅した。主人の言うことは聞いてやりたいが、男がまぐわう場面でのライトアップなんぞしたくはない。という心が聞こえてきそうだった。
虎徹は渾身の気持ちを込めてピカピカと光っているように見えた。S・O・S。モールス信号だ。
「嫌だってよ」
無情である。万策尽きるとはこういうことだろう。いやまだ最悪を回避する手立てはある。
「歳」
唇がなぞった名前に、そういえば今日まだこの男を名前を呼んでいないと気がついた。呼ばれた男が目を合わせてくる。
「
……………
せめて、二回にしてくれ」
折れに折れた提案に、土方が顔を寄せてくる。
「了解だ、近藤さん」
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