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やまだ
2026-02-22 01:08:22
1650文字
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羅小黑戦記
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2021.5.18 これもweb版32話を見たときの感想文
「師匠、ぼく朝になったら行くから」
「そうか」
焚き火の様子を見ながら何気ない声をこぼす小黒に、无限も火を眺めつつ普段どおりの相槌を返した。
梅雨の合間にぽかりと晴れた、ぬるく湿度の高い夜だ。おそらく明日も晴れるだろう。无限が与えた任務に向かうにあたり、小黒はよい日を選んだ。
妖精館の執行人になる、と高らかに宣言してみせた小黒へ、ならばこれくらいこなしてみせろと課題を出した。与えた任務をすべて達成すれば、无限から館に推薦するという確約をつけている。
第一の任務は、この大陸のどこかにある藍渓鎮という秘境へ辿りつき、かの地で隠棲する神仙老君に持ちかけた交渉で結果を出すことだ。場所や交渉の条件についてはある程度の示唆をしたが、それ以外は何も告げていない。普段ならどんなことも納得するまですっかり知りたがる小黒も、さすがに質問を控えている様子だった。
期限はない。いつ行ってもいいし、いつまでも行かなくとも構わない、おまえがそれを本心から望むのなら、ともう告げてある。小黒がこっくり頷いたのはまだ梨の花が咲くころだった。
「ね。老君って人、おっかない?」
「穏やかで明朗な方だ。慈悲深く、お優しい」
「ふーん?
……
師匠より?」
「比べるべくもない」
ぱちんと弾けた火花が小黒の鼻先まで舞い上がった。
唇を尖らせて小さな炎を吹き消す顔があどけなく、初めて会ったころの膨れ面を思い出す。声なく笑うとすぐに気づいた半目にじろりと睨まれた。
「なに」
「なんでも。
……
老君にお会いしたら、くれぐれも粗相のないように。おまえは初対面の相手に対してかたくななところがあるから」
「ぼくが藍渓鎮にたどり着けないとか、行っても老君に会えないとか、思わないんだ?」
「思わないさ。そんな不出来な弟子をもった覚えがない」
无限は小黒を信じている。
一度やると決めたらやり遂げる意志の強さを知っている。孤独を厭う優しさを知っている。人見知りのくせに好奇心が強くてすぐ警戒を解いてしまう、その素直な性根を知っている。きっとこの子は老君の前に立つだろう。
「小黒」
「うん」
あんなに小さかった子が、いつの間にか自分で道を選べるほど大きくなってしまった。焚き火越しに手を伸ばしてごしごし撫で回すようなまねも、もう控えなければならないだろうか。小黒は目を細めて无限の好きにさせてくれている。
「任務は任務だ。本気で取り組みなさい。だが決して無理はしないように」
「うん」
「思い詰める必要もない。やりたいようにやってみろ」
「うん」
「腹が減っても食い逃げはするなよ」
「うん、もちろん。師匠じゃあるまいし」
ふ、と笑って小黒の額を小突く。のけぞって大袈裟に痛がってみせた子が、ずるずると尻を擦って无限の隣へやって来た。姿勢を崩し、胡坐でいる无限の膝にこめかみを乗せて火を眺める。
「師匠」
「うん」
「ぼくずっと小さいままでいたかったなあ
……
」
わかるよ、とは言わない。言えば小黒は旅立ちを諦めるだろうし、无限もそれを喜びとともに認めてしまう。未来を閉ざした小黒と、いつまでもふたりだけで幸せな旅を続けることになるだろう。その空想のなんと甘美なことか。
白い髪を撫でながら无限が浮かべる苦い微笑みを、小黒は知らずにいる。それでいい。
行くと決めた小黒を、无限は彼が誇れる師の顔をして送りだすと決めたのだ。
「本当に?」
「
……
ううん。でもちょっとは本当」
「そうだな」
「師匠」
「うん?」
「今日一緒に寝てもいい?」
火の色に輝く髪を撫でつつ、ふ、と笑う。拗ねたように膨らんだ類も赤いが、首まで同じ色に染まる様子を見るにこちらは焚き火のせいではない。
「いいよ」
照れ隠しに鼻を鳴らすこの子が、任務を終えたときはたしてどんな顔で无限のもとへ戻ってくるのだろう。
明日からはそれが楽しみのひとつになりそうだ。
微笑んで、无限は小黒の頭を撫でる。
「私もそう頼もうと思っていた」
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