みぎあね
2026-02-21 18:08:46
3607文字
Public うちよそ
 

おこぼれティータイム

送れる荷物のサイズに制限がないモグレターが悪い。
―――――――――――――――――――
以前、フレンドさんのお家にお邪魔したお礼でチョコを贈ったら、お返しに素敵なお話を貰ったので、更にそのお礼的な何か。
うちの子sideのこぼれ話。

〇登場人物
ラティ……うさお。愛称がラティ。リムサのFCハウスに居候している。
ク・クィ……オスッテ。FCマスターで家主。巷では英雄と呼ばれている冒険者。
店主……うさお。フレンドさんからお借りした子。グリダニアにある雑貨店の店主。

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そういえばチョコを貰ったんだよね。

窓から入る潮風が心地よい、日も高く昇ったお昼時。適当な昼食でお腹を満たし、いつも通りFCハウスでごろ寝をしていたラティの耳が一つの足音を拾った。
一週間ぶりに帰ってきた家主に変わったことはなかったか聞かれ、「いつも通り何も無かった」と適当に返した後、あっと思い出してラティは報告を付け加えた。

「チョコ?」
「ヴァレンティオンの時期だったでしょ?グリダニアに遊びに行った時に寄った雑貨店でさ」

ソファで寝転がるラティは足を組み直して、あの時のことを思い返す。
イベントで浮き足立つ街中を散策している時のこと。店先にちょこんと出ている看板をたまたま見つけ、何ともなしにふらっと立ち寄ったのがその店だった。

「そこの店主が良い人でさぁ。店の雰囲気も良かったし、お茶淹れてくれるって言うから長居しちゃったよね。で、おまけにサービスでチョコのお土産も貰ったわけ」

季節に合ったサービスは顧客の購買意欲を刺激するいい案だと思う。こじんまりとした隠れ家的な店だったが、あれは常連客に愛されるタイプの良いお店だ。
何ともなしに軽いノリで話したラティに反し、話を聞いた家主――ミコッテ族の青年ク・クィは、何やら唸って難しそうな顔をした。

……いや、ただのサービスにしては至れり尽くせりすぎるだろう。顔なじみでもないのに。流石に何か返すべきだ」
「真面目だなぁ……

その生真面目さがク・クィという青年の美点でもあり面倒くさいところでもある。"長い生を悠々自適に生きる"をモットーにしているラティにしてみたら、そんな性格は生きづらそうで堪らない。
兎にも角にも、早速長い尾を揺らして行動を開始した青年の姿を眺めながら、ラティは深くソファに沈み込み、己の長い耳の裏を掻いたのだった。

◆・◇・◆
さて、何をお礼にするか既に決めているのかいないのか。ク・クィがまず最初に行ったことは、FCハウスの共用キッチンのカウンターに、愛用鞄の中身をぶち撒けることだった。

それはもう、豪快に。

亜空間に繋がっているという噂の鞄から溢れ出てきたのは、大量のハート型のチョコだ。一体幾つあるのか。カウンターに乗り切らず、雪崩を起こしている様はまさにチョコの滝である。絶景かな。
ついでにそれに混じって、よく分からない瓶や草や石なども一緒に出てきてしまっているのだが……
ゴロゴロと、勢い余ってラティの元までチョコボ用キャベツが転がってきた。拾い上げてみると、ずっしりと重い。いいキャベツだ。たぶん。知らないけど。

「ところで、失礼なことはしてないな?」

問いかけに、んあー、と適当な返事を返しながら、戯れにキャベツの葉を一枚千切る。瑞々しくていいキャベツだ。専門外なので適当な評価だけど。

「失礼なことってなぁに?例えば――

ゴンッ!

魔導書の角が脳天に突き刺さるのは、言葉が音になるよりも速かった。
ただの魔導書と侮るなかれ。ヒーラーに在らざる三桁のダメージを叩き出す学者の腕力で叩き込まれたソレである。
突如襲いかかってきた星が飛ぶ程の衝撃に、ラティは堪らずソファから転げ落ちた。

「〜〜っ!!まだ何も言ってないんだけど……!」
「節操無し。どうせロクなことじゃない」

無様に床に転がり悶絶するラティを他所に、チョコボ用キャベツを回収してク・クィはさっさとキッチンへと引っ込んでいった。

「いってぇ……いや、おれ、人妻に手を出すほど屑じゃないし……

美人だったけど。顔はタイプだったけど。
生憎、今の好みは年下だ。齢三十ちょいの若兎より下がいい。同族だから分かるが、あの人は間違いなく上だ。それも、うんと。
ラティは先程の一撃でまだ痛む頭を抑えながら、ソファになんとか這い上がった。

「夫婦で営んでいるのか?」
「そうそう。確か、店主の名前が――

名を口にすると、思い当たる節があったのか、ああ、と返事が帰ってきた。

「知り合い?」
「以前ウルダハで物盗りに遭ってた人だ」

曰く、ク・クィがマーケット通りで買い物をしていた時に、通行人のポケットから財布が抜き取られる瞬間を偶然目撃。逃げる犯人を反射的に追いかけて、その背中に飛び蹴りをかまして捕まえたのだという。
犯人はその後不滅隊に引き渡されたが、あのヴィエラの店主はその時の被害者という訳だ。

「彼は盗られたことにすぐ気づいていた。歩き方や体幹からしても一般人ではなさそうだったから、いらない手助けだったかもしれないな」
「へぇ、あんたがそう言うなんてよっぽど腕が立ちそうなんだ」

貶しているわけではないが、自分にはそうは見えなかった。
氷菓子のような繊細な感じの人。
紅い瞳の奥に秘めている、強い信念のような何かはひしひしと感じたが、如何せん全体的に線が細くて戦えそうなイメージはあまり湧かなかった。
能ある鷹は何とやら。やはり見た目だけでは人間は全く分からないものだ。

「世界は狭いね。もしかしてパートナーの人とも会ったことあるんじゃない?」
「どうだろうな……

……ところで」

ふと、キッチンに立つ調理師の声のトーンが下がった。

「家族構成といい名前といい、どさくさに紛れて個人情報を聞き出しすぎじゃないか?やっぱり……
「違う違う違う!変なこと考えてないって!信じて!」

段々と剣呑な眼差しになり、手に持ったフライパンの柄を握り直す姿に、ラティは慌てて立ち上がって必死に弁明する。
日頃の行いが悪すぎた。もっと節度ある行動をしよう。暫くは。

◆・◇・◆
それから約2時間後。
普段は団欒などで使われるテーブルの上には、長身のヴィエラ族ですら見上げる程の、小山のような立派なチョコレートケーキが聳え立っていた。
艶やかなチョコレートと、ふわふわなチョコクリームで飾られたケーキは芸術品のようである。味も間違いないだろう。
……だが、如何せんサイズがサイズなだけに見ているだけで胃もたれしてくる。

「思ってたよりも大きくなったが……まあ、いいか。配達士なら運べるサイズだろう」

無理がある気がする。とても。

モグレターのサイズ制限なんて気にしたこともないので分からないが、少なくともモーグリが悲鳴をあげる姿は想像できる。
最後の仕上げを終えて満足気に尾を揺らすシェフを横目に、この配達を担当するであろうモーグリに心の内で祈りを捧げた。
ラティがそんな哀れなモーグリに思いを馳せているなど露知らず、チョコレートケーキを見上げて固まっている姿に、ク・クィは訝しげな目を向けた。

「言っておくが、つまみ食いしたら殴る」
「いや、いや……、流石にこのサイズは見てるだけで満足かな……

呆れを含んだ苦笑いで返すと、へぇ、とク・クィはわざとらしく腕を組んだ。

「じゃあ余ったチョコで作ったケーキもいらないな」
「えっ!?」

振り返ってキッチンカウンターの上を見れば見れば、いつの間にかホールケーキが置かれていた。
小山ケーキに比べたら随分小さく感じるが、普通サイズの美味しそうなチョコケーキである。
いるいるいる!
意地悪なシェフに取り上げられる前にさっとお皿をズラして確保する。
しかし、あれだけ大きなヴァレンティオン・チョコレートケーキを作っておきながら、なおホールケーキをオマケで作るとは……。一体いくつのチョコを溶かしたのだろうか。総カロリーを考えるとゾッとする。

「一人で全部食べるなよ」
「言われなくても皆の分は残すよ」

キッチンにケーキを切り分ける為のナイフを探しに行く。足取り軽く、るんるんと。現在は不在の他二人も、帰ってきたら喜ぶに違いない。

巨大ケーキにブリザガを応用した保冷魔法をかけながら、ああそうだ、と思いついたようにク・クィが口を開く。

「後で住所を教えてくれ。今度、俺もその店に行ってみるとしよう。腕に覚えがあるなら、ぜひ話も聞いてみたい」
「いいと思う。それよりケーキ食べるよね?お茶淹れるよ。ドマ茶でいいよね」
「自分から茶を淹れるなんて珍しい……、ケーキにドマ茶?」

甘くて濃厚なケーキに甘い柿のお茶。甘い香りが漂う甘々な午後三時のティータイムに向けて、ラティは腕を振るってお気に入りのお茶を淹れるのだった。



ちなみに、荷物を受け取りに来た配達士モーグリの悲鳴が街中に響き渡るのは、これから程なくしてのことである。