コット
2026-02-21 17:42:54
1889文字
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トラルの海🌊と、うたた寝🌴と

アルカディア闘士たちがトライヨラに来る話


 温度差兄弟×うちのコ♀
 もちろん距離感は近い なんでだろうね

 今書いている中編の後の話
 早く本を出せ はい


「波、来ねェな」
「来ないな……
「凪ですからね」

 風もない快晴の今日。
 サーフボードを抱えたまま、三人並んで浜にぺたりと腰をおろし、ただ海を眺めている。

 トライヨラについたオレたちは、ほぼ毎日海に通っていた。自然の波に乗るのにもようやく慣れてきた。
 毎日子どものように夢中で遊んでいたが、今日のような、まったく波のない日は初めてだ。

 なぜオレたちの間に名誉統一王者さまがちょこんと座っているのかと言えば、数日前、ビーチで現地の者と喧嘩になったのが原因だ。
 波の取り合いでちょっとした口論となり、あっという間に派手な喧嘩に発展して、ちょうど近くを通りかかった彼女によって鎮圧されたのだ。

 ザ・タイラントは、オレたちの強制送還を申し出たが、旅の立案者である彼女はそれを断り、責任を持って直接監視をすることで手打ちとなった。


「暇だなァ」
……あぁ」

 あぐらをかいた膝に肘をついてぼんやりとつぶやく。

「でも、たまにはのんびりするのも、悪くないですね」

 ふふ、と彼女が微笑みをもたす。
 何かあったときのためにと、彼女もちゃんと水着姿だ。残念ながら、素肌の出ないライフセイバースタイルだが。

「なんかお話ししてくれよ〜」
「じゃあ、海の中でも呼吸ができる不思議なおまじないの話。聞きたい?」
「なにソレ。気になりすぎるじゃん」
「聞きたい」

 静かな海を眺めながら彼女が語りだしたその物語は、まるっきり現実感のない御伽話のはずなのに、妙な臨場感があって、わくわくと心が浮き立っていく。

――そうして、英雄は、全ての世界で、海の底を歩く術を手に入れたのでした」

 お話が終わり、思わず身を乗り出す。

「なぁ! そのまじない、オレたちにもかけてもらえねェ?」

 くすくすと笑う彼女が、小さく首を傾げた。

「まず、コウジン族と仲良くならなくちゃね」
「どうしたら、仲良くなれる」
「彼らは穏やかな種族だから、誰彼かまわず喧嘩をするヒトには、かけてくれないんじゃないかな」
「うっわ。じゃあダメじゃんオレら」
「けんか、できるだけ、しない……
「うん。良い子」
 
 彼女に頭を撫でられた弟は、恥ずかしそうに小さく笑った。

……波、ちゃんと順番守るか」
「あぁ」
「そんでさ、いつか、そのカメみたいなヤツらにあったら、うんと優しくしてやろうぜ! そしたらまじないを、かけてもらえんだろ?」
……兄者」

 急に声をひそめた弟に、首を傾げて振り返る。

「寝た」

 何が。と思う間もなくすぐに気づいた。
 彼女が、弟の肩に寄りかかったまま、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。

……は? ついさっきまで喋ってたじゃん」
「急だったから、おどろいた」

 小声で会話しながら、顔を寄せて様子を見る。
 顔色は良く、呼吸は穏やかだ。本当に深く眠っているだけで、体調が悪いわけではないだろう。

……どうする、兄者」
「どうするったって」

 寄りかかられて身じろぎもできぬまま、弟は視線でオレに助けを求めた。がし、と後ろ頭をかいて考える。

「とにかく、水着じゃ冷えるだろ。抱きかかえて、あっためてやれよ。お前、体温高ェんだから」
「わかった」

 そっと腕を動かした弟は、見かけによらぬ丁寧な動きで彼女を抱え直す。小柄な彼女は、あぐらの上にすっぽりと収まるサイズだ。腕の中で、安心しきって子どものようにぐっすりと眠っている。

 オレは無言で上着を脱いで、ぱさりと顔の上にかけてやる。

「兄者?」
「ア? まだ陽射しが強いだろ。それに、……こんな可愛い顔、他に見せられるかよ。有料だ、有料」

 そのまま、弟の前にどさりと座り、近くを通る男どもを睨み散らかして威嚇する。

「けんかしないと、約束した」
「まだしてねぇだろ」

 真面目な弟の声に振り返り、それから無防備な彼女を眺める。

……んとに、あんま油断してると、食っちまうぞ」
「兄者は、そんなことしない」

 思わず漏れた声に、彼女を大事に抱えた弟が応えた。

……まー、もうしねェけどよ」

 太陽は、だいぶ傾いている。もう少ししたら、青空と夕陽が入り混じり、この海辺はやがて真っ赤に染まるだろう。そして、夜が来る。

「夜まで起きなかったら、このままアイツんとこ届けてやるか」
「わかった」

 小さく頷いた弟が、宝物のように腕の中の彼女を見る。
 あの頃のオレたちは、こんな日が来るなんて、想像もできなかった。

 穏やかな凪の海、波の音。