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ちよど
2026-02-20 07:52:24
2691文字
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以蔵さんとカルデアの日々
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【番外編】坂本さんとアンデルセンくんの話【帝都騎殺】
以蔵さんとカルデアの日々シリーズ4。坂本さんとアンデルセンくんが話しているだけ。pixivから再掲
締め切りが近くなれば、寝食を削るのは作家の常。
アンデルセンは作家部屋でカルデア会報誌に載せる連載小説の締め切りに悲鳴をあげていた。
「連載形式を編み出した奴は滅びるがいい
…
っ!」
見知らぬ誰かを呪詛しながらタブレットに文字を打ち込んでは消し、消しては打ち込み。スクロールしてはまた消して。頭をかきむしりたくなったアンデルセンの鼻先をふわりと柔らかい香りが漂った。
「おじゃまかな?」
「ここは飲食禁止だぞ。イシンの英雄」
振り返った先にはサンドイッチとコーヒーの乗ったトレイを片手に人好きのする笑みを浮かべた坂本龍馬がいた。
アンデルセンが作家部屋として居座っている図書室は当然ながら飲食禁止だ。一般的な英雄関係の書籍だけではなく、他では手に入らないだろうマイナーな伝承の書籍もあるのだ。うっかりジュースなどで汚してしまっては取り返しがつかない。
「飲食スペースに行く暇がないだろうと思って」
そう笑う龍馬の後ろを、極東の女子学生服を着た女が漂っている。アンデルセンより年代が若いこの男が、どこで自力で浮遊を成し得る程の神秘と出会ったのか。今度時間が出来たら聞いてみたいとアンデルセンは思う。時間が! 出来たら!
「5分。気分転換をしてみるのはどうだろうか?」
「どういう風の吹き回しだ?」
アンデルセンと坂本龍馬はお互いの端末IDは交換したが、そう親しい間柄ではない。少なくとも差し入れする程ではないのは確かだ。
その言葉に龍馬は困ったように眉尻を下げた。
「以蔵さんが迷惑をかけたみたいだから。そのお詫びのようなものだよ」
坂本龍馬の幼なじみである岡田以蔵がこの作家部屋に来て貴重なコピー用紙を難癖をつけて強奪していったのは朝方の事だっただろうか。真夜中ではなかったと思う。徹夜していたのでよく分からない。
アンデルセンは額を押さえて頭を振った。
「おまえのそれは成人男子に対する態度とは思えんな。岡田はお前の息子ではあるまい」
だからお詫びを持ってくる必要はないのだとアンデルセンが言うと龍馬は顔を綻ばせた。
「でも、以蔵さんは僕の恋人だから」
半ばその答えを予測していたアンデルセンだったが、龍馬の表情に思わず目を閉じた。
疲労困憊な徹夜明けに惚気はつらい。
「胸焼けがしそうだ
…
」
天を仰いだアンデルセンに不思議そうに龍馬はトレイの上のサンドイッチを見直した。
「え? エミヤくんに作ってもらったんだけど?」
「そういう意味ではない。生前愛人を囲っていたような男には分からないとは思うが、童貞は配慮がないとすぐ死ぬ」
「死ぬ?それは何故?」
「そういうところだ! 坂本ぉ!」
本気で分かっていない様子の龍馬に叫んでアンデルセンは勢いよく姿勢を戻した。
「はぁ、それはそれとしてさっきからお前の宝具が振り回しているものはなんだ?」
くるり、と龍馬の方に向き直ると、アンデルセンは質問をなげる。気になるのは先程天井を眺めた時に視界の端で動いていたモノの正体だ。
「折り紙だよ」
「お竜さんだぞ」
英霊と宝具がそれぞれ違う事を言う。宝具の女が手に持って振り回している折りたたまれた紙にアンデルセンは手のひらを差し出した。
「意味がわからん。見せてくれ」
アンデルセンの柔らかい少年の手のひらに、女の細い指がそっと独特な形に折りたたまれた紙を置く。
眼鏡のずれを直してアンデルセンはそれをまじまじと見つめた。
「ふぅん、東洋の紙細工か、蛇? なるほど見えなくもない」
観察眼を働かせた少年に見える男に、女に見える龍は何故か胸を張った。
「雑魚ナメクジがくれた。あいつは意外と器用だ」
「子供達にたくさん作ってあげていたよ」
続く龍馬の言葉で物書きとはほど遠い岡田以蔵が何故あれほど大量のコピー用紙を持って行ったのか、アンデルセンの中で繋がった。
「それで書きもしないのに紙を欲しがったのか。理由を話せば快く分けてやったものを」
突如突撃して来た岡田以蔵に難癖としか言いようが無い理由でたかられた時間の浪費を嘆くと、その恋人が軽く頭を下げる。
「その節は以蔵さんが失礼を」
「だから。
―――
いや、もういい。お前もたいがいだが、岡田も相当だな。あの女が似合わない真似をするわけだ」
アンデルセンと因縁がある殺生院キアラは子守りをするような女ではなかった。
それが最近はなんだかんだと言いながら岡田以蔵と一緒に子供達に構っている姿を見かけるようになった。
殺生院キアラを知る人物なら誰もが目を疑う姿に、岡田以蔵だけが彼女が普通の女であるかのように接していた。
―――
岡田以蔵は殺生院キアラを『優しいおなご』だと言う。
洗脳されている訳でも、騙されているわけでもなく。アンデルセンが書いた童話の読み聞かせに同席したという一点だけで、『優しい女』と彼女を判断した岡田以蔵の愚かさをアンデルセンは嫌いでは無かった。
観測することによって観測対象が変化してしまうと嘆いたのは物理学だったか。
人斬りに善きモノとして見られることが、よりによってあの悪性の女に影響を与えるなんて。巡り合わせとはおかしなものだ。
「はっ、まるでままごとだな」
「チチオヤとハハオヤか。ニンゲンはすぐくっつく」
アンデルセンの言葉に意外にも人外の女が答えた。
その横で顔色をざっと青ざめたのはイシンの英雄だ。
「以蔵さんは、殺生院さんのことは友達だと」
「友情が愛情より軽いと誰が決めた? ままごとのような関係だが、偽物が本物にならないという保証はないぞ」
坂本龍馬は岡田以蔵を恋人だと言っているが、岡田以蔵の方はあまり乗り気ではなさそうなのもアンデルセンは何度か見かけていた。
アンデルセンは手に持っていた折り紙を龍馬が持ったままのトレイの上に置く。
代わりにコーヒーを手に取った。
「
…
そんな顔をするな英雄殿、これは童貞からの忠告だが関係のないいたいけな少年に惚気るよりも、本人を構った方がいいぞ」
にやりと笑うアンデルセンに龍馬は肩を落とした。
「以蔵さんは今頃殺生院さんとランチを食べていると思うよ」
だからあぶれた恋人はアンデルセンのところに来たということか。
アンデルセンはコーヒーを一気に呷った。苦みが喉を流れ落ちる。
「俺を巻き込むな!」
「申し訳ない」
と、恋人が女と食事している様子を見るためにアンデルセンの差し入れを厨房に頼んだ男はすまなそうに笑った。
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