他の何を取り繕えても、行動だけは誤魔化せない。
それなら、ヴォーティガーンが家に帰ってすぐに僕へ差し出したシンプルな包装は、とても健気な贈り物だと思う。
他人の皮膚と粘膜の感触が、生暖かくてきもちわるい。
唾液の味が、質感が、どうしたってきもちわるい。
そう思っているくせに欲しい気持ちは止められなくて、大人しく青い目が伏せられる。何も知らないお姫様のように無防備な顔。
何度どろどろに汚しても僕だけに綻ぶ、可愛いつがい。
僕は誰にも見られていないのに勿体ぶった仕草で個包装の封を切って、中の“薬”を自分の口に放り込む。特効薬なんて立派なものじゃない。彼が感じるあらゆる『気持ち悪い』の緩衝剤。
砂糖と油脂という、原始のよろこびのかたまり。
「くちをあけて」
目を伏せたまま、唇がうすく開かれた。
体温が移って溶け出す前に、恋人の口にひとかけのチョコレートを舌で押し込む。
どちらかの何処かの歯にそれがあたる。かろ、と硬い音が頭蓋に反響する。
甘いものを舌で互いに押し付け合って、時折かすかに触れる舌の感触を味わう。
体温と唾液で溶けだした甘いものが口に溜まり始める。その甘露を溢してしまう前に僕が飲み込む音は彼にも聞こえたみたいで、小さな狼狽と羞恥が抱きしめた腕に伝わってきた。
「
…っあ
……ふ
…」
柔らかく、小さくなったチョコを全部譲って、ヴォーティガーンの口のなかを楽しむ。
僕にとっては余計なオプションだけど、甘い塊を介してするキスは、それはそれで気持ちがいい。
ヴォーティガーンの躊躇うような嚥下の音を合図に、行儀の良いキスが終わってしまう。
僕もヴォーティガーンも、口の端すら汚れていない。
キスなんか一瞬もしていないみたいだった。
「僕に何か言う事は?」
甘い名残のありそうな口を開いたり閉じたり。
躊躇うような、渋るような、薄く染まった顔。本当は顔色も眉も動かさないでいられるくせに。
それを見られても、見せてやっても良いと思われているみたいで、それだけで十分僕は満たされる。
「
……ご馳走様」
初出↓
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