ゆうり
2026-02-19 22:05:19
3433文字
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銀色の鳥を探して。

前回の終帝くん右祭りで出そうと思って途中で止まっていたフリ終のクリア後あたりの模造話。
フリファはハーキュリーズです。単純に逃げる右を追っかけて欲しい癖がある。

大氷原の奥地でバレンヌ帝国の千年の時をかけた悲願を果たし、崩れる異空間から飛ばされた先は来た時の吹雪が嘘のような晴れた空の下だった。
「まぶし
目の保護具を着けているハーキュリーズでもあの暗い道程と世界からこんな明るい世界に放り出されればその反動もあって目が眩んだ。
自分達の世界を守れたという証なのだろう、出来る事ならその光をしっかり見据えたい所だが連戦の疲れもあって身体が言う事を聞いてくれない。いつもなら気をつかって整えている奇抜な紅色の髪も乱れ、黒く塗った爪も所々剥がれてしまっている。
「良くあそこから生きて出られましたね~私は歩幅も小さいしどうなる事かと思いました」
そう言ってぺたりとモール族のラトがぺたりと地に座り込む。
それなりに修羅場はくぐって来たとはいえあれだけ全力で走らされるといった状況は初めてだったのでラトには厳しかったのだろう。
「最悪私が抱き抱えて運ぼうと考えていたが、頑張ったな」
とウルバンがラトの頭をぽんぽんと撫でる。
ハーキュリーズも小柄なラトには結構絡むが意外とウルバンも放っておけないらしい、高さが弟に似ているからついとかいう話も聞いた覚えがある。
「兄上、ラトだって七英雄達を前にしても怯むことの無かった立派な戦士なのですよ。そんな子供扱い!」
マグダレーナの言い分にも一理あるがラト本人は特に気にしていないようだ。撫でられてご機嫌なように見える。
「マグダレーナも良くあの辛い状況を共に乗り切ってくれたな」
ウルバンはラトからの流れで妹のマグダレーナまで撫で始めるが、マグダレーナは不本意な顔をしながらも受け入れているので兄妹の無事を確認する儀式と思えば可愛いものだろう。
「ハーキュリーズも問題は無いか?私同様最前線に飛び込んでいたから」
ウルバンは妹からの流れでハーキュリーズまで撫でようとしてくるが流石にいい歳した成人男性が似たような年頃の自分よりも背の高い男に撫でられるなんてのは勘弁してくれ、とハーキュリーズはウルバンから大きく3歩の距離を取ってそれを拒否した。
「俺の事は別にいいんだって!こんなん慣れっこだし、それなら陛下の方が!」
ハーキュリーズはそう自分で言ってはた、と気が付く。改めて自分の周囲全てに目を配るが何も留めることは無かった。
こんな晴れた空の下であればその御髪が美しく輝くその姿を見つけられないなんて事はありえない。
それなのにその光がどこにも。
「陛下!」
「あっ、ちょ、ハーキュリーズ!」
「1人じゃ危ないですよ~!」
仲間達の静止を振り切ってハーキュリーズは走り出した。1人が危ないのは陛下も同じだ。
皇帝陛下はあの空間から逃げ出す時に皆を鼓舞し殿を務めていた。
それなら自分がと縋るハーキュリーズを押し止めて、皆で帰ろうとそれまでの疲労のひとつとて顔には出さずに笑うその姿をまた陽の下で見るのだと。
それなのにその人がここにいないなんて。そんな事ある筈が無い。
「陛下……ッ!!」
あの人が居ない世界で自分が生きるなんて事は考えられないのだ。



元々たいした体力も残っていなかったが視界が開けたとは言え目標物がこれといったものが無い大氷原を闇雲に走ったハーキュリーズがある場所で蹲っていると、後頭部にぽこんと硬いものが当たったような感触があった。
当たったというよりは当てられた、か殴られた。その固まりには意思と熱を感じる。
ハーキュリーズがガバリと顔を上げ、頭に衝撃を与えた物を掴むとそれは今必死になって探した銀の光。
自分にとっての唯一無二の主。
「どうした?疲れたのか?お前らしくないな。お前の髪色は目立つからすぐ見つけられた。」
そう言って頭の上に登る太陽と同等の、ハーキュリーズにとってはそれ以上の存在であるその人は笑顔を見せる。
「皆は無事なのか?てっきりお前と一緒かと思っていたんだが!」
掴んでいたままの手首をそのまま引き寄せると姿勢を崩した皇帝陛下がハーキュリーズの腕の中におりてくる。
「ちょっ、急に何、して、ッ!!」
この人が焦るなんて、揺らぐなんて珍しい事だ。
何なら先程の最終決戦においての七英雄相手にだって冷静に対応していた。
この人に今触れたい、抱きしめたい、口付けしたいと望んでしまう自分を助長するかの反応を見せられハーキュリーズは銀色の髪に指を差しいれ側頭部から後頭部へ手を回し、そのまま自らの方に寄せて焦りを零す唇を自分のもので言葉ごと拾い上げて塞ぐ。
伝承法による継承皇帝の末、力の結集を象ったその人らしからぬ柔らかな部分を味わう。
「んん、ぅ、あ、んぁ、い、い加減にしろ!!」
「っ!?」
呼吸の為に唇が離れた一瞬をついてハーキュリーズの口元を大きな右手に塞ぎ込まれる。
こういう時でもこの人に対して隙は作ってはいけなかったと今更後悔した。
「こんな開けた場所でなんて事してる!」
照れた顔も可愛いなと思いつつ、ハーキュリーズがその人の右手の平をべろりと舐めると驚いたのか力が抜けたのでそのまま顔を外す。
「オレたち以外の気配は感じないから大丈夫でしょ?あいつらからも結構遠ざかったなああ、もちろん全員ピンピンしてますよ」
「全くお前はッ!でも、良かった」
生きていてくれて。と声にならない声が聞こえた気がしたが本当にそうだと思う。
この光を失わずに済んで良かった。ぽすりとハーキュリーズの肩口に降りて来た豊かな銀の髪を両手で抱きしめた。



「はあああ!?」
悲願を果たし帝都に戻ってからの状況は目まぐるしいものだった。
元々皇帝陛下からは共に戦った面子に対しては直接事前に説明を受けていたし、その他の兵も文官武官関わらず周知はされていた。初代伝承皇帝であるジェラール帝の時から案として上がっていたという七英雄討伐後の帝国の共和国化については。
何なら兵だけではなく国民にも教育という形で拡がっていたからこそ、この早さでの国の変化が出来たのだと思う。
ただ、役目から解放された元皇帝陛下が共和国制へと切り替わった直後に突然姿を晦ます事は予想していなかった。
「何でひとりで行っちまうんだよ!オレ達の事は!?」
そうハーキュリーズが喚くとウルバンとマグダレーナは顔を見合わせ2人して溜息をつく。
「最後の力を引き継いだ元皇帝が変化の中心には居ない方が良いと仰ってな」
「私達は実務の方を彼から頼まれているのです。ラトはサバンナの方に戻って現場の対応をしていますし」
「それで?お前はどうする?」
「あ?」
尋ねてきたウルバンの表情は厳しいものだったが、それをハーキュリーズが睨み返すと珍しい意地悪い笑顔に変わる。
「まさかこのまま放っておくわけではあるまい?」
「あったり前だろが!とっ捕まえてふん縛ってぶん殴ってやる!」
「カウンターで返り討ちが関の山だと思いますけど」
マグダレーナの言う通りだろうがそれでも一発殴りかかってやらないと気が済まない。捕まえておかなければ逃げそうだという危機感はあったのにも関わらず、国内が落ち着いた直後の行動は流石の歴代皇帝達の知恵と力の結集体だ。
「すぐにでも出ないと大陸の端まで行ってしまいかねんぞ」
「こうなると思って基本的な旅準備は整えておいてあげました。倉庫の方に寄ってごらんなさい」
あの人なら冗談でも無くさっさと行くだろう。帝国の支配領域も最大まで拡がっている状態で旅をしていたのだからどこに行くにしても支障は無いし何があっても一人で対応してしまうだろう。
ハーキュリーズの力など必要ともしないだろうが、それでも。



「ハーキュリーズもヘタレだと思うのですけどあの方もあの方で自信が持ちきれない所があるのですよね戦いにおいては2人して先陣を切るというのに。変な所でそっくり」
紅い髪を翻して倉庫に走る男を生暖かい目で見守りつつマグダレーナが独り言ちる。
「あのお方には我々には計り知れない使命があったのだし仕方ないだろう。ハーキュリーズの事は蹴飛ばしてでもあのお方の方に送ってやろうかと思ったが」
普段は温厚な兄ウルバンにしては少々過激な言い分が飛び出し、マグダレーナは苦笑いするしかない。
「まあ早いうちに追い付いてくれればいいな」
「そう簡単には捕まってくれないでしょうけどね」
もうあの方には縛られる法も使命もなく、自由なのだから。