三毛田
2026-02-19 21:38:08
1075文字
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73 27. 涙を注いだ金魚鉢

73日目
大切な思い出も、共に注ぐ

 ぼーっと窓の外からそれを眺めていると、さすがに気になったのだろう。店員が少々気まずげに声をかけてきて。
 右から左に流れる言葉に適当に返事をしてから、その器を購入する。
 生き物を飼う予定はないので、他の人に見せたくないけど、見せたい。そう思うようなものを詰めていく。
 まるで、涙を一雫落としたような模様の描かれたそれは、悲しみよりも心を穏やかにしてくれて。
「ここのところ、毎日それを見ているな」
「まあな」
「気に入っているのか」
「多分そう」
 思っているよりも大きくないので、デスクの端に置いといて眺めていたら、丹恒からそんな言葉。
「生き物でも飼うのか」
「ううん。丹恒と一緒に買った、宝物入れる」
 肘をつきながら笑って告げると、彼は一瞬きょとんとした後ふいっとそっぽを向いて。
 ほんのり頬が赤いのが、非常に愛らしい。
「好きだ、丹恒」
 丹恒の隣へ移動し、頬にキス。
 うん。赤くなってるから、ちょっとだけ熱い。
「もう少し、慎みを持ったらどうだ」
「そう? 好きな人に好きって伝えるのって、大事な事だろう?」
 今度は頬ずり。拒絶することなく、受け入れてくれて。
「はあ。お前の行動には、いつも驚かされる」
「嫌?」
「嫌ではないから、困っているんだ」
 今日の丹恒先生、やけに素直じゃん。
「なんだそのだらしない表情は」
「丹恒が可愛くて、そんなお前が好きで好きでたまらないからさ」
 抱きしめると、抱きしめ返してくれて。
 うん、好き!
「じゃあ、早速この間買った物を入れようっと」
「好きにするといい」
 本を手に、ソファーに座って読書を再開。
「じゃ、好きにする」
 まだ包装を解いてなかった箱を取り出し、丁寧に開けてから中身を金魚鉢へ。
「ふふふ」
 あの日の思い出も一緒に蘇ってきて、思わず笑みこぼれ。
「わかってるって」
 丹恒から鋭い視線が飛んできたので、表情を引き締め。
 指先で表面を撫で、模様の感触を堪能。
「穹」
「んー?」
「少々腹が減った。一緒に食事に行かないか」
「うん!」
 丹恒が一冊読み終わる頃、そう声をかけてきて。
 笑顔で頷くと、ほっとしたような表情。
 手を繋いで、二人でパーティー車両へ下りる。
 シャラップに声をかけると、つまみとモクテルを出してくれるというのでお願いしておく。
「丹恒から、食事に誘ってくれるって珍しいな」
「頭を使ったから、養分が欲しくなっただけだ」
「養分って……
「栄養だって、突き詰めればただの養分だ」
「そうかもしれないけどちょっと違うじゃん?」