今まで一緒に歩んできた道が全て無くなったら。
大切な思い出が消えてしまったら。
恋人が自分のことを忘れてしまったら。
どうなってしまうのだろう。
それでも恋を続けていられるのか?
それとも
…新たな恋を知るのだろうか?
ビリー・キッドの記憶が無くなったとライトの元へ連絡が入った。
原因は行動記録の異常によるもの。
庇っただとか禁断の果実テストとか色々情報を聞かされたが、どこか遠い世界の話のようで現実味がなかった。
なんとか入院している病院と部屋番号を聞ける状態になるまでかなりの時間を有した。
まさに青天の霹靂である。
色々知りたいことはあったが、今は記憶を失った機械人に会いたかった。
ライトは郊外からバイクを飛ばして、治療中の先輩兼恋人が居る新エリー都へ向かう。
震える手を押さえながら、デジタルデータ科で面会の予定を告げ病室へ案内された。
看護師に着いて行き、廊下を重い足取りで歩く。
いい機会かもしれない。
ライトは心の中でそう呟く。
恋人という関係を清算して、ただの先輩と後輩に戻るいい機会だ。
あの星に俺は釣り合わない。
生意気な後輩だけでも十分なのに、恋人なんて烏滸がましい。
だからこの機会に恋人ではなくただの後輩に戻るのだ。
到着した病室は個室で、ベッドに横たわるビリーしか居ない。
幾重のコードがボディに接続されており、バイタルチェックのモニターに繋がっている。
ぼんやりとライトがベッドの上を見ていると、ビリーのアイライトに黄色の光が灯る。
扉が開いた音で意識が覚醒したのだろう。
ビリーはゆっくりと音がした方へ首を動かし、来訪者を発見する。
面会に来たのが知り合いだと、後輩兼恋人だと認識していないぼんやりとした表情だった。
本当に記憶を失ってしまったのだ。
現実が突きつけられる。
鈍器で頭を殴られたような気分にだった。
何かあったらナースコールを押してくださいと看護師が言って去るのがかろうじて見えた。
ビリーと二人っきりになったライトは拳を握りしめ、覚悟を決める。
そして目覚めた機械人に言うのだ。
「俺はライト。あんたの後輩です。」
恋人だと言わなかった。
これでいい。
こうすればただの先輩と後輩になれる。
コードに繋がれたビリーはポカンとした表情で入り口に立っているライトを見つめた。
自分に後輩が居たことに驚いているのだろう。
沈黙が病室を支配する。
黄色のアイライトがライトをじっと見つめた後、事実を噛み締めるように何度も細めていた。
「なぁ、ライ、ト?お前付き合ってる奴いる?」
突然、そんな質問をされた。
『あんたと付き合ってました。』
そう言いたかったけどグッと堪える。
それを言ってしまったら、別れることができない。
心にナイフが突き刺さったような痛みに耐えながら、ライトは無理矢理笑みを浮かべる。
「居ませんよ。」
痛みが増した気がした。
自分がちゃんと笑顔でいるのか不安になる。
悟れてはならない嘘。
ビリー・キッドと恋人だった自分とはお別れしないといけないのだから。
ただの後輩に戻るための嘘だから。
ライトがそう自分に言い聞かせているとビリーはうーんと唸り俯く。
「そっか
…記憶を無くす前の俺バッカだなぁ!」
ビリーが過去であると言え、自分を馬鹿にしているのにも関わらず満面の笑みを浮かべる。
そしてコードで繋がれた不自由な身体を懸命に動かし、ベッドから降りようとした。
「ちょっと!何してるんすか!?」
慌ててライトはビリーの元に駆け寄る。
バイタルチェック用の重要なコードなのだ。
万が一、外れたらビリーの容体がわからなくなり回復が遅れる可能性もある。
ライトはビリーがベッドから降りないように鋼鉄の腕を掴んだ。
黄色のアイライトが大きくなり、再びジッとライトを見つめた。
機械人の動きが止まり、世界の時が止まったような感覚になった。
「なんで、だ?」
「どうしたんですか?具合が悪いなら
…」
ナースコールを押そうか聞こうとしたライトの顔を機械人が覗き込む。
「なんで告白してないんだよ?こんな美人で可愛くて、それで放っておけない子。」
「へ?」
黄色のアイライトが細められ、機械人は笑顔を見せる。
それは朝日にも夕日にも星々にも負けない輝きを持った笑顔だった。
「俺、記憶ないけど
…これだけはわかる。一目惚れなんだ!」
一目惚れ。
記憶がまっさらになった先輩が自分に一目惚れした。
その事実に翡翠色の瞳が大きく見開く。
「好きだ!俺と付き合ってくれ!!」
純粋な告白にライトは涙を溢した。
泣いている姿を見て記憶がないビリーは慌てて翡翠色から溢れる涙を拭ったのだった。
「恋人!?」
ビリーは驚愕し、びくりと身体を弾ませる。
ライトがすぐに気づいて上半身を掴まなければベッドから落ちてしまっただろう。
そのくらい機械人にとって衝撃の事実だったのだ。
涙が止まった後に、泣いた理由をビリーが垂れたアイライトで見つめながら悲しそうに聞いた。
「
………もしかして告白されたの、そんなに嫌だったか?」
嫌じゃない。
それだけは絶対言いたかった。
おろおろしている機械人を見てライトは唇を噛み締めた。
隠したかったが仕方がない。
ライトは観念し、実は付き合っていたことをビリーに打ち明けた。
「な、なんで嘘ついたんだ!?」
「俺はあんたの恋人に相応しくないから
…この機会に別れた方がいいと思って
…」
最後の方は蚊が鳴くような小さな小さな声だった。
「俺はあんたの隣に立つ資格なんてないんです。恥ずべき過去を持っているダメなやつなんですから
…」
再び翡翠色の瞳から涙が溢れそうになる。
「別れる?それは無理な話だな!」
黄色のアイライトがニヤリと細められる。
「俺が一目惚れして、記憶を失う俺も惚れていたんだ!絶対別れないからな!」
一目惚れを強調するビリーの熱量にライトはたじろく。
ぎゅっとライトの手を握ったビリーはニヤリと笑った。
「なぁ、デートしようぜ。」
突然のデートの誘いだった。
デートの誘いなんて初めてじゃない。
しかし今は違う。
純白になった機械人からの初めてのお誘いだった。
翌日、ビリーとルミナスクエアでデートすることになった。
禁断の果実テストをパスしたこと。
無くなった記憶は思い出に関するもので、赤信号で止まるといった社会のルールに関するものは覚えていること。
この二つの条件を満たしていたため、外出許可が出た。
もっとも何か異常あったら付き添い人であるライトが病院に連絡することが条件ではあるが。
デート前にルーシー経由で知ったニコのノックノックからメッセージが入っていた。
『ビリーのこと、頼んだわよ。』
もしかしたらデートをきっかけに記憶が戻るかもしれない。
邪兎屋のメンバーからもデートに行ってほしいとお願いされたのだ。
お願いされなくてもライトにデートを断らなかったが、それだけ心配してくれる仕事仲間がビリーに居たことを改めて実感する。
ビリーは隣に居るライトをじっと見る。
黄色のアイライトに映るのは郊外ファッションの青年。
一目惚れした青年はやはり美しかった。
「その赤いマフラー
…」
チャンピオンの証である赤いマフラーをビリーは指差す。
何度も手直しされている跡があるマフラーだ。
「すごい大事にされてるなぁ。」
大事。
ライトにとってどれだけ大切なものなのか。
ビリーはそれすら忘れてしまったのだ。
「大事ですよ
…あんたから引き継いだチャンピオンの証なんですから
…」
赤いマフラーをたなびかせて、鮮やかな決闘をする先代チャンピオン。
それがライトが初めて見たビリー・キッドだった。
ぎゅっと切なげにマフラーを押さえるライトを見て、ビリーの論理コアが痛みを訴える。
こんな悲しい顔をさせたいわけじゃない。
笑顔の、幸せそうな顔をしたライトが見たいのだ。
なんとか話題を変えようとビリーが辺りを見渡すとティーミルク屋が視界に映った。
「なぁ、なんか飲もうぜ。」
不自然ではあったが、ビリーの精一杯の提案だった。
ライトはそう提案を聞いてティーミルク屋を見た。
『無料カスタムでなんか面白いのないかなぁ。』
スターライトナイトのグッズを買ったばかりで金欠になっており、メニューと睨めっこしていたビリーをライトは思い出す。
なんとか予算内でカスタムして、お互いのティーミルクを飲みあった。
そんな、なんてことない日常。
ビリーが忘れてしまった日常。
「ライトが好きな味を知りたいんだ。」
忘れてしまった、大事なことだから。
機械人が悲しそうに言うとライトの胸の奥が痛くなる。
「俺はマスカット味が好きです。」
もう一度教える、自分が好きな味。
言の葉がルミナスクエアの風に乗る。
「そっか。ライトはマスカット味が好きなんだな。」
もう忘れないように、ビリーは論理コアに何度も何度も情報を刻み込んだ。
財布を出そうとするライトに手をビリーがそっと握る。
「お見舞いに来てくれたジャトヤの人が渡してくれたんだ。」
自分の財布を見せ、奢らせてくれとアイライトがじっと見つめる。
その視線に頷き、ライトはビリーにティーミルクを奢ってもらった。
二人はティーミルク屋で注文したお揃いのマスカット味のティーミルクを飲む。
爽やかで甘い味。
ライトはこういう味が好きなのか?とビリーは上空を見た。
『OH〜ハニ〜主演!モニカの最新作
…』
ルミナスクエアに金髪の美女の宣伝広告が大画面で映る。
「ここ、広告出るのか
…」
ビリーはあれは誰だろうと言いたげな様子で広告を眺めていた。
あんたの大好きな女優ですよ。
そう言おうとしたが、声にならなかった。
『悪かったって!浮気じゃないから機嫌直してくれよ〜!』
あまりにモニカの広告に夢中になっているビリーを拗ねた顔をして眺めていたら謝られた。
『別に。パイセンがあの女優好きなの知ってますし。』
『やっぱり怒ってるじゃねーか!』
あの後、なんとか機嫌を直してもらおうと必死になっていたビリー。
その記憶がよみがえり、胸に熱いものが込み上げる。
そのせいで喉が詰まったような感覚になり、うまく言葉を発せなかった。
「大丈夫か?」
ビリーが心配そうに覗き込む。
「
……大丈夫です。」
やっと紡げた言葉は震えていた。
「本当に大丈夫か?具合悪かったら遠慮なく言えよ。」
黄色のアイライトを垂れて、心配そうにビリーは見つめる。
心の底から心配してくれることがわかる視線だった。
そんな視線を浴びながらライトはティーミルクを飲み終えた。
ティーミルクのカップを空にした二人が歩いていると映画館の前を通る。
『スターライトナイト リバイバル上映』
そう書かれた特撮ヒーローがポーズを決めている写真のポスター。
ビリーの足が止まり、ポスターをまじまじと見る。
「よかったら、スターライトナイト一緒に観ませんか?」
気づけば、そんな言葉を発してライトは内心驚いていた。
『なぁ!スターライトナイト観ようぜ!』
今まではビリーがライトをそう誘っていた。
グラサンをかけ直しながら、仕方なさそうに付き合った。
本当は嬉しかった。
憧れの人が前を進んでいて、今を楽しんでいて。
共有してくれるのだから。
その感情を思い出したからか自分で誘ったのだ。
「えっと、俺が大好きな作品の映画だったっけ?ニコって人が教えてくれたんだ。もちろん観たいぜ!」
クリスマスプレゼントを目の前にした子供のような笑みをビリーはライトに向けた。
チケットを購入し、シアターに入場する。
場内が暗くなり、物語が始まる。
何度も誘われて、観た映画。
ライトはストーリーを知っているが、記憶を失ったビリーには新鮮に映ったようだ。
きらきらした様子で見るビリーは記憶を失う前と変わらない。
時々ポーズをとりたいのか、それともスターライトナイトを応援したいのかソワソワする場面もあった。
記憶を失うパイセンもそんな様子で映画を観ていたなぁ。
懐かしいとライトは隣で子供のような機械人を眺めていた。
「スターライトナイト、かっけぇええ!!」
エンディングが流れ、場内が明るくなった瞬間にビリーはテンション高く叫んだ。
本当は上映中も叫びたかったのだろう。
「戦う理由も、守る理由も、変身シーンも、アクションシーンも
…全部かっこよかったぜ!」
初めて観る特撮にビリーは心を奪われていた。
「変身シーン、もっとじっくり観たいぜ。」
「敵もカッコよくておっかないなぁ〜あのブラックホールの恐ろしさよ!」
「俺もあんな風に戦って守りたいなぁ
…」
もっとスターライトナイトを観たくて、振り返りたいのだろう。
スターライトナイトのビデオをネットの海で探そうとするビリーにライトは教える。
記憶を失う前のビリーはかなりの特撮マニアで『スターライトナイト 特別版』を持っていることを。
「マジかよ!?特別版!?今調べたらプレミアム付いてるレアなやつだったぞ!?」
ネットオークションか何かのページをライトに見せながらビリーは困惑する。
確かにプレミア価格で購入するのを躊躇う値段だった。
「プロキシ
…ビデオ屋の店長が譲ってくれたっすよ。パイセンのスターライトナイトに対する熱が凄かったから快く譲ったって。」
「そんな親切な人が俺に!?あ、もしかしてお見舞いに来てくれたあの兄妹か?」
ビリーは本当に驚いているようだった。
「そうですよ、あの二人が店長です。」
「そっか、そっか。俺、本当にいい人たちに会えたんだな!特別版
…ライト!一緒にそれも観ようぜ!」
ビリーはにっこりと笑顔で言った。
約束。
これからも一緒に過ごすという素敵な約束だ。
「にしてもスターライトナイトが大好きなんて
…記憶を失う前の俺
…めっっちゃくちゃセンスいいな!」
ビリーは見ている側が照れるほど自分を褒める。
しかしすぐにキリッとした表情になり、真剣な表情でライトを見つめた。
「これでハッキリわかった。過去の俺が惚れたライトは最高の恋人だって!」
最高の恋人。
本当に自分のことだろうか?
俺は本当にこの人に相応しいんだろうか?
ライトは返事をすることもできず、真っ赤になった顔で俯いた。
次に寄ったのはガーデニングショップ「朝露」。
花々の匂いで心が落ち着くような気がした。
「一目惚れした恋人にプレゼントしたいんだ!選ぶの手伝ってくれないか?」
ほぼ直角に腰を折って頼み込むビリーを困惑の眼差しで店長のランは見つめた。
何故ならライトと一緒に来店して、「恋人に花を贈りたい。」と言ったビリーを何回も見ているからだ。
そのビリーが『一目惚れしたライト』に花を贈りたいと言っているのだ。
一目惚れとはどういうことか?
知り合って長いのではないか?
そう疑問に感じたのであろうが、そこはプロだ。
一目惚れという言葉に引っかかるランに困惑したような笑みをライトが向けると、事情があるのだと察してくれた。
ランからアドバイスを貰いながら花を選ぶビリーを見て、ライトは花の思い出に浸る。
『そこのかわいこちゃん♡俺とお茶しない?』
朝露で買った赤バラを片手にナンパをするビリー。
遅れてやってきたかと思えば、恋人である自分にナンパとは
…
何やってんすか?と言いたくなったが、それでは面白くないと思って。
『あいにく先客が居るもんで。』
ライトは肩をすくめてお芝居を始める。
『ほう、こんな可愛い子を待ちぼうけさせる悪い奴が居るのか?』
ビリーもお芝居にのり、演技を続けた。
『そうなんすよ。あんたのお誘いは魅力的だが素敵でカッコいいダーリンが居るんでね。』
だから早く会いに来てくれよ、ダーリン。
俺の憧れで大好きなダーリン。
もうあの時ナンパした機械人は記憶の海へ消えてしまった。
目頭が熱くなり、涙がこぼれ落ちないようライトは前を向く。
「バラは入れたいなぁ。あとなんか可愛いやつ
…この花いいな!へぇ、スターって名前が付いてる花があるのか!」
そこには楽しそうにランと一緒に花を選ぶビリーの姿があった。
その光景が眩しくて、ライトは思わず目を細める。
ビリーはライトのために選んだ。
赤いバラを。
白いヒナギクを。
青いブルースターを。
愛する恋人の髪色、深緑色の紙に包んで。
愛をたっぷり込めたブーケを完成させた。
「愛されてますね。」
ランは笑顔でブーケをビリーに渡した後に、ライトにそっと言う。
愛されている。
もちろん恋人のために心を込めて花を選んでいたことが1番の理由だがそれだけじゃない。
何故ならビリーが作ったブーケは見た目や名前だけでなく花言葉も素敵なものだった。
バラは『愛情』
ヒナギクは『平和、希望』
ブルースターは『幸福な愛』
花言葉については無意識にビリーが選んだのだろうが、心の底からライトのためを思って選びに選んだ世界に一つだけのブーケであることには変わりない。
ランにお礼を言い、朝露から出るとルミナスクエアを夕陽に染まっていた。
ルミナスクエアに着いた時は昼間だったのに。
それだけ長い時間デートしていたのだ。
しかしビリー・キッドの記憶は戻らなかった。
落胆したような、醜い自分を知らない今がいいのでは?と安心したような複雑な気持ちでライトは空を見上げた。
少し歩き、夕日がよく見える小道で立ち止まる。
一人で思い耽るには最適な場所。
時々ライトがぼんやりと空を眺めることがある場所。
でも今は違う。
一人じゃない。
恋人が居る。
寂しくて眠れそうにない夜は訪れない。
「愛してるぜ、ライト!」
満面の笑みでビリーがブーケを差し出した。
赤、白、青の世界が視界に広がる。
愛のブーケが機械人の手にあった。
夕日が照らす機械人と記憶の中に居るビリー・キッドが重なる。
デート中、ライトは何度も記憶の海に沈んでいた。
かっこいい戦闘をする先代チャンピオンのビリー。
スターライトナイトやモニカが大好きなビリー。
ライトの先輩で恋人のビリー。
全ての記憶を失って、居なくなってしまったと思ったのに。
チャンピオンの証である赤いマフラーを大事なものと認識してくれて。
スターライトナイトが憧れのヒーローと思っていて。
太陽のように眩しい機械人は変わらない。
「記憶を失う前の俺の方が良かったかもしれない。記憶が戻るかわからない、戻ったとしてもこの記憶が消えてしまうかもしれない。」
黄色のアイライトが切なげに閉じられる。
「それでも、記憶を何度失っても。絶対変わらないものがある。」
そっとアイライトが開き、ライトとブーケを見つめた。
「俺は、ビリー・キッドはライトを愛してる。」
ビリーは黄昏の中、ライトを抱きしめた。
愛してる。
『愛してる。』
記憶の中のビリーもそう言っていた。
『俺はライトが好きだ。愛してる。』
片想いで終わると思っていたのに、黄昏の郊外で告白されたこと。
『愛してるぜ♡』
拠点で映画を見終わった瞬間にキスをしながら言ってくれたことも。
『愛してる。』
一緒に寝ることになって身を寄せながら言ってくれたことも。
全部、全部忘れてしまったのに
…
愛してると言ってくれた。
なんで忘れちまったんだ!
そう泣き叫びそうになりそうな瞬間が何度もあった。
でも、今は。
温かいもので満たされていた。
だって大好きだった笑顔は変わっていなかったから。
大好きなパイセンは今もここに居るから。
熱い雫が翡翠色の瞳から溢れ、赤いジャケットを濡らす。
「記憶を失う前も、今も!パイセンが好きです!」
ずっと言いたかった言葉。
ずっと言いたかった告白。
ライトは純白の機械人に初めての告白をした。
何度記憶を失っても。
何度生まれ変わっても。
貴方に一目惚れして。
告白する。
まっさらになった自分の初恋は貴方です。
貴方と一緒にまた恋を知りたい。