傘道
2026-02-21 10:00:00
4510文字
Public ビリイト
 

理想郷の祝福は幻か?

WEBオンリー、ぜろうぇぶ2(2月21日10:00〜2月23日0:00)のビリイト(🔫🔦)展示作品です。
🔦が🔫と結婚する夢を見るお話です。

幸せになっていいのか?
あの人の隣に立っていいのか?
せめて夢の中では



ライトが目を開けると視界がぼやけていた。
徐々に世界がはっきり見える。
クリアな視界。
それによっていつも着けているグラサンがないことに気づく。
まず目についたのは鏡だった。
そこには純白の衣装を身に纏った自分が座っている。
ゆったりとしたシルエットの白いフロックコート。
グレーの上質なベスト。
パリッと糊がきいたカットシャツ。
金色の一本線が引かれた純白のズボン。
シックなネクタイにブローチ。
まさに新郎という格好であった。
「なんだ、これは?」
どうしてこんな格好をしているのか?
座っているソファは上質な素材で、状況が飲み込めずさらに混乱する。
「ん?どうした?」
困惑したライトの声を聴いて、ドレスを着たシーザーが心配そうに覗き込んだ。
華やかなドレスはパーティーにでも出席しているのかと思うほどであった。
状況がわからず戸惑っているライトはどうして自分がこんな格好しているのかシーザーに聞く。
質問されたシーザーはきょとんとした顔になった。
「今日はライトとビリの字の結婚式だろ?」
結婚式。
ますます状況がわからなくなり、ライトは頭を抱える。
「大丈夫か?」
「大将、これはドッキリじゃないよな?」
「何言ってんだよ。ビリの字と迎える晴れの日なんだぜ。冗談なわけあるか。」
シーザーの目に嘘の色はなかった。
どうやら本当にビリーと結婚するらしい。
俺とパイセンが?
状況を飲み込めず、ぐるぐると思考が渦巻く。
「本当に大丈夫か?親父を呼んでくるからちょっと待ってろ!」
ドレスを翻し、シーザーが控え室から飛び出していく。
「待ってくれ、大将。」
捕まえようとしたライトの手が宙をかく。
そこでライトは目を覚ました。
ハッと翡翠色の瞳が開かれ、夢であったことに気づく。
ホッとする自分と残念に思う自分が居た。
パイセンと結婚する自分が許せない気持ち。
パイセンと結婚したくて夢の続きが見たい気持ち。
パイセンこと、ビリーとライトは恋人である。
出会って何年も経っているが、付き合ったのは最近。
まだ手を繋いだばかりで。
キスも片手で数えられるほどしかしていない。
なのに、もう結婚を夢見るようになった。
「俺はパイセンと結婚したいのか?」
片手で顔を覆い、自分に問う。
考えても考えても自分の願いがわからない。
結婚なんてできるはずがない。
付き合ってもらえただけで十分すぎる。
そう悲観しているとスマホにメッセージが届く。
『2日後に会わないか?』
ビリーからのメッセージだった。
つい先程まで結婚する夢を見ていたライトはどきりとする。
会いたい。
パイセンのことが好きだから。
会いたくない。
結婚なんて高望みする、こんな浅ましい自分を見せたくない。
二つの気持ちが溢れて、溢れて。
会いたいという気持ちが勝った。
『いいですよ。』
勇気を出してライトは返事をする。
いつもならすぐ出てくる軽口が今日は出ない。
そんな自分を嘲笑しているとビリーからやったー!と喜びのスタンプが連投された。
ポンポンと静かな寝室に通知音が響く。
『今から会えるのが楽しみだぜ!」
一瞬でも会うのを断ろうとした自分が恥ずかしくなった。
いつも通りに振る舞えばいい。
だってあれは夢。
現実になることがない夢なのだから。



再びライトは夢を見る。
場面が切り替わるとき
今度はスーツを着たビック・ダディが横に立っている。
「おやっさん
ジャケット姿ではないのが新鮮で見ていると視線に気づいた猪のシリオンが振り向く。
「不安か?」
ビック・ダディが心配そうに尋ねる。
見透かされていた不安。
おそらくビリーと結婚することに対して不安か聞いているのだろう。
ライトは俯き黙った。
結婚していいのか?
そんな資格があるのか?
答えられないライトは何も言えない。
それでも先が見たい。
夢の続きが見たい。
………大丈夫です。」
覚悟を決めてライトは前を、扉を見る。
そんなライトに何も言わず、ビック・ダディも前を向いた。
扉が開かれ、バージンロードを二人で歩く。
新郎であるビリー・キッドの元へ向かう。
夢だと知っているライトはこっそり参列者を見た。
邪兎屋、カリュドーンの子、パエトーン。
知り合いが結婚に参列するドレスやスーツを纏っている。
なんとも不思議な光景だ。
しかしある人物を見て、ライトの足が止まる。
デインだ。
妹の隣で正装して笑顔をこちらに向けている。
ニック・ラティーナも参列者に居た。
自分のせいで死んでしまった傭兵団の仲間たち。
恨んでいるような視線はなかった。
俺は幸せになっていいのか?
そんなことが許されるはずがない。
仲間を見てそう思った瞬間、世界が暗転する。
神聖な式場から真っ暗な世界に落ちる。
お前は奈落がお似合いだ。
そう嘲笑う声で頭が埋め尽くされる。
飛び散る血。
暴力を振るう自分。
罵声が響くリング。
赤と黒の世界にライトは落ちていった。



ライトは目を覚ます。
冷や汗を流し、荒い呼吸をする。
幸せになる資格なんてないと顔を両手で覆った。
重い身体を引き摺り、外へ出たがその日は散々だった。
ルーシーに注意され、シーザーに心配され。
ベッカム?にも決闘前に怪訝な顔され、誤魔化すようにグラサンをかけ直した後に彼を1発KOした。
なんとか仕事を済ませて、拠点につく。
家事も疎かになり、有り合わせのものを食べた。
かろうじて前日に洗濯して外に干したシーツを取り込んだ。
しかし押し入れに仕舞わず、寝室の椅子にかけるのが精一杯だった。
疲れ切った身体はベッドに沈み、瞼が閉じられる。
夢の世界、結婚式場へライトは着いた。
そこには白いスーツを着たビリーが立っていた。
撫でつけた普段とは違うオールバック。
黒のボディに白が映える。
お揃いのブローチとネクタイ。
正装をした憧れの存在。
カッコよくて自分が隣に居ていいのかわからない。
牧師の口から誓いの言葉が紡がれる。
「誓いますか?」
ライトは答えられない。
「誓うぜ。」
ビリーが即答する。
ライトが顔をあげる。
「絶対幸せにする。」
ビリーがライトを見る。
「俺は、俺は
誓うことができない自分が嫌になった時にビリーがライトを抱きしめる。
「大丈夫。俺が居る。」
幸せになっていい。
参列者も温かく見守っていて誰もライトを責めない。
「誓います。」
気づけばライトはそう言っていた。
祝福され、キスを贈り合う。
みんなに祝福されて



そこで夢が覚める。
「俺は、俺は!」
幸せになりたい。
パイセンと結婚したい。
それでも十字架を背負い続ける。
涙を溢しているとピンポンとインターフォンが鳴った。
気づけばビリーと会う約束の時間だった。
しかし今玄関の扉を開けたら泣き腫らした情けない顔を見せてしまう。
心配をかけさせてしまう。
ライトは涙を拭うが、拭っても拭っても涙は溢れてくる。
………ライト?」
そっと開かれた寝室の扉から機械人が顔を出す。
なかなか応答がないライトを心配してビリーが合鍵を使って入ってきたのだ。
そこには目を腫らしたライトが居た。
「大丈夫か!?」
ビリーは心配してライトの元へ駆け寄る。
「パイセン俺は幸せになっていいんですか?」
「へ?」
ライトからの問いに機械人はポカーンとした表情になった。
「本当にどうしたんだよ?」
そこでポツリポツリとライトは最近見た夢のことを話す。
祝福と奈落の話。
幸せになる資格がない者が祝福される夢。
「俺がパイセンと結婚するなんて烏滸がましいですよね?」
ライトは自虐するような笑みを顔に貼り付けた。
髪を掻きながらビリーはそっと周りを見渡すと交換する前の白いシーツを見つけた。
白いシーツをライトの頭に被せる。
花嫁のヴェールのようだ。
「結婚かライト、今日なんの日かわかるか?」
「えっと
「今日で付き合って3ヶ月目なんだ。」
ライトが言う前にビリーが答えを言った。
3ヶ月。
忘れるはずがない。
憧れの存在と付き合えた日を。
付き合って何日経ったか、カレンダーを見て数えていたのだから。
それを悟られないよう隠し続けてきた。
だって初恋が叶った少年のような振る舞いは自分に似合わない。
ビリーにとって、ライトは恋人の前に生意気な後輩なのだから。
てっきり知っているのは自分だけで、浮かれているのも自分だけだと思っていたのに。
「迷っていたけど今日、しようと思うんだ。」
………何を、ですか?」
「プロポーズ。」
翡翠色の瞳が溢れんばかりに見開く。
ビリーは白いシーツのヴェールごとライトの頬に片手を添えた。
もう片方の手でゴソゴソと何かを差し出した。
それは指輪と花束だった。
指輪はアクセサリーショップで買えるシンプルなデザイン。
頰に添えていた手がゆっくりと下にスライドしてライトの薬指に指輪をはめる。
指輪のサイズは薬指が抜け落ちない、まるでオーダーメイドのようにしっくりくる太さだった。
どうしてパイセンが俺の指の太さを知っているんだ?
その疑問は顔に出ていたようだ。
「デートで手を握った時、緊張して何話していいか分からないことがあってその時にライトの手を握ってるって意識したら、いつの間にかサイズ覚えてた。」
恥ずかしそうな申し訳そうな声で俯きながらビリーはそう言った。
照れ隠しで差し出された花束は2本の赤いバラ。
「本当は指輪はオーダーメイドで、バラは100本用意したかったんだけどな
おそらく金銭的に厳しい先輩が買った精一杯のプレゼントなのだろう。
それでもビリーがくれたというだけで価値がある。
「愛してる。いつになるかはまだわかんねぇけど結婚しようぜ。」
結婚。
夢に見た言葉。
これは夢か?
現実の話なのか疑ってしまう自分が居たが、真剣な眼差しを向ける機械人の手の感触で夢ではないと知る。
「夢みたいにみんな、祝福して幸せを願ってくれると思う。」
すうっとビリーは吸気モジュールから酸素を取り込んだ。
「俺と一緒に幸せになろうぜ。」
機械人からの熱烈なプロポーズにライトは涙をこぼす。
幸せになっていいかわからない。
だけどそれ以上にプロポーズされた事実がとても嬉しかった。
涙が溢れて、溢れて。
それでも恋人に笑顔を向ける。
ライトは泣き笑いの状態で答える。
不恰好でも言いたかった。
溢れるこの想いを言いたかった。
「俺の全てをあげるんで結婚してください。」
誓いは成立した。
ビリーとライトはキスをする。
誓いのキスは二人だけの秘密。
参列者は居ない。
夢とは違う祝福だった。


理想郷の祝福は幻か?
今は夢まぼろし。
それでも恋人と朝日に向かって歩いていく。
理想郷へ歩いていく。
いつか二人に訪れる祝福。
幻じゃない、現実になる日がいつか来ると信じて。
貴方に指輪を、バラを、祝福を。