77nairo
2026-02-28 23:00:00
1247文字
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 山王工業バスケ部は総勢百名近い部員を抱える大所帯だ。松本の同期だけで二十五人いる。そのうち、公式戦でベンチ入りできるのは、最大でも十五人。この椅子取りゲームに心折れて去っていった部員も数多い。
 今日も一人、一年生の部員が制服姿のまま体育館にやってきて、マネージャーに頭を下げている。松本はその姿をちらりと一瞥して、すぐ視線をそらした。じっと見つめたりしたら、自分もそちらへ引き込まれてしまいそうだった。手元のボールへ無理やり意識を集中させる。
「今年は辞めるやつ多いな」
 松本の気も知らずにそう声を掛けてきたのは、すぐ隣でシューティングをしていた一之倉だった。松本が眉間に皺を寄せて睨んでも、素知らぬ顔でシュートを放っている。その
横顔に苛立って、松本は一之倉の動きに合わせて自分もシュートを放った。空中でボール同士がぶつかる。松本のボールが一之倉のボールをリングに押し込んで、自らはリングの外へ落ちていった。
「ふふっナイスアシスト」
 片眉を上げて一之倉が笑う。今度は無性に腹が立って、松本の喉から唸るような声が出た。
……誰も彼も、お前みたいに我慢強いわけじゃない」
「まあね。深津も河田も今はデカい顔してるけど、去年の夏合宿で逃げたし」
 一之倉は顎をしゃくって、隣のコートにいる深津と河田を指した。あちらは一軍用コート、こちらは二軍用コートだ。
 いま口を開いたら一之倉に八つ当たりをしてしまいそうで、松本は口をつぐんだ。ボール拾いをしている一年生に手を上げて、ボールを要求する。ワンバウンドで手に収まったボールを、リングへ放る。むしゃくしゃした気持ちなんてお構い無しに、ボールは素直にネットをくぐった。
「ナイッシュ。やっぱり松本もこっち側の人間だよ」
「どういう意味だよ。俺じゃあっちのコートに行けないってことか?」
 今度は飲み込みきれなかったイライラが口からこぼれた。あっちの、一軍側のコートには、深津と河田、それにこの春に入部したばかりの沢北がいる。一之倉は平然とした顔で、もう一本シュートを放った。そのボールがリングに吸い込まれるのを確認してから、くるりとこちらへ向き直る。
「我慢の男側ってこと。沢北に次期エースの座を獲られても、二軍から上がれなくても、いつもと同じシュートができる」
 こちらを見上げる一之倉の目はまっすぐで、そこには嘘も同情も感じられなかった。松本のみぞおちのあたりでわだかまっていたもやもやが、すっと静まっていく。
……いや、やっぱり一之倉はすごいよ」
「そう?」
 公式戦でベンチ入りできるのは、最大でも十五人。その席を争う以上、チームメイトはライバルでもある。このまま松本が脱落していくのを傍観したほうが、一之倉には得だったはずだ。
「なんで」
「ん?」
……いや、なんでもない」
 なんで『こちら側』へ手を引いてくれたんだ、と訊きたかった。けれどそれを口にするのは、二人揃ってレギュラーの座を占めてからでもきっと遅くない。