俺は中庭で一人、只々空を見上げるだけの生活を送っていた。まるで抜け殻にでもなったようだ。だが、仕方がないだろう。俺は存在価値のない不用品なのだから。やる事がないからひたすら考えてしまう。思い出してしまう。ルシフェルとルシファーが話していた内容について。
—あの不用品は適当な時期に廃棄する。お前の愛玩用として飼ってもいいがな?―
聞いた当初は身を裂かれる程の痛みを感じたが、今は違う。ルシフェルはあの問いに答えなかった。つまり、俺の事などどうでも良いという訳だ。だってそうだろう、ルシフェル。完璧な貴方が二の句が継げないなんて事あるわけないのだから。彼が今まで中庭を訪れたのもただの気紛れ。もしくは情けだったのかもしれない。彼への尊敬や憧れといった想いが暗く澱んだものになっていく。息をするのが苦しくなった。
今日もぼんやりと考え事をする。無意味なのにあの人の姿が見えないだろうかと空を見上げてしまう。苦しい、苦しい。早くこの思考の迷路から解放されたい。早く廃棄して欲しい。考えるうちに一つの願いが生まれた。貴方の手で廃棄して欲しい。不用品には多分な願いだろうか……。だが、俺の創造主はアンタなんだから、これくらい思ってもバチは当たらないだろう? 遊んだ後はきちんと片付ける。空の民の幼子だってできる事なんだから。
虚空を見上げる事にも飽きてきた頃、遂にルシフェルが中庭に訪れた。いつもと変わりない、輝かしい六枚羽を背負って。ただ一つ、表情がいつもと違った。どことなく影を感じる。遂に廃棄を言い渡されるのかもしれない。俺が廃棄される事についてこの人の感情を僅かにでも動かせたのだろうか、と僅かに期待しつつ彼の言葉が紡がれるのを待つ。ルシフェル様の表情をコアに焼き付ける。この方の声を一言足りとも聞き漏らさないよう集中した。最期の機会かもしれなかったから。あんなに憎んだ相手だったのに、コアが歓喜に震えた。
そうしてルシフェル様の言葉を聞いていたのだが、彼の発した言葉は俺の予想を裏切るものだった。言葉を飾って誤魔化そうとしているが、つまりは俺を『愛玩用』にしたいと言う。この方にとっては俺を救う為の手段だったのだろうが俺にとっては違った。地獄だ。貴方の情けでしか生きられないなら、死んだ方がマシだった。だから、俺はルシフェルに心にも無い感謝の言葉を伝える。その言葉に今日初めてのぎこちない笑顔を見せるルシフェル。俺が愛玩の役割を甘んじて受け入れたとでも思ったのだろうか。そんな勘違いはやめてくれ。間違いを正さねば。愛玩用らしく精一杯の可愛らしい表情を作りながら、願いを一つ聞いて欲しいと告げる。ルシフェル様は私のできる事なら何でも叶えようと仰ってくださった。そうですか、ありがとうございます。なら、いつか絶対に叶えてくださいね?
「俺が不要になった際は貴方の手で廃棄して頂きたいです」
声が少しばかり震えてしまった。
終
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