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kureniwa
2026-02-17 19:06:33
1885文字
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1.4KVパロ 綺麗好きなねこの話
ぜろうぇぶ展示SS
猫は綺麗好きな生き物である。
かつり。漆黒の大理石に軽やかな靴音がひとつ。次の瞬間には空になった革靴を他所に、ひたりと素足で床を踏み締めながら、纏ったコートをはらりと脱ぎ捨て後方へと放る。アンティーク調のポールへと吸い込まれるように収まったそれを視認することなく、青年は浴室の帳を翻した。
「〜〜♪」
鼻歌を口ずさみながら首と親指の先に繋がる鎖を外し、纏う衣服を剥いでいく。
一糸纏わぬ身に柔らかに打ちつける雫を滴らせ、湯浴みに興じる濡羽色は、艶やかに頬や額へと張り付いては、白い指先によって掻き上げられる。ボトルから手のひらへと垂らしたソープで髪を洗い上げ、次いでしなやかなその身に泡を滑らせる。つま先から隅々まで、丁寧に。
此度は返り血を浴びるような真似はしていないものの、先刻まで充満していた死の香りは知らずの内に身に纏わりついていることだろう。その一切を拭い濯ぐように身を清める。すべては──約束された夜のひと時の為に。猫は綺麗好きな生き物なのだから。
……
時に主人の気を引く為に態と汚れた身で擦り寄ることもあるのだか──それはまた別の話。気分屋も猫の特権なのだ。
きゅ、と蛇口を閉めればシャワーの雨が止む。濡れた髪先をくるりと指で弄び、滴る雫を拭う。壁に設置された鏡で自身の身体を確認する。傷ひとつない顔とは対照的に、背にはケロイド、腹部や首には古傷が刻まれている。それを彩るように咲いた鬱血痕をなぞり、頬を緩ませる。綺麗だ。これがあるのとないのとでは、まるで違う。消えない痕を刻んでくれたらいいのにと、過ぎた甘い願いを抱きながら、薄く、治りかけているそれらを撫でた。
ふと、耳を掠めた物音に意識を集中させる。警戒は、バスルームへと近づいてくる二歩目の足音で霧散した。代わりに疑問と期待が浮かび上がる。引き寄せられるかのように、扉を開いた。
「遅いよ」
感情の凪いだ音、覚えのある台詞。しかし大抵はソファに脚を組んで座ったまま手元の書籍や端末に視線を落としたまま告げられる言葉だ。適当な軽口を伴って笑って擦り寄るのが常だった。──思いがけないお迎えに、開いた口は、言葉を紡ぐことを忘れた。
いつも通り漆黒のスーツを見に纏ったアキラが、バスタオルを両手に広げて立っている。もし何も知らぬ者がまた目撃したのなら、陶器のような冷ややかな能面はさも銃口を向けるのと変わらない様子に見えるだろう。
主人の気紛れな介入に少々驚きながらも擦り寄るように身を預ければ、柔らかなタオルで包まれる。すり、と、優しく隅々まで身体を拭いてくれた。タオル越しであれど、彼に触れられているという事実に歓喜する。指の一本一本を包むように布端で拭われ、指の股まで一滴も残さないように仕上げられる。布に身体をくるまれたまま、最後にフェイスタオルで髪を丹念にわしゃりと撫でるように拭われ、湿った髪を整えるように指で梳かれた。
タオルドライを終えると、悠真の衣服を手に取る。有無を言わせずトップスを被せてこようとするアキラにどぎまぎしつつも頭を差し出せば、するりと胸までを覆った。
「
……
サービス良過ぎない? さては、ご機嫌だね」
無言で下着やボトムスまでゴムに手をかけて履かせてくるものだから、堪らなくなりつつも促されるままに着飾られていく。
身を寄せて顔を覗き込む。緑色の深い瞳は、いつものように底知れず、考えを読み取ることはできない。知りたいな。その瞳の奥を。そう思うことは数知れずとも、構ってくれるのなら、それで十分幸福だった。
「そのまま返すよ」
「ずるい人」
でも、正解。浅羽悠真はとても機嫌が良かった。待ち望んだひと時が──待ち焦がれたその人から、迎えにきてくれたのだから。
まるで首輪をかけられるかのように、チェーンアクセサリーが首元におさまる。ちゃり、と音を立て、彼の指先が離れていった。
「部屋で髪を乾かしてあげる」
「んっ
……
、はぁい」
猫は綺麗好きな生き物である。毛を繕い、身だしなみを整えるのも、日常に組み込まれたルーティンである。
しかし、猫は気紛れで時に甘えたでもあるのだ。興が乗っている主人に施されるのなら、それ以上の至福はないのだった。
「ねぇ、寝ちゃうかも
……
」
「いいよ」
「やだ
……
する
……
」
「仕方のない子だ」
温風に吹かれながら彼の手つきの心地よさにうとうとしながら太腿へと擦り寄れば、頬を指先で擽ぐられた。半分閉じかけた目で見上げた先のアキラは、微かに笑っていた気がした。
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