ゆたか
2026-02-17 17:19:27
1749文字
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執着

「思い出をいただけませんか?」
明るい満月が空に輝いていたのを覚えている。
忍術学園最後の夜。明日には就職先の城へと旅立つ。そうすればもう雑渡とは会えなくなる。
想いを交わしてはいなかったがそれなりに互いの気持ちはわかっていたと思う。
就職先の城は、この戦乱の世に置いてはタソガレドキとも敵対する可能性もある。そんな状況に情など持っていたら任務などこなせないだろう。
それでも、一つだけ、雑渡との思い出を身体に刻んでおきたかった。

断られるならそれでいい。意気地のない男だと諦められるから。
乱暴におざなりに抱かれるならそれでいい。ひどい男だったと思えるから。

なのに

触れてくる手はどこまでも温かくて、奥をなぞる指も知らなかった欲を引きずり出すように蠢いて、抱きしめる腕は心まで包み込むようで、月明かりに照らされるその顔は……とても優しくて。

ひどい男だと思った。

今まで子供扱いして触れてこなかったくせに最後の最後でこうして忘れられない夜をくれるなんて。

幾度目かの絶頂を迎え、息も絶え絶えになりながら行為の終わりを懇願するも「この月が隠れるまではお前は私のものだよ」と耳元で囁かれ揺さぶられる。

ああ、このまま夜が続けばいいのに。

月明かりすら眩しく感じ、目を閉じて目の前の愛しい男から与えられる甘い時間に意識を投じた。


「あっ!雑渡さ!もうっ!」
何度も意識を飛ばされ、気づけば扉から差し込む日差しが月夜のそれではなくなっても雑渡は伊作を求めることをやめることはなかった。
一晩ですっかり甘く溶かされた身体はもう出せる物などないのに雑渡の愛撫に応えひくひくと健気に震える。
流石にもう夜が明けたのなら出立の準備をしなくては。目的の城はここから一日半かかる。余裕を持った日程とはいえ雑渡がこんなに底知らずだとは予想もしていなかった。
髪の一本、爪の先まで、触れていないところはないだろうに、それでも離れることが惜しいというように伊作の身体を撫で回して行く。
「雑渡さん、あの、本当にもう!僕行かなきゃいけないのでんっ!」
ちゅ、ちゅと軽い音を立てて薄い腹に唇を落とす雑渡の頭を力の入らない手で押し返す。
「行くってどこへ?」
べろりと臍を舐められ、ひうっと喉が鳴る。
何度も高められた身体はその誘いに容易に乗りそうになるがなんとか身をよじって雑渡から離れる。
っ!」
腹に力を入れたせいか奥からどろりと流れ出す感覚を覚え、その量に自分がどれだけ雑渡に抱かれたか否応にも自覚させられる。その感覚だけでまた最奥が熱くなるのをなんとか押し留め、雑渡へと向き直る。
「どこって言ったじゃないですか。僕は就職してここを離れるんです。だから
「へえ」
雑渡はどこか楽しそうな笑みを浮かべながら伊作を見ている。
その様子に何かを感じ取り雑渡に問いかける。
「まさか何かしたんですか!?」
「直接は何もしていないよ?ただ、あちらは君からの就職辞退の文を受け取ってこの話はなかったことになっているはずだからね」
「就職辞退の文?僕そんなものっ!」
いまだ笑みを浮かべる雑渡に一つの可能性が浮かび上がる。一時期雑渡と文のやりとりをしていた。雑渡からの文はいつも多種多様で時折謎解きのようなものもあって、その時は気にもしていなかったが、もらった文はどれも筆跡は変えていた。雑渡ほどの物なら伊作の文字を真似ることも容易いだろう。
「なんでそんなこと!」
「君が医者になるというなら大人しく見送っただろうが、忍になるなら話は別だ」
距離をとったはずなのに雑渡から静かな殺気を感じ思わず身構える。
「伊作くん。私はね、君を殺したくないんだ。敵対する城の忍になんかなられたら私は君を殺すしかなくなる」
わかってくれるね?とにこやかに笑う雑渡に背筋に冷たいものが走る。
「でも僕は
雑渡は震える伊作の頬を優しくなでながら学園の医務室で見せた柔らかな笑みを浮かべる。
「あとね伊作くん。月は常に天にあるものなんだよ。だからお前はずっと私のものだ」

そう言いながら恐怖で震える伊作を優しく抱きしめ、すっかり熱の冷めた身体にまた情欲の灯りを灯した。


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