望月 鏡翠
2026-02-17 16:57:34
980文字
Public 日課
 

#2005 自問自答 堕落

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔


 夜の街の散歩をするのが好きだった。
 見知らぬ場所でも夜は夜だ。東京にいると見えない星が、凄く綺麗に見える。
 一人で歩いていると、じんわりと心が軽くなっていく。まだ体に残る昼間の暑気も夜風に当たっていると溶け出していく。
 眠らなくてもいいって助かるな。明日のことを気にしなくてもいい。歩きたくなったら好きなだけ歩いていられる。
 同室の津鞠さんは、夜間に部屋に戻ってこなくても気にしない人だろうから、そういう部分も嬉しい。花は見つからなかったからまた今度ね。
 話し相手は探していなかったけど、巡礼者という立場はこの街では異物でどこにいても目立つのかもしれない。
 街の主と遭遇した。
 思いもよらない場所で遭遇して、驚いた。
 外に出ていいんだ。いや、街の人の口ぶりから言っても、宮殿に篭り切りということはないだろうなと思っていたけれど。
 でも街の人間にはしっかり見られているから、こうして噂は聞こえてくる。
 どこに行っても周りの人間に気にされるって、どういう気分なんだろう。
 偉い人になりたいと思ったことはない。なんか大変そうだから。
 人間に目を向けられたら、向けられた分だけ大変になっていただろうなと言うのが、夜の街を一人で散歩したくなるような人間の感想だ。
 でも、主さんにも夜の街を散歩する時間はあるみたいで、それは良かったなって思う。
 せっかくの出会いだけど、あんまり楽しい話はできなかった。臭いって二度も言われたし。
 いやでも今回はちゃんと風呂に入っていたよ。こんなに何回も言われるっていうのは、もう匂いじゃなくてそもそも巡礼者のことが内心でうっすら嫌いなんじゃないかな。
 体臭を決めるのって、体質と生活習慣と、あとはなんだろう。食生活とか。もうお風呂に入ってどうなることでもないよ。
 大浴場は気になるから、正直ちょっと行ってみたいけど。
 ――誰かより劣っている部分を見つめなおす。
 街の主になると、こういう課題を人に与えなければいけないんだろうか。
 いや、ここの人は神様だから、神託。
 それって考えないといけないことなんだろうか。
 生き返るなら必要?
 生き返る必要がそもそもある?
 あ、どうしよう。また余計なことを考えてしまう。
 やめよう。部屋に帰って寝よう。
 朝がくる。
 散歩は終わりだ。