otete_8
2026-02-17 08:40:46
1317文字
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読切の谷

読切ロナドラ


「朧月夜だねぇ。ジョン」
「ヌヌイヌ」

夜の散歩と洒落込むふたり。
人気のない道端。
街灯には無数の羽虫が舞っている。

胸の中にふんわりと抱えた最愛のアルマジロに、痩せぎすの吸血鬼――ドラルクはささやく。

「私、しばらく変身してないじゃない? 近頃その必要性を感じるのだよ」
「ヌーヌヌ?」

紅い瞳を悪戯っぽく輝かせ、ドラルクは続けた。

「私が変身して出迎えたら退治人くん、どんな顔すると思う?」
「ヌヒッ」
「楽しそ! よぉしジョン、予行演習しちゃおっ」

“ポンッ”という擬音と、白い煙幕がよく似合う。どうやら彼は『変身』を果たしたようだ。
蝙蝠のような耳に、毛むくじゃらの体。手脚は艶かしいほど細長く、ツンとした鼻の高さには、元の姿の名残が見られる。

その愛くるしい佇まいに感情を爆発させたジョンは、彼のふわっふわな体を抱きしめた。

「フフッ、苦しいってば! ジョ〜ン♡ アレッ? でも思ったより小さくなってない……?」

ドラルクは、ジョンに軽々と抱き上げられるほどの可憐なサイズに変貌してしまっていた。

「ヌーヌンヌヌヌヌンヌヌー」
「ムー〇ン谷に住んでそう? えっ、今の私そんな感じなの⁉」
「ヌン。ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌニュン♡」
「なになに、“畏怖カワ”? おじょうずだねぇ。んふふ」

モジモジとはにかむ、フワフワの吸血鬼。
そんな主人に、目尻が際限なく下がっていく使い魔。この時は永久かと思われた――矢先。

どこから現れたのだろう。一羽のオッサンアシダチョウが、光の速さでドラルクを咥え、走り去っていく。

「イヤァァァアアアア‼‼‼」
「ヌヌヌヌヌヌ〜〜〜〜〜‼‼‼」

ダンッ‼ ダンッ‼ ダンッ‼

瞬間、空砲がオッサンアシダチョウの頭上、脇、足元へと撃ち込まれた。
ドラルクは、驚いたダチョウの口から地面へと放り出され、その勢いに負け、塵と化す――


どれほどの時が経っただろうか。
ドラルクは変身前の姿に戻ったものの、前後不覚なまま薄目を開けた。

銀髪碧眼の小柄な男が、ドラルクを抱えて跪いている。

「おい、しっかりせぇ」
「へっ? …………? アレッ? ……誰?」
「フフッ、やっぱりアイツがネタにするだけあって、面白い奴じゃ。肝が据わっとるな」

朦朧としていたドラルクの意識が、激しく脈打った。

……レッド・バレット」
「勘が、ええの」

間髪入れず、疾風のような回し蹴りがレッド・バレットの頭部を襲う。
だがその猛り狂った右脚を彼は左腕で受け止め、視線の先――蹴りを放った男を煽るように、ドラルクとの会話を続けた。

「おやおや、随分と惚れさせたようじゃな……

………………

「ドラルクを離しな。レッド・バレット」

嫉妬に濁った紺碧の虹彩が揺れる。

「どっちがドラルクを倒すのに相応しい退治人か……決めてやるよ‼‼‼」

怒れるロナルドの咆哮が、闇夜を引き裂く。

……ほぅ?」

レッド・バレットの口角がニヤリ、と上がった。



――まったく、退治人くんったら。

ドラルクはほのかに頬を染め、兄弟喧嘩の観戦に興じるのだった。