syanpon
2026-02-17 01:31:13
1478文字
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待って詰めるなら愛にして

オトスバ(ししょすば)
現パロー


 バレンタインデー。クリスマスに次ぐ恋人たちの一大イベントと言っても過言ではない。チョコレート会社、企業戦略にまんまと乗せられてるだなんて鼻で笑われるかもしれないが乗れるイベントには乗った方が楽しいに決まっている。恋人の膝の上でチョコデザートのレシピを物色していたスバルに降ってきたその言葉はまさに青天の霹靂であった。
 
「あ、手作りはやめてくださいね」
「何故……? WHY……? …………ぺるけ……?」
「Google検索で調べてまで続けることでしたそれ?」
「お前手作り苦手だっけ? いや、でも俺の手料理普通に食べてるよな?」
「ナツキさんからのチョコレートは欲しいですが手作りはこまるんです」
……なんか保存とかしようとしてる?」
「いいえ」
「ほなちゃうか……

 膝の上でぐるりと男に向き直り、出会った時よりいくらか肉つきの良くなった頬を両手で挟み視線を合わせる。凪いだ湖畔に嫌悪の感情はなくて心の底でひっそりと胸を撫で下ろす。
 
 この静かな恋人はスバルからのチョコはほしいが手作りは貰いたくないらしい。

「変なの」

 ***

「ハッピーバレンタイン!」
「ありがとうございます。嬉しいです」

 バレンタイン当日、起きてきた男にほんの少し背伸びしたお高めのチョコレートを手渡す。垂れた前髪から覗く青い瞳が柔らかく細められ、色の白い細くて長い指先が宝物を扱うかのようにスバルのてからチョコレートを受け取った。
 物欲が薄く言葉通りスバルしかいらないという男がスバルからの贈り物をこうして喜んでくれるのは嬉しい。

「なぁ、オットー」
「なんですかナツキさん」
「手作り、なんで嫌だったの」

 さりげなく、なんてことないように聞くつもりだったのに口に出した声は思った以上に不満と不安で揺れていた。別に夢見る乙女でもないし初心者の手作りよりも著名な菓子店で買ってきたチョコレートの方が出来がいいのはわかっている。
 ただそれでも、我儘だけれど恋人に自分の手作りを欲してほしいと思ってしょうがない。
 そんなスバルにオットーはなんてことない口ぶりで言葉を返す。

――だって3倍返し、できなくなるじゃないですか」
「は?」
「バレンタインにチョコレートをもらったら3倍返しなんでしょう? ナツキさんからの手作りなんて、もらったら一生かけても返せませんよ」
「えっ、と」
「その点市販品だと値段もわかって効率的だ。あなたからもらっているという付加価値でこのチョコレートの価値は定価以上に跳ね上がっていますがこれなら僕でもお返しができます」

 スバルはぽかんとした顔で目の前の恋人を見つめる。見開きすぎて目がおっこちるかと思ったし音もどこか遠くで聞こえてくるような錯覚に陥る。その錯覚のせいで恋人の口からマンションとかアクセサリーとか時計とかなんかとんでもない高級品の候補がポンポン出てきているように聞こえる。聞こえていないし多分幻聴だし大事にすべきなのはそこではない。
 
「なぁオットー」
「車もいいですね……。はい、ナツキさん」
「俺からの手作りが嫌なわけではないんだよな」
「そんなの当たり前でしょう」
「このあと買い出し行ってくるわ。んでもって作ってお前に渡す」
「えっ!?」

 驚いたのか口を開けて狼狽する恋人にスバルはぎゅうと抱きついた。スバルが手渡した市販品のチョコレートを頭上に掲げてあたふたとする男の胸元に擦り寄ってスバルは悪戯っぽく微笑む。

「俺は欲張りだからそうだな、お返しはお前の薬指でいーよ」