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2026-02-16 23:37:07
1894文字
Public 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
 

ダイナーで希う/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ

少し未来のめげないチャンピオンと頑固な兄の話を書きました

「なんで、あんたは俺に靡かないんだろうな」
目の前の席に座った男が頬杖をついてぶすっとして言う。
ナイフとフォークを手にして、いざ、とスペシャルボンプバーガーに切り込もうとしたアキラは目をぱちくりとさせた。
靡く。
頭の中の辞書で検索をかける。この場合は人の魅力に引かれてそれに従うさまを差すのだろう。
アキラはフォークをバンズに刺した。それを支えとし、ナイフを立てる。何段にも積み重なったパテが崩れる。ピクルス、オニオン、トマト、レタス、チーズが雪崩を起こす。アキラのたった一突きで、哀れ、ボンプバーガーはプレートの上で無惨な姿になった。
「ずいぶんと自惚れている」
崩れたバンズの端っこを切って、フォークでトマトとパテをそれにのせて、結局指でつまんで食べる。どだい、食器を使ってハンバーガーを食べる方が無理だったのだ。
「自信たっぷりだ」
食べながらアキラは喋った。
「あなたがかっこいい男なのは認めるよ」
真っ黄色のチーズをパテにからめて、これはフォークで口に運ぶ。
「実力もあって、名声もある。その上、称号も。それで、十分じゃないか?」
口の中のものを洗い流すようにコーラを飲む。きつい炭酸が喉の奥で弾けた。
「何をこれ以上、望むんだろう」
映画を見ては蘊蓄を垂れて、これといった趣味もなく、妹と二人でビデオ屋を営む平凡な男を、目の前のまばゆい男は好いていると言う。どんな脚本家が書いたらそんな設定が出てくるのだろう。そりゃあ、両者のギャップは大きいので、ドラマにするには動かしやすいかもしれないが。
首を傾げるアキラにライトはうなった。
「俺を受け入れてくれ」
「却下だよ」
「懇願してもか」
「たとえバルコニーの下でセレナーデを歌ってもダメだね」
スペシャルボンプバーガーを半分まで食べて、アキラはプレートの乗ったトレイを前へ押し出した。ライトはため息をついて、トレイを指で引き寄せ、グローブを外すと、バンズでぐちゃぐちゃになった具をはさみ、手でつまんで豪快に一口で食べた。
それを眺めて、アキラは思う。
こういうのが世間では男らしいとされているし、郊外で生きていくには必要なものなのだろうし、ライトは自然にそれを体現しているのだ。
こんな、都会育ちの頭でっかちに執心する理由がまったくもってわからなかった。
指についたソースやらトマトの汁やらを舐めとって、ライトはソファに背を預けて深く座った。
「あんたが望むなら歌ってやるぞ、その、セレナーデってやつをな」
こうか?とライトは低い声でビブラートを聴かせてラララ〜と歌った。
アキラは思わず吹き出してしまう。
彼が歌う姿など想像したこともなかったが、びっくりするほど、うまかったのだ!
「あはは、ライトさん、今すぐスターループに行くといい。すぐにソリストになれる」
「そんなもんは望んじゃいない」
「ああ、そうだね……
アキラは店の外の風景に目をやった。
郊外で生活を営むひとびとが、往来を歩いている。
シーザーたちが守ろうとしている暮らしだ。
アキラとリンは、その人生にちょっとだけ飛び入り参加をした。だが、それだけだ。物語が終わればページを閉じねばならぬように、2人は客人としてそこを後にする。
「残念だよ。僕ではあなたの願いを叶えられない」
「あんたがうんとひとつ頷いてくれりゃ、解決するのに」
「そんな行動はいくらでもできる。でも、欲しいものはそうじゃないだろう」
アキラは肩を竦めた。
何度も請われて何度も断っている。
その繰り返しだ。
ライトは全然、諦めてくれない。
いつまで彼は同じことをしてくれるだろう。
彼が自分の前を去った時、自分は何を想うのだろう……
「今日はこれでおしまい」
アキラは紙ナプキンで口を拭った。
「このあとの予定が、僕の行いによってキャンセルされないといいのだけれど」
「俺が断れないのを知ってるだろう。あんたはまったく、悪魔のような男だ」
「天使よりは退屈じゃないだろう?」
古い映画を思い出す。旧時代の作品でホロウがなかった頃の、古い古い映画だ。悪魔が神父に付きまとって翻弄する、下ネタ満載のコメディ。
「僕はこの関係を維持したい」
「知ってる」
サングラスの向こうで、ライトは困った顔をしていた。眉を釣り上げて怒っているくせに、こちらを責めることはしない。
やさしい男に好かれて嬉しくないわけがない。
それでも、アキラは譲らない。
フィルムが巻き戻されて、また物語を描いて、また巻き戻されて……
繰り返しがいつか終わるまで、何度でもアキラは自分の願いを彼に言うだろう。