Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
山茶花
2026-02-16 16:17:37
9822文字
Public
[シルデュ]その他のパロディ
Clear cache
ディアレスト【186OP007】
自分の道は自分で選ぶ話/幽霊シルバー×高校生デュース(現パロ)、周年用ボツ/9300字程度
*現パロです
*『幽霊シルバー×霊感少年デュース』みたいな雰囲気です
*ちょっとだけRな雰囲気のシーンもあります
*オカルト的な儀式を捏造しています
以上大丈夫な方はスクロール↓
『なあ、知ってる? A組の、デュース・スペードってさ
……
』
『
……
ああ。知ってる。アイツの傍にいると、悪いことが起こりやすいんだろ
……
』
『なんだか、不気味だよな。近づかないでおこうぜ』
――
キン、コン、カン、コン。5限目の終わりを告げる、退屈なチャイムが鳴る。
くだらない陰口を一蹴しながら、僕は机の端に下げたカバンを取って、教室を出ていく。
春も終わり、夏が近づこうとする湿度が僕たちを包み込もうとしていた。
交差点、信号待ちを渡ろうとすると、不意に僕を止める声がした。
『デュース、危ないぞ』
僕はその声に、ぴたりと足を止める。その瞬間、信号機は赤色に変わった。
振り向きはせず、ちらりと隣に視線をやれば、そこに立つのは、銀色の髪を持った、透けた身体の青年だ。
赤信号になる瞬間、足を止めた僕を見て、同級生がやっぱり、とヒソヒソ噂話をした。
僕はそれを気にせず、家へと帰った。
「ただいま」
誰もいない家へと帰り、階段を上がって自分の部屋へと急ぐ。まあ、誰もいないって言っても、母さんは仕事中ってだけだけどな。
宅配便のトラックの運転手だから、何日かかけて遠くまで行くこともあるんだ。
それで、部屋に戻る。部屋に戻った僕はようやく、銀髪の青年に話しかける。
「シルバー。今日もありがとな」
『気にすることはない。お前を守ること、それが俺の使命なのだから』
シルバー。それが、この幽霊の名前だ。シルバーは、僕が覚えてないような小さい頃から、ずっと僕の傍にいる。
それで、僕が危ない目に遭おうとすると、必ず守ってくれる。僕にとっての守護霊、守り神みたいな存在だ。
シルバーが守っていてくれるから、僕自身は危ない目に遭わずに済む。でも、僕がこうやって回避した危機を、他の人は知らない。
だから、他の人から見れば、僕がまるで不吉なことを起こしたり、他の人に押し付けてるかのように見える、ってことなんだ。
でもそんなのは、どうでも良かった。僕にはシルバーがいてくれれば、陰口も、何も。どうでもいいんだ。
だって、シルバーは、ずっと僕の傍にいてくれた。小さい頃から、ずっと、ずっと。
誰に見えなくても、僕の傍にはいてくれた。困ったときには、いつも助けてくれた。
僕がシルバーの手さえ振り払い、道を踏み外して、母さんを泣かせてしまったときも。
これからも、シルバーは僕の傍にいてくれて、僕がどんな道を歩むとしても、ずっと、一緒にいられるんだろう。
そう、思っていた。
なのに、ある日、シルバーは言った。
『デュース。もうすぐ、16歳の誕生日だな』
「ああ。そうだな、今年はまともな誕生日になるといいけど
……
」
少し前まで、僕は荒れていた。不良になっていたんだ。だから、今は母さんを悲しませないよう、今年こそはまともな誕生日を送りたい。
「シルバーも祝ってくれるんだろ?」
『
……
ああ。だが、その前に
……
。今のうちに、話しておきたい、ことがある』
当然、傍にいて、祝ってくれるはずだと思っていた。そんな僕に、シルバーが告げたのは。
『俺は、お前の次の誕生日に、消えてしまうだろう。だから、言いたいことがあるのなら、今のうちに
……
言い合って、おかなければな』
僕は、頭が真っ白になった。
だって、だって、なあ。僕は、16歳の誕生日に、言おうと思ってたんだ。
――
シルバーのことが、好きだって。
その日は眠れなかった。僕は、これまでのシルバーと僕の歩みを、ずっとずっと頭の中で振り返った。
初めて会ったのは、いつだったっけ? 5歳だか、3歳くらいのときだっけか。
なんでか分からなくて、とても悲しくて、ひとりでしゃがみこんで泣いてたら、その頃は僕と同じくらいの見た目だったシルバーが、手を引いてくれた気がする。
その手の暖かさに、僕はとても安心したんだ。
それから、シルバーは、僕が危ない目に遭おうとするときや、困ったとき、必ず出てきて、手助けをしてくれた。
例えば、信号待ちでぼーっとして、危うく飛び出してしまいそうになったとき。
例えば、神社なんかに行って、石段を危うく踏み外しそうになったとき。
例えば、ぬかるんだ崖から落ちそうになったとき、増水した川に足を滑らせそうになった時、なんだか怪しい祠に吸い込まれそうになったとき
……
。例えば、たとえば、たとえば。
シルバーに助けられた瞬間、過ごしてきた時間の総てが、僕の中で走馬灯のように蘇る。
僕はそうやって、僕の手を引き、声をかけながら助けてくれるシルバーに、知らない間に、気づく間もないうちに、恋をしていた。
なのに、なんだって、なあ。今さら。今から1か月もしないうちに、お別れだって?
……
急すぎる。
僕はその夜、ベッドで寝転がりながら、隣で見守るシルバーに言った。
「消えるなんて、嫌だ。僕は、アンタがいなかったらきっと、またダメな奴に戻っちまう」
傍にいてくれよ、と懇願した。でも、シルバーは言った。
『それでも、お前なら
……
正しい道を往ける。きっと、俺がいなくとも。それに、もし、またお前が道を間違ってしまったとしても
……
いいんだ。お前が、生きていてさえ、くれるのならば』
優しく突き放すようなシルバーの言葉に、僕は、悔し涙を隠すようにして流した。
翌日。蒸し暑さが近づいてくる曇り空の学校で、退屈な授業を聞き流していれば、赤毛のクラスメイトが話しかけてきた。
コイツは、エース。エース・トラッポラ。入学当初からやたら僕のことを気にかけ、話しかけてくる、変わり者のクラスメイトだ。
「なあ、デュース。お前も一緒に遊びに行かね? 今日の放課後、みんなでカラオケとか行こうって話しててさ」
その瞬間、教室の空気がひりついたのが分かった。そんな奴誘うなよ、と、みんなの目線が言っている。
「
……
やめとく。お前も、空気読んでやれよ。僕を誘って得する奴、いないだろ。この教室に」
「まわりのコトは関係ないじゃん。大事なのは、自分がどうしたいか、だろ?」
僕は溜め息をついて、ソイツに答えた。
「とにかく、僕は行かない」
僕の答えを聞いて、周囲の空気が、どことなくほっと緩んだ気がした。
でも、すぐにそれはざわめきに変わった。
『アイツが行かないって答えたってことは、なんか悪いことが起きるのか?』
『え、やだ、怖い
……
今日やめとこうかな
……
』
こういうのも、もう今さらだ。シルバーといられる代償がこれくらいで済むのなら、と思って、今まで耐えてきたっていうか、スルーしてきたけど。でも。もう、シルバーといられるってことすら、今の僕からは取り上げられるのかもしれないんだ。
「
……
用事があるんだ。僕にも。大事な用事が」
「用事? どんな?」
「お前には関係ないだろ」
僕は、机の端にかけたカバンを取って、教室を出て行った。
シルバーには、しばらく一人にしてほしいと頼んだから、今は姿を隠しているか、着いてきていない
……
と思う。
僕は、帰り道にある見るからに怪しげな古書店で、尋ねた。
「
……
死んでしまった人と、添い遂げる方法を書いた本とかって、あったりするか?」
「おやおや
……
。これはまた、随分と危ない香りがする小鬼ちゃんだ。でもね、あるよ。ウチの店は、なんでもアリさ」
店主はそう言って、一冊の本を僕に差し出した。
「でも、本当にいいのかな? その選択は、君自身が
……
人の道を外れる、ということでもある」
「かまいやしねえよ。お代、いくらだ?」
そして僕は会計を済ませ、古書店を出た。
古書店を出て、家へ帰ろうとした先、踏切の手前で、さっきのクラスメイト
……
エースが、僕を待ち構えていた。
「
……
」
無視して通り過ぎようとすると、ソイツは僕を引き留めた。
「おい、なあ、オイって! デュース!」
「
……
なんだよ、馴れ馴れしく名前を呼ぶな」
僕は踏切を渡る。カンカンと鳴る警報機の音が、列車が近づいているのを現していた。
踏切越しに、僕らは叫ぶように話す。
「お前、さっきの店で、変なモン買ってなかった!?」
「お前には関係ないだろ!」
「あるって! クラス同じ、友達じゃん!! ってか、死んだ人と添い遂げるって、何なワケ!?」
「盗み聞きなんて、趣味悪いぞ!!」
「それは悪かったけど、さすがに顔見知りが危ないことしようとしてたら、止めるし!! お前、何考えてるの!? ねえ、お前さ、好きな女の子作ってさ、結婚して、子ども生んで、親にその子の顔見せたりするような
……
、そういう『フツーの幸せ』、いらないの!?」
カン、カン、カンと、警報機の音がけたたましく鳴り響いていく。
エースの言葉に、母さんの顔がよぎって、一瞬だけ言葉に詰まったけど。僕はそんなエースの叫びに、呼応するように、答えた。
「僕が何を考えてたって、僕が選ぶ、僕の自由だ!! 『他のヤツは関係ない、自分がどう思うか』、なんだろ!? ダチだって言うなら、止めるなよな!!」
僕と、変わり者のクラスメイトを遮る、踏切の遮断機が、降りた。
それをいいことに、僕は、踏切の向こうのエースを置いて、走り去った。通りすぎる列車が、僕が向かう方を隠してくれた。
僕は、家に帰り、古書店で買った本を焦る手でめくった。そこに書いてあったのは、幽霊と添い遂げるための、儀式。
いわゆる『冥婚』の儀式のうちの一種が、そこに描かれていた。
――
もし、死者とコミュニケーションが取れる場合の方法は
……
。
僕はそれを、じっくりと読み込む。そして、ふう、と息を吐き、覚悟を決めた。
これからの一生を、たったひとりのために捧げていく覚悟を。
僕の誕生日が、もうすぐそこまで、迫っていた。
『デュース。お前とは、いろいろなことがあった』
あれから少しして、翌朝。ふと、僕の元へ戻ってきたシルバーが、懐かしそうに言った。
『少々、心配な時期もあったが
……
。お前はもう、ひとりでも立派に歩いていけるようになった。正しい道を。それは俺の誇りであり、光だ』
「何を、もうじきお別れです、みたいな雰囲気出してるんだよ
……
ったく」
『もうじき、というか
……
。明日は、お前の誕生日だろう。そうなれば、きっと俺は消える』
「消えないさ。絶対に、消してなんか、やるもんか」
『
……
デュース? そちらは学校じゃないぞ、どこへ行くんだ
……
?』
僕はその日、学校を休んだ。エースに会いたくなかったし、それに、もっとやるべきことがあると思ったから。
家に帰ると、母さんが何か、小物の入った段ボールのようなものを整理していた。
「あら、デュース? もう帰ったの? 忘れ物?」
「あー、なんかちょっと調子悪くてさ、今日は休もうかなって。
……
あれ、片付けしてんの? これって
……
」
あら、風邪でも引いたのかしらと心配する母さんをよそに、僕の目は、1枚の写真に釘付けになっていた。
そこに映っていたのは、だって、紛れもなく。幼かったあの日、僕の手を引いてくれたシルバーの姿だ。
「母さん、この、写真って
……
?」
僕が尋ねると、母さんは答えた。
「ああ、それね。
……
デュース、落ち着いて聞いてね。あのね、あんたには小さい頃、仲良しのお友達がいたの。シルバーくんって言ってね、ひとつ年上の男の子で
……
。まるで本当の兄弟みたいに仲良しで、あんたはいつもその子の後ろをついて回ってた。でもね、ある日、一緒に遊園地に行ったとき、シルバーくんは、車道に飛び出していったあんたを庇って、その、事故で亡くなってしまって
……
」
「
……
僕、忘れてた、のか
……
そんな、大事なことを
……
」
「
……
小さかったもの、仕方ないわ。事故のショックでね、記憶が混乱してたみたいで
……
シルバーくんのこと、すっかり忘れちゃってたみたいなの。でも、もうアンタも16歳になるものね
……
」
そろそろ、本当のことを知っても良かったのかもしれないね、と母さんは言った。
僕は、少し休むと嘘をついて、部屋に戻り、鍵をかけた。
「
……
シルバー、いるんだろ」
『デュース
……
。お前が、気に病むことはないんだ』
幼い頃の記憶が、蘇る。シルバーが僕の手を引いて、僕を突き飛ばして、引き換えに、目の前が真っ赤になった様子が。
僕がわんわん泣いて、真っ赤になりながら、大丈夫だってほほ笑むシルバーの様子が。
少し後の記憶が、蘇る。僕がすっかりすべてを忘れて、シルバーのことを一番の友だちだと思っていた頃。
僕が、シルバーより身長が高くなってしまったのを悲しく思って、泣いてしまったら、シルバーがどうやったのか、大人になった姿で僕の前に現れたことを。
そうやって、シルバーは今までずっと、僕のことを守り続けていてくれたことを。生きてる間も、死んでからも、ずっと。
そんなことが分かってさえも、僕の我侭は止まらない。
「シルバー
……
! 嫌だよ、僕、アンタと、ずっと一緒にいたい
……
!」
『デュース
……
』
「アンタのことが、好きなんだ、どうしようもなく
……
っ、アンタさえ傍にいてくれたら、他のものなんて、いらないんだ
……
っ!!」
僕は、泣きながらしゃがみ込む。シルバーは、とても悲しそうに、困った顔をした。
『俺も、お前のことが大事だ、デュース。でも、だからこそ
……
。お前と、離れなくてはならない』
「なんで。僕が、学校で疎まれてるからか!? それとも、友達がいないからか!? そんなのどうだっていいんだ、どうだって
……
!!」
『そういうのも、すべて、だ。俺のせいで、お前が疎まれることなど、あってはいけなかったんだ』
俺の魂は本来、此処に在ってはいけないものだ、とシルバーは言う。
それでも。それでも、僕は。
「
……
シルバーがいてくれるなら、ちゃんと、友達付き合いだってする。噂だって、誤解だって言う。それでも
……
?」
『今は良くても、お前の人生に俺がいては、きっと、いつか邪魔になる。分かってくれ、デュース。別れの時が来たんだ』
「そんな日、来ない! 来るもんか!!」
『デュース
……
』
シルバーは、僕の涙を拭うように人差し指を目元に添えて、言う。
『ああ、やはり。
……
俺のこの身体では、お前の涙ひとつ、拭ってやれやしない』
「シルバー
……
」
『デュース。俺も、お前のことが好きだ。だからこそ、幸せになってほしい。俺は、人ではない、幽霊だ。人であるお前と同じ道を往くことはできない。お前には、こんな不自由な体を持つ男ではなく、共に老いて、同じ時を生きられる人と、幸せになってほしい』
僕は、シルバーのその言葉を聞いて、覚悟を決めた。
僕だけの我侭なら、シルバーを縛りつけるのは、良くないと思ってた。でも、シルバーも僕のことを好きだと言ってくれるなら。
「シルバー、本当に、僕のこと、好きなのか
……
?」
『ああ。だから、デュース
……
』
僕はすくりと立ち上がり、古書店で買った本の表紙を払った。
そうして、シルバーの前に持って来る。
「あのさ。この本に、書いてあるんだ。死んじゃった人と、添い遂げる方法が」
『デュース、それは
……
!』
シルバーが慌てたように声をあげる。それでも、もう、僕の覚悟は決まっていた。
「その、方法は。真っ暗な部屋の中で、相手の幽霊と、結ばれること。僕は、今日、今夜、この方法を試す」
『駄目だ、デュース!
……
危険だ
……
、やめてくれ』
もし俺がそこへ行かなかったら、妙な低級霊などが迷い込むこともあるんだぞ、とシルバーは言う。
「シルバーが来なかったら、だろ? それに、いいんだ。そうなっても。だって」
だって、の次に、僕は言葉を紡ぐ。本気の言葉を。
「だって、もしシルバーが今夜、僕に触れてくれなかったなら。僕は明日、高架橋から飛び降りる。重ねた時間も、夢も、これからの未来も、何もかも投げ捨てて」
『そんな
……
!』
「ずるくてごめん、シルバー。でも、僕には
……
僕にはもう、これしか、残されてないんだ。だから、お願いだ、シルバー」
僕を想うなら、今夜、僕の部屋に来て、僕と結ばれてほしい。
僕と一生を共に歩んで、ずっと、守っていてほしい。僕の心を。
「
……
もう、シルバーがいなきゃ、生きていけないんだ、僕」
シルバーは、分かった、と頷いて、しばらく考える時間をくれ、と、僕の部屋を後にした。
僕はぼうっとしながら、部屋の天井を見つめて。今晩、どうなるかな、なんて。どこか夢見心地で考えていた。
*
――
デュースの言葉に、俺は、迷っていた。生きていて、ほしい。デュースには、幸せになって
……
幸せでいて、ほしい。
だけど。だけど、デュースは今、俺がいなくては、死んでやる、と。言っている。それほどまでに、俺は
……
デュースのことを、彼の心を、取り込み、追い詰めてしまった。
ならば、俺は。その責任を、取るべき、なのだろうか。それとも、デュースはそれでも、俺の気持ちを汲み、前を向けると信じて、黙って消え去るべき、なのだろうか。正しい道は、きっと後者だ。
だけど、今
……
。デュースが選ぼうとしているのは、正しくない道だ。きっと
……
。
その先にあるのは、あの日俺が避けようとした、薔薇のように真っ赤な血みどろの、悲劇的な結末だけかもしれない。
ならば。ならば、俺は。たとえそれが誤った道なのだとしても、お前の隣に、寄り添おう。この選択が、正しくないとしても。俺は、お前に生きて、笑っていてほしいから。
――
デュースに、笑って生きていてほしい。それだけが、俺の存在理由であり、願いなのだから。
*
――
夜。
皆が寝静まった深夜二時。僕は、部屋の灯かりを消して、そして、シルバーを待った。
カチ、コチ、と時計の音が、やけに大きく響く。
そんな中、何か、黒いモヤのようなものが、部屋の中に現れた気がした。
『
……
』
「シルバー
……
じゃ、ない、な。
……
そっか。僕の結末は、これか
……
」
僕は、目を閉じて、その低級霊を受け入れようとする。するとその瞬間、眩むようなまばゆい光が、僕とその霊の間に光った。
『
……
まったく、割り込みとは、なっていない。デュース。遅くなって、すまなかった』
「シルバー
……
! 来て、くれたんだな」
どうやら、シルバーがその低級霊と僕の間に割って入ったみたいだ。低級霊はシルバーの霊気に当てられたのか、いなくなっている。
『ああ。
……
悩みに、悩んだが。心も体も危ういお前を、このまま放ってはおけない。俺が守ることで、お前が、この先を生きてくれるのなら
……
俺は、この咎を背負おう』
「ありがとう、シルバー
……
」
『
……
デュース』
シルバーは、僕の口に、そっと人差し指を当てるような真似をした。ひんやりとした気配が、口元に当たった気がした。
僕は目を閉じ、待った。シルバーの冷たいくちづけが、僕の唇に重なったような気がした。
自分からシャツのボタンを外し、身体をベッドに横たえて、待った。
ひんやりとした気配が、僕の身体のあちこちをなぞり、触れているような気がした。
ずっと目を閉じていたけど、でも、僕は不思議と、怖くなかった。
たとえひんやりとした気配だったとしても、その手付きが、優しくて。
今、僕に触れているのは間違いなくシルバーなんだと、分かるような気がしたから。
そのうち、冷えた気配が、身体の中、奥の奥に重なるような感じがして。
高揚する気分と共に、唇に、何かの『熱』が、触れたような気がした。
「
……
ああ、シルバー。僕、アンタに触れるようになったんだな
……
」
『デュース
……
。愛して、いる』
僕に触れられるようになったシルバーは、額をこつんと合わせて、言った。
『本当は、お前は
……
同じ時を生きられる人と、道を歩むべきだった。俺がそれを、奪った。だから、これから一生、守ってみせる。これは俺の罪であり、永遠の誓いだ』
「ははっ
……
。僕、今、すごく嬉しい。アンタが、僕の人生を奪ってくれて、本当に嬉しいんだ。ありがとう、シルバー
……
」
そうして僕たちは、抱き合って眠った。カーテンの隙間から、朝の光が射し込むまで、ずっと、魂ごとひとつになった気分だった。
――
翌朝。シルバーは、少し照れくさそうに、おはようと僕の額にキスをした。
シルバーは相変わらず透けていたけれど、触れる感触と温度は、確かに僕と共有している。
『デュース。約束は覚えているな? ちゃんと、友達付き合いもしていくんだ』
「分かってるよ。ちゃんと、今日からまた学校にも行く。友達とも遊ぶ。だって、シルバーがいてくれるんだもんな」
『ああ。それじゃあ、今日も頑張れ。俺は、ずっと傍で、お前のことを見守っているから』
そうして僕は、母さんに体調を心配されたことに少し気まずさを覚えながら、学校への道のりを歩いていく。
登校途中、エースに会った。
「ああ、エース。おはよう。昨日は悪かったな」
僕が自分から挨拶すると、気まずそうにエースは返事した。
「お、おはよ。無事だったんだ
……
。
……
てかお前さ、なんかあったの? なんていうか、なんか
……
雰囲気、変わったけど」
「さあ、な。まあでも、これからはちゃんと
……
お前らとも付き合っていこうと、思ったよ。大事な人と、約束したからな」
「
……
あっそ! ならさっそく、今日の放課後から付き合えよな!」
「本当に早速だな
……
」
僕は、まるで普通の学生のように、いつもの道を歩き始める。
だけど、分かっていた。僕はもう、人の道を踏み外したんだってこと。それでもいいから、シルバーといたいと願ったってこと。
――
あの本には、儀式の代償が書かれていた。僕はもう、同級生と同じ時間は歩めない。
コイツらが大人になり、おじさんおばさんになって、老いていく横で、僕だけは今のまま、変わらない姿でい続ける。
そうなったら、会えない友だちも出てくるだろう。母さんも、そのうち変わらない僕の姿を不思議がるかもしれないし、孫の顔は見せてやれない。そのことは、すごく申し訳ないなって思う。でも、それでも。
エースにくらいは案外、事情を説明して、交流を続けられるんじゃないかなって気がしてた。
「そう思わないか、シルバー?」
『
……
まったく。お前と来たら
……
。まあ、でも。そのような未来も、いいのかもしれないな』
お前がひとり、孤独でいるよりは、呆れながらも受け入れてくれる友人がいた方が、ずっといい。
シルバーはそう頷いて、僕の頭を撫でた。
エースはそんな僕の方を見て、言った。
「そういやお前さ、なんで時々何もない方見て、喋ったり笑ったりしてんの? それが、なんていうか、そこにいるのが
……
その、お前の、添い遂げたいって言ってた、大事な人とかだったりするの?」
僕はシルバーをちらりと見て言った。
「ああ。それくらい大切な人がいるんだ、そこに」
「ふーん、なら仕方ないね。
……
危ないことじゃ、ないんだよね?」
「ああ、もう危なくなんてない。むしろ、僕のことを、守ってくれる。これからずっと」
「あっそ!
……
なら、良かったね。なんていうか
……
おめでと!」
エースはあっけらかんと、僕の告白を受け入れる。
「驚かないのか? っていうか、祝ってくれるのか?」
「
……
だって、ソイツと話してるお前、いつも幸せそうだし! 悪いものじゃないなら、別にいいでしょ」
エースの言葉に、僕とシルバーは顔を見合わせて笑った。
僕たちはあんなに悩んだけれど、案外、世界って、心が広いのかもしれないな、と。
16歳の誕生日を迎えた僕の頭上に広がる空は、ぽつぽつと天気雨を落としながらも、ただ今は青く、不思議なくらいに澄み渡っていた。
*おしまい
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内