ortensia
2026-02-16 16:04:19
2514文字
Public 創作
 

⚔️

ソウルライクな話が書きたかった。

 かつては美しい都を湛え、世界の中心地と言っても過言ではないほど栄えた王国は、突如その王が神に魅入られたことで、その王都意外の全てが滅んだ。
 残った者は王都の国民のみ、それ以外の場所は色褪せ、今やデーモンがはびこり、それとその慟哭しか響かない。
 たとえそのデーモンが王都に侵入したとて、王が国軍を動かしてくれるわけでもない。王は相変わらずひとり、神の御下だからだ。
 国民は自分達で身を守るしかない。あるいは王を見限った王国騎士が自らの騎士道を切り開いて民らを守護した。
 そんな世で、傭兵騎士をしているとある市民の前に現れたデーモンは、他のデーモンと異なっていた。
 傭兵騎士に交渉を持ち掛けてきたのだ。
「親殺しをしたいの。」
 怪物は言った。
「なんのことだ?」
「神を殺すの。」
 おぞましい顔で薄寒い歌を奏でるように、デーモンは言った。
「おまえ達にも理のある話ではない?世界を壊した神に恨みがあるのでは?」
……そういうそちらは?」
「生み出された罪を問うの。」
「なんだって?」
「我々デーモンは滅びの地にその代償として生み落とされた。しかしそれでは生きるのも苦しい。苦しみしかない世界に生み落とした、その責を神に償っていただくの。」
 それで親殺し、もとい神殺しを望むと言う。
……それなら自分達でやればいい。」
 所詮は傭兵の出自である、そうしたところで正直現状から好転すると言われても、想像が付かない。今でも傭兵騎士で食っていけている。あまり興味はなかった。
「親殺しは禁忌。それ自らの手で行うことは叶わない。」
「だったら人間だって神を殺せないのでは?」
 デーモンは不思議そうにする。
「人間は神が生み出したものではないでしょう?」
「そうなのか?」
「人間は自分達を生み出した存在を知らないの?」
……知らない。」
 デーモンは益々不思議そうにした。
 兎に角、デーモンには出来ないが、自分達ならば神を殺せるらしい。だから代わりに依頼してきたという話だった。
 依頼を受けて相手を殺すのは普段の傭兵仕事と変わらないが、デーモン相手の利点がない。
「貴様に協力する理由がない。生憎、今の生活のまま生き、そして死ぬことに、不満はないのでな。」
 デーモンは食い下がらなかった。
「しかしおまえは、妖精の目の持ち主でしょう?」
「妖精の目?」
「ああ。おまえ達は、ファントムと呼ぶんだったか。使っているのでしょう?わたし達、デーモンの心臓を。おまえ達には勝手に原晶石と呼ばれているもの。」
 驚いた。
 デーモンの心臓、もとい原晶石があれば、周囲に霧と、特殊な空間が生まれる。それは結界となり敵意を寄せ付けない。
 それに原晶石には血を鍛える力がある。血とは、人の身に流れる生命力の源であり、それを鍛えることで、能力を高めることが出来る。そうして血を鍛えた者達を、ファントムと呼んだ。
 凶暴なデーモンを、そしてそれ以上の存在を屠るためならば、人間には必要な要だ。
……それがデーモンの心臓だというのか?」
 そうだと呆れたように言う怪物は、のんびりしているように見える。デーモンは、だから、と続ける。
「妖精の目は神殺しの鍵。おまえがわたしに目を差し出すなら、わたしもおまえに心臓を差し出しましょう。」
 笑って言うデーモンに、思わず自分の顎に手をやる。
 つまり、都の特定の場所にしかない原晶石だが、手を組めばいつどこでだって、結界を張って血を鍛えることも出来る。
 この待遇は今の世に必要なことだ。それをしたその先で、今の世を壊すことになろうとも。
 このデーモンはこちらの目が鍵だと言った。自分が断れば、何処か他の誰かの元へ行くのだろう。その相手の目を求め、鍵として。
……わかった。貴公の心臓を貰い受けよう。」
 思えば、都の至る所にある原晶石は、それがいつからあるのかは分からなかった。あるいは誰が持ち込んだのかも。
 しかしデーモンの話を聞いて、原晶石がデーモンの訪れ、つまり世界の崩壊以前にあったかどうか、それすらも判然としない。以前からあった気もする。ならば原晶石とは、デーモンとは。人間、とは。
 かくして人とデーモンの、神殺しの旅が始まった。
 王城には未だ、神の御下で腑抜けたとされる王を擁き、あるいは自身も腑抜けた王国騎士達がいる。騎士道と共に戦意も喪失していれば、たわいもなくていいのだが、思考停止して戦いだけに身を任せているようでは面倒だ。
 それに、こうなってからもなお、くだんの神を信仰する教会の連中もいる。デーモンは、人間は神から生まれたものではないと言ったが、それならば、信仰しているのは馬鹿らしいことだ。やたら天に高い教会で、中には鳥籠の雫と呼ばれる昇降機で移動する。地上から見上げれば首を痛め、中に入ったところで上下の移動で正しい道を通らないと最奥部に辿り着けない。王城の鍵を預かっているらしいが、下手をすると王国騎士達から奪った可能性すらある。
 あるいは、人間側にも神殺しを画策する集団もいる。その者達は、神を殺せば、そうした者が次の神となれることを信じている思想の者達で、邪魔する者は、神でなくとも殺してくる。小手先の仕掛けばかりをしてくる奴らは、教会の女神像をいじって罠を仕込んだりするから、注意が必要だ。
 王都だけ残されたとて、人々は一枚岩には纏まらないものだった。デーモンを混沌と呼び、無秩序の蹂躙と恐れ貶す人々もまた、それと同じなのだ。
 何より、そうでなくとも、デーモンなんぞ連れ歩いていれば、全ての人間の敵とも言える。
 たった今から残された世界の全てが敵だ。代わりに世界で生き残るすべが手中にある。
 世界に滅ぼされて死ぬか、世界を滅ぼして死ぬか、それだけなのだ。
 ならば人生で一度くらいは欲しいではないか、神を殺す力が。
 そして、神殺しを画策するデーモンと傭兵騎士の出会いは、王都の外れ、王城から最も離れた、翳りと湿り気の場所であった。
 ここから始まる物語の、霧の安らぎだけが救いだとしても、それは永遠ではないのだ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。