明るい赤色をベースにした箱に、金色のリボン。箱に描かれたスレインにはよくわからないロゴはきっと、その店の思いのこもったものだ。
毎回何かしらを差し入れてくる界塚伊奈帆の本日の差し入れは、可愛らしい小箱だった。
中身のチェックのために一度開けられた形跡のあるその箱に、伊奈帆がわざわざリボンをかけ直したのだろう。ところどころがよれていて、心臓の裏のあたりが僅かに痛むような感覚を覚える。
「これは?」
「チョコレート。たまには甘いものでもと思って」
彼の差し入れは食事系のものが多い。幼馴染の定食屋のお弁当の日もあれば、彼手作りのものを詰めてくることもある。けれどたしかに、甘いものはほとんどなかった。伊奈帆がたいてい昼食時に来るというのもあるし、スレイン・トロイヤードは囚人という立場であるし。
「嗜好品なんて……というのは今更か。ありがとう」
「僕も気になってたやつなんだ。コーヒーもある」
そう言って開けられた、もうすっかり愛用の品であろうステンレス製の水筒から湯気が立ち上る。支給されている紙コップに注ぐといい香りが硝子張りの面会室に満ちて、つられたように軽い空腹を覚えた。音にならない小ささで、腹のあたりがくるりと鳴く。
ほら開けてと急かされて、リボンを外して小箱の蓋をぱかりと外す。
箱の中には、小さなチョコレートが6つ並んでいた。どれも形状も色みも異なり、やはり中身も可愛らしい。目が覚めるほど赤いものや、ころりと丸いかたまりの上に何かのの粉末のようなものがかかったもの。こういったものを目にするのは父と地球を発って以来だから、懐かしい。火星ではチョコレートなんてほとんど耳にすることもなかったし、仮に地球から輸入があったとしてもほんのひとにぎりの上層でしか出回っていないだろう。こんな、味にも見た目にもこだわっていそうな――そしてやたら高級そうなものは久しぶりだ。
思わずのぞき込んでしまっていて、伊奈帆からふ、と笑うような気配がする。慌てて居住まいを正して向き直る。こちらを揶揄っているのだろうと思いながら交えた視線は、思いの外やわらかい弧を描いていた。
「ちょっと遅くなったけど」
穏やかな声が、少しばかり残念そうな低音を混じえてつぶやく。
「……遅くなった?」
「いや、なんでも。喜んでもらえてよかった」
『喜んでもらえて』。否定も肯定もしづらくて、だまって紙コップに口をつける。甘いチョコレートに合わせたのか、いつも彼が持ってくるものとはどこか違う香りがした。
「好きなの選んでよ」
「……じゃあ、これを」
一番オーソドックスな、なめらかな四角に整形されたものをつまみ上げる。伊奈帆もひとつぶ選んだのを見届けて、口の中へ放り込んだ。
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