asahito
2026-02-15 21:41:22
3270文字
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Old Fashioned①

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

人間版ユイマンは幻想郷よりかは犬歯は鋭くないイメージです。それでも痛いと思うけど。

 経験則からそうなるだろうとは思っていたけど、予想を超える結果だったことは。彼女の傷の深さと寂しさのツケとしてきちんと私の躰に刻まれた。
 目を覚ませば薄暗い部屋に、読書灯程度の光があり。その暗闇に目を慣らしていくうち、皮膚のひりつきがあちこちで起きる。
 肩も、お腹も、腕も、太腿も、口では言いにくい場所の何もかも。
 今すぐに洗面所に行き。苦手な鏡に私の姿を見せに行けば、醜い自分が更に醜く映るのは火を見るより明らかだ。
……う」
 躰をゆっくりと起こせば鈍い痛みも付随し。その痛みを起因として昨晩のことがありありと浮かび顔が熱くなる。
 彼女の私への怒りは時間を経て分からず屋への罰と変わり行き。
 何度も意固地な私を諌めるように。何度も機嫌を損ねたことを責めるように。歯を軽く突き立てて痛みを与えてきた。
 普段から噛み癖が強い子だとは思ってるけど。喧嘩の後はそれが酷くなる傾向は確かにあった。それは私の存在を皮膚と肉を経由して確か得るようだった。
 肌を傷つけない程度に気をつけてくれても。腹が立てば飢えるように攻撃性は高まる。威嚇する蛇の如く、瞳の色を獲物の前で獰猛にして。
 私に声を掛けることは少なくとも。私は彼女の名前を呼びそれが許しを乞う代わりだった。深く噛まれても、歯が皮膚を滑って傷がついても。決してその口を掌で覆うことはせず、痛いとも声を上げなかった。
 離れ離れの夜に寂しい思いをさせたことを。悔やんでも悔やみきれない。また一つ私と彼女の間に、傷跡は残ってしまった。
 あの店主のサポートがなければこんなにもスムーズに仲直りには行きつけられなかっただろう。
 私たちの関係に他人を巻き込むのは良くないとは思うが、血縁でも仕事の関係者でもないあの人ならまだ良い。後腐れもほとんどない。
 後で彼女と一緒にお礼にまた行かなければなと思い、その彼女がまだ自分のベッドの中にいることに安堵する。
 体力が有り余っている彼女であっても。流石に昨日あんなに噛みつけば疲れてしまうだろう。
 ホテルでは寒くてあまり眠れなかったともいうし、強いお酒を何杯も飲んだことも疲労を後押ししたに違いない。
 すやすやと眠るユイマンの表情を眺め。ゆっくりと休ませてあげようと乱れた銀髪をそっと撫で、彼女への想いを指に込め梳った。
 色素の薄い肌と白い睫毛。それでも、私が朝に帰って来た時よりも血色は戻っており満たされたように口元は緩んでいる。
 食事をさせて体をお風呂で清め、彼女の心身を癒すにしても。それ以上に満たされないモノは私自身を彼女の為の餌にする。
 決して食いちぎって消化ができるような肉片にはなれないけど。噛みつくことで心を癒すことができるなら、多少の怪我は残っても別にいいでしょう。
 腕の噛み跡も、胸元の愛撫の証も。太腿の痣のような傷も。背中の醜い痣以外はどうせすぐに消えてしまうのだ。
「まだ寝てて大丈夫、かな」
 枕元のスマートフォンで時間を見ればまだ早朝よりも前。今日は私が仕事なので、これから少し休んだらシャワーでも浴びて仕事に行かなければいけない。
 仲直りのできた翌日に、仕事に行くのは至極心苦しくもあるけれど。無断欠勤などすればそれこそ全てを失ってしまうだろう。
 昨日の餌で彼女を満足をさせられただろうか。左手にある指輪を眺め問いかけを天井に投げる。
 まだ、私は貴方のものだと思っていていい?
 その問いに答えは当然なく。ユイマンは幸せそうに眠り続けるだけだ。
 ベッドから体を起こし全裸で床に足をおろすと。やはり、ひやりとする。暖房も冷房もない状態でこれなら、もう冬は近いな。
 体温の高い私でもこれなら。きっと彼女は、目を覚ました時に寒いと辛そうに呟くだろう。
 これからもっと寒くなる季節、毛布の準備をしないと彼女が躰を冷やしてしまう。
 冬という季節は当然一年の間に来る季節でも。その季節が来ると思うと、とたんに気持ちは沈み始める。
 日照時間の短さや肌へのダメージの冷たさが嫌だと言えばそれまでだけど。冬という季節に、どうしようもない恐怖心を抱きそれに慄いた幼い頃を思い出す。
 誰もいない、生命のない場所にひとり。醜い私が立っていて。そこにはいて欲しいと思うものがいなくて。どこを追い求めても見つけられない。それでも、安らかに眠ることも許されない。
 そんな夢を決まってみるのは、冬という季節の時であった。ユイマンも冬は体温調整が難しくなるため着込んだりして大変そうだが、幼い頃の活発な彼女は雪の中の楽しみ方を知っていたし。
 冬は冬で色々なイベントがあるからと私を連れ出して楽しもうと言ってくれる。
 それが私の救いであり。冬という漠然とした恐怖への気持ちを少しでも変えたいと願うことでもあった。
 好評だった展示はまだまだ続くにしても、次は違う展示の準備がある。それのためにまた色々な施設に連絡しなければならないし、書きかけの論文や引き取る施設を探している寄付物もある。
 冬を憂いている場合ではないだろうと、私は羽織るものを探しにリビングへと向かおうとする。
 その前に、書斎机の上にある指輪の箱へ外した指輪を戻した。これをつけたままでは仕事場には向かえない。







 朝食は出来合いのスープだけを用意し、食卓に食器だけ置いて身支度を整えた私は出勤する準備をする。
「ユイマン、私仕事行くからご飯は温めて食べてね」
 私のベッドで未だ眠り続けているユイマンに声を掛けるが。もぞもぞと動いただけで特に返事はなかった。目覚めの良いユイマンがあんな感じになってしまうなんて、本当に疲れていたのだと思った。
 ゆっくり休んで、いつも通りの彼女に戻ってくれたらと思うのは勝手だと思うけれど。元気のない彼女を見るのは辛い。
 鍵を閉めて仕事の意識に切り替えれば、躰に刻まれた傷跡を意識することもなく何食わぬ顔で道を歩くことはできる。
 ときおり服の繊維と擦れてひりつく痛みもあるが。それを意識すればするほど昨晩のことを思い出してしまい、顔が熱くなるのを必死に堪える。思い出すなと思えば想うほど思い出してしまうのは。
 論文や研究の事に没頭しやすい悪い癖がこんなところにも出るのかと、呆れてしまう。
 研究と言えば。あの人が持って来た石の研究も煮詰まった状態。論文や研究には全く頼れない。
 でも店主のお陰であの人に繋がる為のヒントは得ている状態なのだ。まだ希望はあるだろう。私が動いた結果が、少しは功を奏したのであれば。
 動くことに意味はあるのだと思い知らされる。ユイマンに求められている時も、頭の片隅にあったひとつの気がかりが。
 彼女の蛇の目に見透かされていないかは分からずとも。私が何かまた、自分の家の事で考えていることは気づいていたのかもしれない。
 通勤路は通学の学生や同じように会社へ向かうスーツ姿の人が歩いており。そのひとりひとりが、何を考えていて。何を背負っているのかなんて分かりやしないし。
 帰りたい気持ちや逃げたい気持ちでいっぱいのまま向かっているのかもしれないと思うと。私はどうなのかと突き付けられる。
……どこまで逃げても、ダメか)
 今妹がどうなっているかを知ることは容易いだろう。ただ、それを知った所で。妹は私を一族のろくでなしと軽蔑の目で見るだけだ。
 会いに行っても。会いに行かなくても。私は不肖の姉であり、家の役目から逃げた恥ずべき血縁でしかない。
 こんな血縁なんてなければいいのに。そう吐き捨てる気持ちを持っても。この血縁なしには私は今の状態ではいられない。
 駅に辿り着き、ホームで電車を待つ間。スマートフォンの連絡帳を見れば、父をはじめ家族の連絡先は消さずに残してある。
 私がユイマンと暮らすことを言った時以来連絡していないそれに、今一度縋る必要はあるのかと自問しても。
 そこに明確な答えはないのだろう。
 




 続く