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KARATATTI
2026-02-15 20:49:09
2095文字
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美味しいの数
今年の弊ラス6♀バレンタイン話。
美味しいをたくさん知ろうの回。口移しキッスも添えて。
「戦友、少しいいか?」
端末のデータの整理をしていると、後ろからラスティに声をかけられる。特に急ぎの用事でもないし、これから予定があるわけでもないし、了承の返事だけすると振り返る前に肩に手を置かれた。意図を察して車椅子に接続していた頚椎のケーブルを抜くと、ひょいと脇に手を入れられ簡単に持ち上げられる。彼にとって自分は小動物と同じような扱いで、両手どころか片手で持ち上げられるくらいに軽い生き物なのだと実感させられる。器用にくるりと半回転して向かい合うようになると、ソファに座って膝の上に乗せられた。
『会話がしたいのか?』
「会話はしたいが、その前に」
ソファの片隅に置かれていた小さな箱を手に取る。見たこともない綺麗な色が印刷された箱は自分の目には新しい物で、その中の物も同じくだった。
中に入っていたのは、丸くて茶色い塊。金色の線が一条引かれていて綺麗な作りをしていた。普段食べているレーションからは感じられない、外観に気を遣っている造形だということは感じ取れた。
「ハッピーバレンタイン。去年は君からもらったから、今年は私からだ」
『
……
あ』
バレンタイン。
去年は派手に失敗してしまったから次は既製品を用意しようとしていたのだが、届くのが遅れると業者から連絡があったのが先週。わざわざ渡すのが遅れると宣告するのもおかしいので黙っていたのが仇になった。先を越されてしまった。
『ありがとう。手に入れるのは大変だったんじゃないか?』
「君のためならなんてことはない」
自分の準備不足を思い知る。けれど、ラスティが贈ってくれたこの現状とは全く関係ないことなので、素直に喜んで受け取ることにする。
「戦友。口を開けて」
摘んで受け取ろうとしたら強い語気で迫られた。空いた片方の手で腰をしっかりホールドされているので逃げられない。別に逃げる理由もないが。
大人しく口を開いて、丸いチョコレートが運ばれるのを待つ。何故かすぐに運ばれるのではなく十秒ほど待った後に来たので不可思議だったが、口の中に広がるチョコレートの甘さにそんな雑念は吹き飛ばされた。
食に頓着のない自分だが、このチョコレートが高級品だとすぐにわかった。味が多層なのだ。甘くて、苦くて、少し酸っぱくて、更に甘い。レーションは単純にその固定された味がするだけなのに、たった一粒のチョコレートでたくさんの味がする。複雑で全て言語化できるほど味の種類を知らないから表現できないが、とにかく美味しいことは理解できた。
目の前のラスティは嬉しそうに笑顔を浮かべてこちらを見つめている。期待には応えねばと、素直に思っていることを口にした。
『とても美味しい。わたしには勿体無いくらいだ』
「口に合ってよかった。これもぜひ食べてくれ」
ラスティが次に摘んだのは赤色のチョコレート。茶色じゃないチョコレートを実物で見たのは初めてだが、どんな味がするのだろうか。同じように口を開くが、やはり遅い。別にどうということもないのだが、不思議なのでラスティの顔を見てみると自分の口を凝視していた。
そこで一つ納得する。彼は間近で自分の口を見たいのか。いくらでも見る機会はあるだろうに、今がその時なのだろうか。人の性的嗜好に文句を言うつもりはないが、見たいなら見たいと白状してくれればいいのに。
ようやく口に放られた赤いチョコレートは先程のものよりかなり酸味が強かった。そして粒々の食感が強く、なめらかだけではない。酸味の中に別の甘さがあって、あまり食べたことはないが果実の類だろうか。鼻までつんとする感覚は慣れず、真っ直ぐに美味しいとは表現できない。
「こちらは少し苦手だったか?」
『いや、慣れてないだけだ。ちゃんと美味しい』
「美味しいの意味はたくさんある。それを感じてもらえたなら、贈った意味があるというものだ」
嬉しそうに次のチョコレートを摘んだラスティにストップをかける。次々と運ばれては咀嚼が待に合わないし、この味をもっと楽しんでいたい。それにもごもごと口を動かし続けていると辛いものがある。普段こんなに口は使わないのだ。
首を左右に振ると察したラスティは一旦箱にチョコレートを戻し、食べている自分を凝視する。眺めるとは違った色の視線に彼の仕方なさを再確認して、わざとゆっくりと口の中を堪能する。ごくりと生唾を飲み込む音と、上下に動く喉が隠し切れない情念を込めていることがわかった上で。
『
——
ラスティ』
チョコレートを摘んでいた手の上に自分の手を重ねる。青い目は何故か潤んでいて、海のようにきらきらと反射していてチョコレートの装飾なんて比べるまでもなく綺麗だった。
『次のチョコレートは、一緒に食べよう』
同じ味を分かち合いたい。それを同じ意味で共有できたなら、それほど嬉しいことはないだろう。
摘んだチョコレートは先に彼の口に入る。そういうことかと目を閉じれば、チョコレートの表面のつるりとした食感と
——
しっとりとした微熱。柔らかなそれは視認するまでもなく、自分が最も好ましい味そのものだった。
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