せうゆ
2026-02-15 17:25:58
1611文字
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蛇の目

高杉×自機刀
ニシキの左目についての話

 金に光った瞳、引き締まった瞳孔はまるで蛇のよう。高杉はそれを美しいと思った。
何かついてるか。」
 ニシキは視線を感じてポツリと呟いた。表情はぴくりとも動かない。が、その視線はじっと高杉を見ている。
「いや
 出会ったばかりの浪人に、美しいという言葉を投げるには、なにぶん時が足りていない。高杉は当たり障りのない笑顔を浮かべ、
「なんでもないさ。」
 と答えた。

♦︎♦︎♦︎

 きら、と光るはニシキの瞳。出会った時から何も変わらない。変わったのは2人の関係性か。じぃ、とその瞳を観察していると、ばちと視線が合う。ニシキはふぃ、と視線を落とし、気不味そうに眉を下げた。
「あまり、私の目を見ない方がいい。」
 その様子に、高杉は首を傾げる。
「どうして。あんたの瞳は美しいんだ。つい見ちまうのは不可抗力だろ?」
 数年前は言えなかった。だが、今は違う。情人となったこの浪人を褒めるのに、遠慮は要らないだろう。
「ん、う〜
 なんとも複雑そうな表情を浮かべ、口をもご、と動かす様はまるで小動物のようで愛おしい。思わず高杉はふふ、と笑みをこぼす。
……黒洲にいた時
 いつもより、少し小さな声でニシキはぽつりと話しを始めた。
「私のこの目を見ると呪われると皆が言った。」
 高杉の機嫌がわかりやすく悪くなる。
「はぁ?なんでそんな根拠もねぇことを。」
「根拠は、あるんだ。」
 あるんだと、さらに小さな声で呟くニシキは申し訳無さそうに縮こまる。
 この瞳を美しいと褒めてくれた高杉に、真実を伝えるのはなんとも心苦しい。だが、伝えたい。隠し事をするのはもっと心苦しいから。
「元々、この瞳は右目と同じように黒かった。」
 すり、とニシキは左目を触る。目元に赤く引いた丸い紅がじわ、と指にうつった。
「幼い頃修練で森に入ったとき、毒蛇に襲われた。顔ちょうど目の当たりを噛まれ、毒で生死を彷徨った。その間、高熱で左目の視力を失った。」
 過去を思い出すように、どこか遠くに視線をやるニシキを高杉はただ何も言わず見つめている。
 ニシキは滅多に黒洲藩時代の話をしない。そも、浪人は過去の話をあまりしないものだが、ニシキの場合は何か違う気がしていた。恐らく、隠している自分のためでなく、まわりの人間のために。
「奇跡的に一命を取り留め、熱が下がり、久方ぶりに視界が晴れた。熱があったときに見えなかった左目の視界が戻り、安堵したのも束の間、その瞳はまるで蛇のように黄金色に光っていた
 ニシキはぱち、とゆっくり瞬きをした。その瞳に見えているのは、床から見えた里の景色。そして恐怖に凍りつく仲間の顔。
「皆口を揃えて言った。〝蛇の呪い〟だと。それから里で私と目を合わせるものはいなくなった。片割れと師匠を除いて、な。」
 伏した目を長いまつ毛が覆う。その瞳を隠すように。高杉は思う。きっとニシキは呪われているのだ。その蛇の呪いに。
「ニシキ。」
 高杉はそう声をかけるのと同時に、ニシキの頬を片手でぐいと掴み引き寄せた。驚きと困惑の混ざった顔に、頬が少し寄り、口が軽く尖った様は可愛らしく、高杉は満足そうに微笑む。そして、逃すまいとその瞳に目を合わす。
「呪ってみな。」
 悪戯っぽく笑うその顔に、ニシキは驚いたように目をほんの少し丸くする。
たひかに、どう呪うのだろう。」
 頬を掴まれ少し喋りにくそうに、ニシキはそう呟いた。高杉は、はは!と大きく笑う。全く、面白い男だ。
「まぁ、あんたになら呪われても本望だがな。」
 そうにやりと笑みを浮かべ、高杉はぐいとニシキの顔を引き寄せその口を吸う。驚いたニシキは目も閉じず、その瞳で高杉を見た。きら、と明るい瞳が光る。
うん、やはり美しい。俺の審美眼に狂いない。」
 そう満足そうに言ったあと、高杉は一言付け加えた。
「昔から、な。」