mishiadd
2026-02-15 10:11:27
8320文字
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俺マスターがママにしたんだから伊織ママにオギャッていいのは俺マスターに決まってるだろ

【FGO軸】伊織さんに『ママになるチョコ』を渡して伊織ママにした宮本伊織推しモブ俺マスターと当然のようにオギャり権を主張してくるヤマトタケルの醜悪な攻防戦【モブ伊/剣伊】
【続編/年齢制限あり】『収斂進化によるカニ化現象様を呈する超ママ化現象事例』:https://privatter.me/page/6996ee028ecc5

こんなことが許されていいのか。



俺はここ二年間で人理修復から異聞帯全切除までを駆け抜けた新米マスターで、そんな俺の旅路をずっと支え続けてくれたのは、異様に強い配布サーヴァント・宮本伊織くんだった。

伊織くんの過去はぼんやりとしか知らない。右も左もわからない頃に初めてのイベント特異点で出逢い、よくわからないけどなんだか大変そうな過去を背負っているなあとぼんやり思いながらそのまま我がカルデアに来てもらってしまっていた。ところどころ彼の周囲の連中から不穏な発言はあったものの、今俺の目の前にいる伊織くんは偏に人当たりのいい好青年で、嫌いになるべき要素などどこにもない。何よりめちゃくちゃ強くて頼りになる。戦力不足の我がカルデアにおいて、伊織くんはずっと堅実なエースを張ってくれていた。

無事走り抜けた旅路の末、もう少しだけサーヴァントの皆と一緒に居られることになった。一度は別れた筈の伊織くんも戻ってきてくれた。一度失ったと思った後に再会した時は喜びもひとしおで、俺の顔を見た伊織くんが「もう少しだけ世話になる、マスター」と柔らかく微笑みながら言ってくれたのを聞いて感極まって泣いてしまった。もう二度と離れたくない――と思いながら、俺は確信した。



好きだ、伊織くん。



なんか多分、『推し』ってやつだと思う。他のサーヴァントの助力も借りつつも、ほぼ二人三脚みたいな感じで駆け抜けた旅路だった。どこに行くにも絶対についてきてもらっていたし――さすがに相手がアーチャーだった場合は伊織くんの安全のために後衛に回ってもらっていたが、基本的に一緒に来てもらわない日はなかった――そんな過ごし方をしていたから、俺と伊織くんの絆ってやつはバッチリだった。伊織くんはなんだか過去の記憶がなくて、でも記憶がないからこそ、今は俺の剣として、俺のためだけに剣を振るってくれるらしい。――もう、めっちゃかっこいい。トゥンク不可避。最高。黄色い声を上げてしまう。こんな外見も中身もイケメンにそんなこと言われたら全人類の心が乙女になるのだ。

というわけで、俺は数いるサーヴァントの中でも、伊織くんに特別な想いと愛着を抱いていた。……恐らくちょっと、アブない域に達しているような気もする、多分。







バレンタインにかこつけて開始されたイベント特異点だった。

どういう特異点なのだかろくに説明もなく、いきなり手渡されたなんだか凄そうなチョコだった。よくわからないまま渡されて、よくわからないまま――なんだかざっくりとした説明を受ける。バフ効果があって云々。

でも正直、そんな部分なんにも頭に入ってこなかった。――詳細は不明だが、このチョコを渡すと相手をママにできるらしい

なん――なんだそれは。そんなことが許されていいのか。



とすると、アレだ。アレでは? その。――伊織くんにこれを渡したら、伊織くんが俺のママになってくれる……ということ?



そん――そんなことが許されていいのか? そんな暴利が。そんな……え? 合法? これ。

「伊織くんが俺のママだったらいいな」なんて夢見たことなど一度もない。そんな発想自体なかったし。――でも、一度それが選択肢として俺の思考に入り込んでみたらどうだ。最高じゃないか。最高じゃないか?
そんなのもう――やるしかない。このためにずっと今まで生きてきた気すらする。宮本伊織くんを俺のママにするしかない

「い、伊織くん」

上擦る声で話し掛ける。

伊織くんの長屋だ。どういう理屈かわからないが、リソース不足でサーヴァントは基本的には霊基グラフ状態で待機か現界していても個室などもってのほか――という状況にあって、なぜか伊織くんだけは生前住んでいた場所を模した長屋の所持が許されている。最近ではすっかり畳を恋しがっているサーヴァント達の溜まり場にされてしまっているようだったが、それでも「渡したいものがある」と伝えたところ、今日は人払いをしてくれたらしかった。

「こ、これ……バ、バレンタインの……チョコ」
「ああ。確か、去年も貰ったな? かたじけない、マスター」

柔らかく微笑んで、なんら疑う様子もなくチョコを受け取ってくれる。そのままかさかさと包み紙を開いて味見をしてくれようとしたので(どうやら「それが礼儀である」と誰かに吹き込まれたらしかった)、慌てて止める。―― 一応、騙し討ちみたいになるのは避けたかった。俺はこれでも、伊織くんのことが真摯に好きなのだ。

「伊織くん。……あの、このチョコね。……食べると、ママになっちゃうらしいんだ」
「うん? ……まま』?」

かさ、とハート型のチョコレートの欠片を長い指先で摘まんだまま、伊織くんが小さく首を傾げる。ぽりぽりと苦し紛れに頭を掻きながら俺は言った。

「あの……ママっていうのはつまり、『お母さん』ということで……つまり、伊織くんが、その……
「ふむ」

かたちのよい顎に指先を当てて少し考えるそぶりをした後、「相分かった」とだけ伊織くんが言った。

「つまり、俺がこのちょこれいとを食すと、俺がおまえの母親に成るということだな。……うん、問題ない。俺は元々度数が『31』あるらしいのだ」

俺が止める間もなく、かりり、と伊織くんがチョコレートに噛り付く。――理解と話の早さもさることながら、いくらなんでも決断と思い切りが良過ぎると思う。自分で仕向けておきながら、目の前の展開に「はわわわわわ」と泡を噴きながら見守る。やがて粗方チョコを食べ終えた伊織くんが、「ふう」と一息ついてから、畳の上に座り直した。特に変化がないな……と思い、それから「あれ?」と思う。――座り方が、いつもの胡坐ではなく、両脚を揃えた横座りになっている。

「伊織くん……?」

小さな声で呼ぶ。――すると、うっとりと柔らかな笑みを浮かべて、伊織くんがこちらを見た。赤いカーネーションの花が綻ぶようだった。

「マスター? そんなところに寂しく立っていないで、こちらへおいで。……このが、おまえの耳かきをしてやろうな」
――マッ」

「マンマァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!」と叫ぶや否や俺は畳の上をスライディングして伊織ママの膝の上に頭を乗せる。若干硬いようなしなやかな筋肉質の両膝の上で顔面をドリルのように高速回転させてふがふがした後、小さく丸まるようにして伊織ママの膝上に横向きに頭を預ける。
「フフ」という穏やかな微笑みと共に、大きな手で頭を優しく撫でられるのを感じる。――我知らず、自分の親指の先をちゅぱちゅぱおしゃぶりのように吸ってしまっていた。

「マ、マンマァァ……

ふがふがと鼻を鳴らすように甘えると、伊織ママが「うん?」と言って俺の顔を上から覗き込んでくれる。その陽だまりのように温かく包み込むような微笑みに、俺の脳味噌も羞恥心も理性も完全に溶けた。

「ふが…………マンマァァ……伊織マンマァァ………
「よしよし、マスター。……いつもよく頑張っているな……とっても偉いこだぞ……いいこ、いいこ……

髪を優しく手櫛で梳かすように頭を撫でてくれる。夢見心地で口の端から涎をだらだら垂らしていると、かちゃかちゃと伊織ママが道具箱から何かを取り出している音が聞こえた。伊織ママに膝枕をしてもらいながら、両膝を抱えてちゅぱちゅぱと親指を吸っている俺に、囁くような声で伊織ママが言った。

「うん。……それじゃあ、耳かきしてやろうな……? ……危ないから動いちゃだめだぞ……?」

こしょ、と左耳に耳かきの先が触れるのを感じる。くすぐったいような絶妙な力加減で、耳の穴の中をするすると優しく掻かれる。時折、ふ、と伊織ママが耳かきの先にそっと吐息を吹きつけるのが聞こえる。こしょ、こしょ、と敏感な神経を優しく繊細に撫でられ、耳元で伊織ママの優しい吐息を聞く。――伊織ママという広大な母なる海に揺蕩う気分だった。

「マ、ママ、マンマァ……
「うん、いいこだな……マスター……。今日はこの母にたくさん甘えていいんだぞ……俺はおまえだけの母だからな……いっぱいよしよしして褒めてやろうな……
「マンマァァ……バブゥゥー………伊織ママァ………

横向きになっていた体勢からひっくり返り、伊織ママの膝にブルンブルンと顔を埋めようとする。「フフフ、こら、くすぐったいぞ」と伊織ママがくすくす笑うのが頭上に聞こえる。「マ、ママァ……」と顔を上げた瞬間だった。



――ガシィィ、と背後から頭蓋骨を鷲掴まれる感触を覚えた。



「え? ……え?」と突然の恐怖にさっと血の気が退く。伊織ママの優しさにとろけきっていた脳味噌がキィンと硬直した。

ギリギリと頭蓋骨に食い込む指先を感じながら、目の前の伊織ママを縋るように見る。どこか困ったような顔をした伊織ママが、俺の肩越しに誰かを見ているのが視界に入った。
俺の頭上から、地を這うような低い声が響く。明確に聞き覚えのある声だった。

……イオリ、きみ。……また、まんまと洗脳された……?」



――ヤマトタケル。



恐ろしいことに、引いた覚えがないのにいつの間にか我がカルデアに居たサーヴァントだった。イベント特異点でも一度会っているのでどういうサーヴァントかは一応知ってはいたが、なんというか――なんだか、最近とみに俺に対しての態度がよろしくない。……敵意がある、とかいう以前の問題で、なんというか、仮にもマスターである俺がまったく眼中にない感じなのだ。
たまに話しかけてみてもどことなく上の空だし、俺と話している間もきょろきょろと忙しなく視線を彷徨わせて明らかに誰かを探している。見つけたら俺との会話など早々に切り上げてそちらへすっとんで行ってしまう。――勿論、伊織くんのところだった。

なんだかいまだに自分のマスターが誰なのかしょっちゅう取り違えているようだったし――別に構わないが。セイバークラスのサーヴァントひとりが自分のマスターを伊織くんだと思い込んでいたところで――どこに行くにも何をするにも伊織くんの後をひっきりなしについて回っているみたいで、最近ではすっかり当たり前の顔をして伊織くんの長屋に入り浸っているので、伊織くんも面倒臭くなったのか、特に追い出すこともなく好きにさせているようだった。

実際、伊織くんの隣に置いておけばずっと機嫌のよさそうににこにこしているし、伊織くんが作った飯さえ食わせていればそれこそなんの文句も言わない。言わなさ過ぎて揉め事や厄介事の解決にもまったくなんの役にも立たない。すぐ傍で神霊級サーヴァント同士の大喧嘩が繰り広げられていようと、それを止めるにも止められずにいる伊織くんがどんなにおろおろしていようと、ただ嬉しそうににこにこしながら、満足げに伊織くんの傍に座って、伊織くんの作った手料理を旨そうに食っている。

――これが、ひとたび伊織くんの興味が別の誰かに向いてしまったり、それこそ俺が伊織くんとふたりっきりになろうものなら、人が変わったように鬼気迫る表情で執拗に追い掛けてきては間に割り込んでくる。挙句、俺のことは一切見ない。伊織くんにしか興味がないので、自分のことを見ない伊織くんにばかり文句を言っている。あれは多分、世界に自分と伊織くんしかいないような世界観の中で生きているのだろうと思う。



――まあ、なんというか、俺にとってはちょっと都合の悪くて、ちょっと、いやだいぶ、恐いサーヴァントだった。



ぐぎぎぎぎ、と頭の痛みを覚えながら縋るように俺が伊織ママを見ると、伊織ママが俺の背後のヤマトタケルに向かって言った。

「セイバー、そんな乱暴なことをしたら『めっ』だろう。マスターから手を放してあげなさい」
「んんんなっ!? ――いや、その、これは、だな……

素っ頓狂な声を上げた後、ぼそぼそと唇を突き出して拗ねたようにしている。やがて、ぱっ、とヤマトタケルが手を離した。ようやく解放された頭を撫で擦りながら、俺はしぶしぶと伊織ママの膝の上から身を起こした。
例によってヤマトタケルは俺のことなどどうでもいいのか、伊織ママに向かって頬を膨らませて言った。

「そんなことよりきみ、またわけのわからぬことになっているではないか! 怪しげなキュケオーンの次は怪しげなチョコまで、まったくもう。……私は腹が減ったぞ。私の夕餉はまだか? イオリ」
「セイバー、悪いが俺は今マスターの母としての責務で忙しいのだ。今日はこの俺が母としてたくさんマスターを甘やかしてやらねばならん。悪いが夕餉は後にするか、食堂で食ってきてくれ」
――……

ヤマトタケルが絶句する。――やがて、背後からぞわぞわと、俺のような平々凡々なマスターですら感じられる程の神気が染み出してくるのを察知した。俺の体中の産毛が逆立っている。
思わず(思わず?)「うわああん、恐いよ伊織ママァーーーッッ」と横座りをしたままの伊織ママの腰のあたりに抱き着くと、背後でバキィ、と何かが破壊される音はしたものの、抱き着いてきた俺の体を両腕で抱き留めてくれた伊織ママが、俺をなだめるようにぽんぽんと背中を叩いてくれる。よしよし、と俺の頭を撫でながら、ちょっぴり叱るような口調で俺の肩越しに伊織ママが言った。

「こら、セイバー。人間のマスターよりサーヴァントで古代日ノ本の英雄であるおまえの方がずっと強いんだから、そんなふうに恐がらせて虐めたらダメだろう」
「い、虐め……

ヤマトタケルの情けないような声が聞こえてくる。……シュン、と叱られた犬が尻尾を垂れているような気配を感じたので、伊織ママに抱き着きながらもちらりと振り返ってみる。白妙の裾を指先で弄りながら、「だ、だが、イオリ」と子供のような顔で必死に訴えているヤマトタケルがいた。

「わ、私は腹が減ったぞ。イオリは、いつもは私の飯をなによりも先に作ってくれるではないか」
「うん。でも今日はダメだ。順番だぞ。……マスター、団子を食うか? あーん、してやろうな」
「!」

いよいよ言葉を失ったヤマトタケルが、ひどくショックを受けた顔をして、呆然として伊織ママを見ている。――さすがにほんのちょっぴりだけ可哀想になりかけたところで、ダンダンダンダンダン! と急にヤマトタケルが土間の上で苛立った子供のように地団太を踏み始めた。――えっ。



「イオリ! 黙って聞いておればさっきから一体何なのだ――なぜ私をよしよしいいこいいこせぬのだ、イオリ!」






……えええーーーーー…………






イヤ、現在進行形で伊織ママのバブみにオギャり倒している俺が言えたクチではないのだが、何言ってんだこの日本古代英雄。

伊織ママにコアラの赤ちゃんのように抱き着きながら、ブチ切れたウサギのように足をダンダンダンダンさせているヤマトタケルを困惑気味にチラ見していると、俺の後頭部を撫でながら伊織ママが諭すように言った。

「なぜ俺がおまえによしよしするという話になる」
「きみが何をされてそうなってしまっているのかは知らぬ。――が、きみが『母』となってしまった以上、きみは私の母である筈だ」
「何を言っているのだおまえは」

「おまえには関係ないだろう」と伊織ママが言い、傍にあった団子の載った皿を手で引き寄せる。それを「あっ」とヤマトタケルが目を見開いて見ている目の前で、伊織ママが団子を俺の口許に近づけてくれる。伊織ママを見上げると、切れ長の眦を柔らかく細めた優しい笑顔で、「ほら、あーん」と囁くように言ってくれた。思わず口を開いて、ぱくん、と団子に食らいつく。ほんのりと甘い味がする団子をもぐもぐしながら、「バブゥー」とブヒブヒ鼻を鳴らした。

「イ、イオリ、それ――私の団子、では……
「うん? ああ、団子ならまだあるから、炊事場から自分で取ってこい」
「というか……なんなのだそれは……『あーん』とか……私だってしてもらったことな――

ヤマトタケルが口を噤む。やがて、つかつかとこちらに歩み寄ってくると、伊織ママの膝にしがみついている俺ごと伊織ママを見下ろして言った。

……私にも『あーん』をせよ」
「うん?」
「私にも『よしよし』せよ。『いいこいいこ』せよ。――耳かきをせよ! というか、膝枕をせよ! 今すぐ私を抱っこして褒めて甘やかせ! ……『いつもよく頑張っていてとっても偉いこだな、セイバー』と言え!」

おいおい待てよ、最初の時点からずっといたのかよコイツ――とうすら寒くなって伊織ママにしがみつく腕に力が籠る。俺が怯えていることに気付いた伊織ママが、「よしよし」と俺の頭を撫でながら、ヤマトタケルに言った。

「訊くがおまえ、俺にそんなことしてもらいたかったのか?」
「いや、今まで考えたこともなかった。――だが、きみが他の誰かにするなら話は別だ。別にきみが母である必要はないが、きみが誰かの母になるならそれは私の母であるべきだ」

この英霊、なんだかむちゃくちゃなことを言っている気がする。さすがに黙っていられなくなって、伊織ママにしがみついたままヤマトタケルを振り返った。

「盛り上がっているところ悪いんだけどさ、伊織ママは俺のママなんだよね。だって当然だよね? 俺が伊織くんに『ママになるチョコ』をあげて、俺が伊織くんをママにしたんだから」
――きみには関係なかろう?」

伊織くんに話し掛けていた声とは打って変わって冷ややか過ぎる声でヤマトタケルが俺に言う。まるで伊織くんに言われたのをそのまま鸚鵡返しにしたようなその台詞に、「ハンッ」と鼻で嗤ってみせた。

「関係ないのはそっちでしょ。……江戸時代になにがあったか知らないけどさ、過去は過去だろ? 伊織くん、今おまえのこと知らないって言ってるし。……おまえとの記憶、もうないんだもんね?」
……とんだ畏れ知らずがいたようだな?」

ドン、と一気に長屋の中の重圧が高まる。――ポンコツマスターの俺にでもわかる――神霊級サーヴァントがブチキレた時の神気だ、これ。

深海の水圧のようにミシミシと圧し潰されるような息苦しさと骨身の軋みを覚える。さすがの事態にママチョコの魔力も切れかけた様子の伊織くんが、ママではなく重圧からマスターを守るサーヴァントのように俺の体を庇う。その姿に更に激昂したらしいヤマトタケルの重圧が、ドン、と更に増す。

ひいいい、と怯えているところに、耳につけたインカムからジジッと通信が入る。管制室の顔見知りの職員だった。「何やってんだおまえ」と第一声に叱責が飛ぶ。

「何ってなんにもないよ、伊織くんの長屋でママチョコ食べてもらって俺のママになってもらってただけで」
「『宮本伊織』にちょっかい出したんか、おまえ」

そんな「おまえさんあの祠壊したんか」みたいに言われても。
とはいえ事実関係は動かせないので、インカム越しにうんうん頷くと、「はああ~~~……」と呆れかえった声が聞こえてきた。

「『宮本伊織』を『ヤマトタケル』のところに戻してこい」
「え?」
「『ヤマトタケル』は『宮本伊織』さえ贄として捧げておけばずっと和魂として機嫌よくにこにこ大人しくしていてくれるんだからちょっかい出すな。触らぬ神になんとやらって聞いたことないのかおまえ」
「はい?」

「いいからその長屋から出ろ、振り返るなよ」との助言に従い、そろそろと伊織くんの下から抜け出して引き戸へと這うようにして辿り着く。逃げる際に背後からひたひたと何かが這い寄ってきている気がしたが、振り返らずにそのまま長屋を抜け出した。たん、と後ろ手に引き戸を閉める。――シィン、と静かになった。



――うん、と自分の手のひらを見下ろす。



なんだか多分――自分でもよくわかっていないうちに、決して俺なんかとは対等ではないとんでもない存在を相手に、とんでもないことをしでかしていたのかもしれなかった。

とはいえ、俺にとって伊織くんは『推し』であることは間違いないのだが。








どうやら、同担がとんでもない相手だったようなのであった。













俺マスターがママにしたんだから伊織ママにオギャッていいのは俺マスターに決まってるだろ・了