葵月
2026-02-15 02:29:40
1969文字
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ワンライ:2026.01.24 【死後の世界】・【ミルク】

#王最版深夜の一本勝負 のお題をお借りしました。
現代転生王最こと『月夜をかけるフェアリーテイル(前編)』&『ヴェールのなかのジェニュイン(後編)』のふたりが現代日本に転生する前のお話。
2026.03.01投稿予定 月夜をかけるフェアリーテイル
2026.06.21投稿予定 ヴェールのなかのジェニュイン



『今度は長生きしてね』


一般的に見れば短命なのかもしれない。
でも、キミのいない長く果てしない虚空を考えると、これでも生きたほうだろう。

キミのいない人生なんて意味がない。何度もそう思った。
けれど、見つけてしまった。死んだ恋人が残した遺書なのか、ラブレターなのか分からない、1枚の紙切れ。あの手紙に残された最後の一文を正しく理解してしまってから、今日まで生かされてきた。


「もっとゆっくり来ても良かったのに」

何度も聞きたかった声。
忘れたくなかったのに、薄らいでしまったキミの声。

声の方向に走り、飛び込んで、抱きしめる。
久しぶりに手を回した薄い腰。ストライプの黒い制服。そっと背に回されるスラリとした腕。
──もう感じることのできないと思っていた温度。


そこにいることを確かめ合うように、もう二度と離れたくないと、ただただ抱きしめ合った。
離したくない気持ちと、顔が見たい気持ちが交差し始めた頃。
頭に唇が落ちてきて、不満をぶつけるように顔をあげる。
その瞳には死んだ時の姿ではなく、死がふたりを分かつた頃のオレが映っていた。


何でもありなこの世界。
もう一度会えるはずのない人に会える。その人を抱きしめられる。そんな、長く焦がれた奇跡を簡単に叶えてくれる。そんな酷く優しい世界。


両手で頬に触れ、背伸びをして、キスをする。
最期に触れた氷のように冷たい唇は、ここにはない。

「“前と比べたら”生きた方でしょ」

……思い出したんだね」

「最原ちゃんのお葬式の時にね。手紙の内容からして、最原ちゃんは生きてた頃から覚えてたんだ」

「僕だけじゃないよ、春川さんと夢野さんも。……あのコロシアイを生き残った3人だけが、最初から記憶があったみたいだ」

……あぁ、だから。でも、それならどうして、最原ちゃんはオレのところに来たわけ?
赤松ちゃんとやり直すチャンスだったのに」

……まだ先は長いからさ。話しながらゆっくり行こうよ」

離れた体の代わりに、最原ちゃんの右手がオレの左手を掴み、歩き始める。
オレはその手をぐっと後ろに引いた。

「ちょっと、最原ちゃんはそっちじゃないでしょ」

「どういう意味?」

「たはー。天使みたいに可愛いオレは閻魔様さえうまく騙せちゃったわけだ! これから最原ちゃんとお手手繋いで仲良く天国行きだって?
……そんなわけないよね。だから、最原ちゃん。ここでお別れ。また来世で会おうね」

手を離し、後ろに向かって駆け出す。
向かう先に何があるか知らないけど、同じ場所には行けないことだけは分かった。


いくら走ってもまだ先は見えない。ただ白く、2人分の足音だけが響く世界。

「待って!」

現役高校生とアラサーの体力は違ったらしい。最原ちゃんに掴まれた腕が追いかけっこの終わりを告げる。

「もう、ひとりにしないでくれ……!」

「〜〜〜はぁ!? オレを置いてひとりで死んじゃったのは最原ちゃんの方じゃん。
あんな手紙まで残してさー。薄々やばいって分かってたんじゃないの?
それなのに必要以上に事件に首突っ込んで、オレをひとりにしたのはそっちでしょ」

……そうだよ。だからこそ、この世界でずっとひとりでキミのことを待っていたんだ。
僕は1番大切な人を、取り返しのつかないほどに傷つけた。………そんな僕が向かう先は、嘘つきな悪の総統と同じで間違いないよ。だから、一緒に行こう」

涙を流しながら力なく笑う最原ちゃん。
……虚空にいたのはどうやらオレだけではなかったらしい。

「このオレが最原ちゃんごときに傷つけられたなんて、なかなか自惚れてるね。毎日楽しく部下たちと遊んでたけど?」

……この世界から、たまに王馬くんのこと見てたよ。
さっきの言葉……嘘、とは言わないけど。でも、ひとりで静かに泣くキミは、初めて見たな」

いつもうるさいくらいワンワン泣いてたのに、と言いながら差し伸べてくる手を、今度こそ掴む。

「覗き見なんて趣味が悪いよ、最原ちゃん。ねぇねぇ、お詫びのつもりでこの世界の面白い話してよ!」

「面白いかどうかは分からないけど、2時間くらい歩いた先に温泉があるよ」

「それって茹で釜とか、清めの風呂とかじゃないの……


この世界で。
「お詫びのつもりで面白い話をしろ」と何度言えるだろう。
そうしてキミがこの世界で待っていた頃の話は何度聞けるだろう。
キミが生きていた頃を何度ふたりで思い返せるだろう。

……キミがいなかった、勝手に見られていた、オレの人生は。キミに話すことで色を付けるのだろうか。


長い長い白い世界の先。またキミと出会えるだろうか。



───まぁ、出会えなかったら探しに行くだけだけどね。