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ゴワ吉
2026-02-15 02:03:39
1339文字
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キス逃げ失敗
鉢尾
それは突如投げられた燃え滾る木炭である。面越しでは分からぬ生温い体温と柔らかさを感じ三郎は慌てて手を伸ばした。
「こら、待て!」
掴んだ勘右衛門の腕は相変わらず均等のとれた固さで、触り心地がいい。しかし反対に相手の顔がじわじわと焼石のように熱くなっていく。
「
…
に、逃がしてくれよ!」
「逃がすか!あ、あんな、事しておいて
…
!」
ただ二人で委員の打ち合わせをしていただけだ。触れたいとか口を吸いたいなんて常時三郎が考えることをまさか勘右衛門から動くなんてあり得ない。
嬉し過ぎて面が外れそうになる。みっともなく喜んであけすけに好きだとのたまいそうになるのを必死で堪えた。
「き、きみな
…
っ、どうして首にするんだ」
「だってお前、面に触れてほしくないだろ?それにおれも白粉舐めたく無いし」
そう言って赤い舌が誘うように伸びてくる。可愛らしくて三郎の頭はどうにかなりそうだ。
だが同時に恋仲が自分に遠慮している事実を知って歯痒くなる。以前は気にならなかった相手の配慮がじわりと痛みを訴える。
「
…
っ、勘右衛門。きみは本当、どうして」
「は?なんだ、
――
お、おい!」
掴んだ腕をそのまま引き、三郎は踵を返した。向かったのは委員会室、ちょうどよく二人きりで、周りに誰の気配もない。
そこへ勘右衛門を押し込むと後ろ手で障子を閉める。ゆっくり相手へ近づき、戸惑う顔を覗きこんだ。
「勘右衛門、こっち見て。恋仲ってきみ、ちゃんと意味わかってるのか?」
「わ、分かってる。だから口吸いしたいな、って
…
。あ、でもおれお前が面を大事にしてるの分かってるし普段使ってる白粉だって高価なやつなんだろ?」
しかし勘右衛門の視線はまだ狼狽えているようで三郎と重ならない。そこまで深く考えてあの行動ならばやはり勘右衛門は何も分かっていないようだ。
焦れる想いを抱えながら懸命に伝わってほしいと三郎は続ける。
「あぁ、分かっているなら話が早い。だが、それでも私はきみに触れて欲しいんだよ」
板の上に置かれた手をとって自身の唇へ誘導する。体温のない作り物の固い唇だが勘右衛門の熱は伝わっている。
「面は大事さ、きみを愛おしむあまり緩む表情を隠してくれる。白粉だって高価なものを使わないと君が触れてくれた時、ザラついていたら恰好が悪い」
珍しく汗を掻いている指先だって照れているのがわかる。仕置きとして軽く噛みついて見せると勢いよく引き抜かれてしまった。
「な
…
っ!なに、して
…
」
「さて、私は言ったぞ勘右衛門。きみも観念して私に気遣うのをやめてくれ。あぁでも、外で先ほどみたいな事はしてくれるなよ」
は、と間抜けに開いた口へ距離を詰め舌をねじ込んでやった。抵抗されることを踏まえて手首を捕らえ、そのまま後ろへ押し倒す。
「ちょっ、ぁ
…
、ッさ、ろぉ
…
!」
藻掻く舌を強引に絡めて言葉を封じる。そうして段々と勘右衛門は抵抗を諦め、甘い吐息を漏らしながら全身の力を抜けていく。
「甘えてくれるのは結構だが、私の理性は君といるといつも限界寸前だ。外で押し倒されたくないだろ?」
蕩けた眼差しを覗き込んで頬を撫でる。三郎の言葉を正しく理解した勘右衛門は口端に垂れた涎を拭いながら頷いた。
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