Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
lilie_y0527
2026-02-15 01:29:06
15541文字
Public
Clear cache
バリスタルークと一般会社員(?)ディンその2
現代AUルクディン-🔞というほどでもないけど編-
数日後。静かなリビングのソファ。夕食を終え、グローグーも夢の中。少しだけ開けた窓から、夜の湿った風がカーテンを揺らしている。
「ディンさん、こっちへ」
ルークがソファをポンポンと叩き、ディンを隣に促す。ディンは少し恥ずかしそうに、けれど逆らわずに彼の隣へと腰を下ろした。ルークが膝を崩し、ディンの肩をそっと引き寄せる。
「なんだ。まだ、片付けが」
「それは後で僕がやりますから。少し、じっとしていてください」
ルークの細く、しなやかな指先が、ディンのこめかみあたりに触れた。そのまま手を滑らして柔らかな癖っ毛の中に、迷うことなく潜り込んでいく。
「
……
ルーク
……
っ」
「あなたの髪、すごく好きです。硬そうに見えて、でも、こうして指を通すと、本当はとても
……
柔らかい」
ルークは慈しむように、ディンのうなじから後頭部にかけて、ゆっくりと指を這わせた。時折、指先に髪をくるくると巻き付けたり、手のひらでふんわりと包み込んだり。その手には美容師が髪を扱うような丁寧さと、愛しいものに触れる熱が混ざり合っていた。
最初は緊張で肩を強張らせていたディンだったが、ルークの指が絶妙な力加減で頭皮を刺激するたび、思考がぼんやりと霧の中に包まれていく。毎日、仕事の重圧にさらされている彼の頭にとって、この優しい接触は心地よかった。
「気持ちいい、ですか?」
「
……
ああ。
……
君の、手
…………
魔法
……
みたいだ
……
」
ディンの瞼が、ゆっくりと重くなっていく。ルークは満足げに目を細め、眠りに落ちかけているディンの耳元で、囁くように言葉を紡ぐ。
「魔法じゃないですよ。僕が、あなたの全部を大切にしたいって、そう思っているだけです」
ルークの肩の上に、ディンの頭がコトン、と重みを預ける。ディンの呼吸が深く、規則正しいものに変わった。あの他人との間にうっすらと線を引きたがるディン・ジャリンが。自分という存在の隣で、完全に無防備になって眠っている。
ルークはディンの髪を撫でる手を止めず、その安らかな寝顔を見つめ続けた。深い関係に進むことを急がなくていい。今はただ、こうして自分に「触れられること」が、ディンにとって何よりの安らぎになるまで
……
この心地よい触れ合いを、一晩ずつ積み重ねていけばいい。
「おやすみなさい、ディンさん。
……
いい夢を」
ルークは眠るディンの額に、音のしないキスを落とした。夜の静寂の中で、二人の体温だけが、ゆっくりと一つに混ざり合っていった。
--
翌朝。差し込む朝日の眩しさに、ディンはゆっくりと意識を浮上させた。首筋に残るクッションの感触と、自分の体に掛けられた柔らかなブランケット。
「
……
しまった。寝ていたのか
……
」
飛び起きるように身を起こしたが、家の中は静まり返っていた。ブランケットの温もり以外に、隣に誰かがいた気配はもうなかった。キッチンのほうを見ても、ルークの姿はない。テーブルの上の紙に目を落とすと、そこには昨夜のうちに書かれたであろうメモが置かれていた。
『ディンさん、おはようございます。あまりに安らかな寝顔だったので、起こすの悪いかなと思ってそのまま失礼しました。朝食は冷蔵庫に用意してあります。主食はパンがおすすめです。グローグーと一緒に食べてください。鍵はポストにお返ししておきます。また、お店で待っています。
――
ルーク』
「ルーク
……
」
ディンは紙を握りしめ、小さく溜息をついた。昨夜、自分の髪に触れていたルークの指の感触が、まだ熱として残っている気がする。
ふと、スマートフォンが震えた。ルークからの連絡で、内容は「そろそろ起きないと店に寄る時間がなくなる」というものだった。
「どうして起きる時間を把握しているんだ」
ディンは顔を真っ赤にして、誰もいないリビングで独りごちた。ルークはいつも、こうやってディンの心の隙間に、軽やかに、けれど強引に踏み込んでくる。
--
数時間後。いつものように店のドアを開くと、カウンターの中にはエプロンを締めた「完璧な店員」のルークが立っていた。
「おはようございます、ディンさん。
……
よく眠れましたか?」
ルークは、周りに悟られないように、親密な微笑みをディンに向けた。ディンは少し視線を逸らしながら、震える声を抑えて答えた。
「
……
ああ。昨夜は、悪かったな。君に、あんなことまでさせて」
ただ頭を撫で、髪を梳き、頭皮のマッサージをしただけだが、まるでとんでもないことをさせた、というようなディンの言い方に、ルークは虚を突かれたように目を見開いた。そして、みるみるうちに頬が染まり、眉が八の字になっていく。
「いえ、光栄です。いや
……
ディンさんも、大げさに言っちゃうタイプですか?なんか、とんでもないことしちゃったみたい」
ルークはディンのために、今までで一番情熱を込めた一杯のドリップを始めた。ディンをいわば「懐柔」しようとあれこれやっているのに、ディンの何気ない言葉ひとつで心が揺さぶられてしまう。ディンは、ルークの反応に首を傾げつつ、その背中を見つめながら、今夜また自分の部屋を訪れるであろうその「熱」を、どこかで心待ちにしている自分に気づかざるを得なかった。
--
その日の夜。約束通り、退勤後のルークがディンの家を訪れた。夕食を終え、グローグーを寝かしつけた後のリビング。昨夜と同じ条件の中、ディンはソファの端で昨夜の余韻を感じ少し身構えていた。
「悪いな、片付けまでさせて」
「いえいえ。グローグーもディンさんと遊ぶ時間ができて喜んでくれてるみたいだったし」
ルークはそう笑いながら、自然な動作でディンの隣に滑り込んだ。昨夜よりも、さらに数センチ。肩が完全に触れ合い、ディンの体温がルークのシャツ越しに伝わってくる距離。
「今日もちょっとしたマッサージを。
……
ここも、疲れてるんじゃないですか?」
ルークの手が、ディンの首筋から喉元へとしなやかに回り込む。ごつりとした喉仏を、指先でそっとなぞると、ディンの喉が小さく震えた。
「力を抜いてください。
……
ここが凝ると、頭痛がしますから」
ルークの指は、細いお湯を、一滴一滴、慎重に落としていくときのような繊細さで、ディンの項から肩甲骨へと滑るように撫でた。だが、その触れ方は、単なるマッサージにしてはあまりにも粘意的だった。指の腹が、ディンの肌の質感を確かめるように、ゆっくりと、執拗に往復する。
「
……
ぅ、
……
っ
……
」
「ディンさん。
……
血流がよくなったみたい。肌が、熱くなってきましたね」
心地よい痺れにディンがふっと目を閉じた隙に、ルークの空いた方の手が、まるで邪魔なものを避けるような手つきで首元へ伸びた。力を込めるわけでもなく、布地をわずかにずらすような動き。小さな音さえ立てず、首元のボタンが三つ、吸い付くような指先によって解かれる。
冷たい空気が鎖骨を撫でて初めて、ディンは自分の胸元が寛げられていることに気づいた。けれど、その驚きを口にするよりも早く、ルークの温かな掌が、露わになった鎖骨のくぼみへと滑り込んだ。
それは表面上の凝りをほぐすための手つきでありながら、同時に、ディンの内側に眠る熱をじわりと引き出していた。
「
……
っ、ルーク、
……
もういい」
「
……
まだ、何もしていませんよ」
ルークは耳元で低く囁くと、鎖骨に置いていた指先をわずかにずらし、そこにある脈拍の乱れを確かめるようにゆっくりと押し当てた。
「
……
ただ、あなたの脈が、僕の指に強く跳ねるのを感じているだけです
……
ディンさん、どうしてこんなに
……
速いんですか?」
ルークはディンの首筋に顔を寄せ、その匂いを深く吸い込んだ。
「
……
っ」
ディンはたまらず顔を背けた。ルークの熱い吐息が肌を掠めるたび、そこから全身が甘く痺れていく。
視界を逸らし、唇を噛んで、必死に「いつもの自分」を繋ぎ止めようとする。だが、露わになった鎖骨を這うルークの熱は、まるで彼の理性を嘲笑うかのように、一歩ずつ、確実にディンの奥深くへと分け入ってきた。
逃げ出したい。けれど、この指が離れてしまうことを想像するだけで、身体が寒気を覚えたように震える。
「
……
ディンさん。
……
そんなに顔を背けないで。僕の目を見て
……
?」
ルークの低く、柔らかな声がディンの鼓動を直接叩く。ディンは、首筋を這うルークの指先の熱に翻弄されながら、観念したようにゆっくりと視線を戻した。
そこには、昼間のカフェで見せる爽やかな笑顔など微塵もない、一人の男としての渇望を湛えたルークの瞳があった。
「
……
きみ
……
、
……
今日は
……
、
……
っ」
言葉を紡ごうとしたディンの唇は、隙を見逃さないルークによって即座に奪われた。「はじめてのキス」とは、重みが、熱が、何もかもが違う。
「
……
っ、
……
ん
……
っ」
ルークの舌が、戸惑うディンの唇を割り、その裏側までを執拗になぞり上げる。コーヒーの残り香と、ルーク自身の甘い香りが口の中に広がり、ディンの脳内は溢れ出した熱に塗りつぶされていく。
ディンは、ルークの肩を押し戻そうと手を伸ばしたが、その力は驚くほどに弱々しい。むしろ、その指先はルークのシャツを強く握りしめ、自分からさらに深い密着を求めるように震えていた。
「
……
はぁ、
……
っ、
……
ルーク
……
」
「ディンさん
……
僕のキスだけで、もう、こんなに
……
とろとろになってる
……
」
唇が離れた一瞬、ルークがディンの耳元で、蕩けるような甘い声で囁いた。名前を呼ぶ時だけは、ルークもまた、ディンに完全に支配されているような切実さが混じる。
「
……
っ
……
、
……
うるさい
……
」
「ふふ
……
黙らせて、くれますか?」
ルークは笑いながらそう言うと、今度はさらに深く、ディンの呼吸すべてを奪い去るような長いキスを落とした。ディンの腕が、いつの間にかルークの首に回っている。
ソファに押し込まれるようにして、ディンは、自分を侵食していくルークの体温に、ただただ溺れていく。それは、この先に待っている、さらなる熱の深淵への予感に、ディン自身が期待し始めていることを残酷に自覚させる時間だった。
***
「
……
んっ、
……
ふ
……
、
……
は
……
っ」
時計の針が刻む音さえ聞こえないほど、リビングの静寂は濃密な熱に塗りつぶされていた。今や、グローグーを寝かしつけた後のこの時間は、ソファでキスをするのが当たり前の習慣となっていた。
ルークの指先が、ディンの指の隙間に、当然のような顔をして割り込んでくる。掌と掌を密着させ、指を絡め、逃げ場をなくすように強く握りしめる。
「
……
っ
……
、ルーク
……
」
「
……
ん、何ですか?
……
まだ、キスをしているだけですよ」
ルークは唇を離さず、ディンの口内を支配したまま、空いた方の手でディンの後頭部を優しく、けれど力強く引き寄せた。指先で、ディンの癖っ毛を愛おしそうに梳きながら、うなじから耳の後ろへと、何度も何度も熱をなぞる。
ディンの身体が、ルークの手のひらの動き一つで、ビクンと小さく跳ねる。
「
……
あ、
……
っ
……
、
……
ル、
……
」
ルークは、ディンが声を漏らす瞬間に合わせて、今度はその喉仏のあたりを、親指の腹でゆっくりと、くすぐるように撫で上げた。嚥下する喉の動きさえ、ルークの手のひらの中に閉じ込められている。
「
……
はぁ、
……
っ
……
、
……
くすぐったい、
……
やめてくれ
……
」
「
……
やめてほしいなら、そんなに気持ちよさそうな顔をしないでください」
ルークはそう囁くと、また執拗に、ディンの喉元から鎖骨にかけて、キスの雨を降らせた。髪を撫でられ、指を絡められ、急所である喉を攻められる。ディンは、ルークの腕の中で完全に融解されていくような感覚に陥っていた。
ルークの指先が、髪の隙間から滑り落ち、ディンの耳の輪郭をそっとなぞり上げた。
「
……
っ
……
!?」
「
……
。
……
ここ、少し冷えてますね」
ルークの声は、あくまで心配しているかのように冷静で、優しい。だが、耳の裏を執拗になぞるその指先は、吐き出される言葉よりもずっと雄弁に、ルークの熱を物語っていた。耳のふちを指の腹でゆっくりと往復し、時折、その柔らかな耳朶を親指と人差し指で、じわじわと圧をかけるように揉みほぐす。
「
……
ぁ
……
、
……
そこ、は
……
」
「
……
耳は神経が集まっているんです。
……
こうして解してあげると、もっと深く眠れるようになりますよ」
ルークはそう言いながら、今度は手のひら全体でディンの耳を覆い、体温を移すように密着させた。ディンの頭の中に、ルークの手が動くたびに衣擦れのような、密やかな音が響く。視覚を、聴覚を、じわじわとルークという存在に奪われていく感覚。
ルークはさらに、顔を近づけた。唇が耳に触れるか触れないかの距離で、熱い吐息だけを吹きかける。
「
……
温度が上がってきましたね。
……
可愛いです」
「
……
っ、
……
変な、感じが
……
」
「僕はただ、ディンさんにリラックスしてもらいたいだけなんですけど
……
」
ルークはわざと困ったような声を出しながら、今度は耳の裏側を、爪の先で軽く、くすぐるように掻いた。その刺激に、ディンの背中を電撃のような震えが走り、喉から小さな吐息が漏れる。
ディンは、ルークの服を掴んでいる自分の手に、力が入りすぎていることに気づいていなかった。ルークはそれを見て、じっくりと時間をかけて注ぎ続けてきた自分の熱が、ようやくディンの芯まで染み渡ったのだと恍惚とした微笑みを浮かべた。
「
……
僕の手の中で、ゆっくり
……
溶けてくださいね」
そう言って、ルークはディンの耳朶を掠めるように、熱い吐息だけを吹きかけた。
--
ディンの耳朶を掠めた吐息の余韻が冷めないうちに、ルークはふっと身体を離した。
「
……
っ、ル、ルーク
……
?」
突然奪われた体温に、ディンが縋るような、どこか心細げな視線を向ける。ルークはそれを、これ以上ないほど優しい微笑みで受け止めた。
「今日はここまでで。
……
あまり一度に解しすぎると、明日、身体がびっくりしてしまいますから」
そう言って、乱れたディンのシャツの襟元を、指先で丁寧に、けれど執拗に整え直す。
「おやすみなさい、ディンさん。また明日、お店で」
玄関のドアが閉まる音が響くまで、ディンはソファの上で、熱の残骸を握りしめたまま動くことができなかった。
***
今夜もリビングのソファは、二人の熱で満たされていた。深いキスを交わしながら、ルークの指先は忙しく動く。ディンの耳の付け根をじわじわと圧迫し、耳朶を甘噛みするように弄り、時折、そこから首筋へと熱を流し込んでいく。
「
……
ふふ、
……
ディンさん、肩に力が入ってますよ」
「
……
っ
……
、また、きみは
……
」
ディンは、ルークの肩を押し戻すようにして、わずかに唇を離した。呼吸は荒く、瞳は潤んでいるが、その口元にはどこか呆れたような笑みが浮かんでいる。
「いつの間に、カフェ店員からマッサージ師に転職したんだ?
……
毎日毎日、ツボだの神経だのと理屈を並べては
……
俺の身体の変なところばかり
……
っ」
「転職した覚えはないですけど
……
ディンさんを満足させるためなら、修行してきてもいいですよ?」
ルークは全く動じず、それどころか、ディンの言葉を逆手に取るように微笑んだ。彼はディンの耳のふちを指先でなぞりながら、さらに顔を近づける。
「マッサージ師は、こんな風に
……
キスをしながら施術したりしないでしょ?」
「
……
っ
……
そう、だな
……
」
「それに
……
嫌なら、僕を突き飛ばせばいい。
……
でも、ディンさんはこうして、僕の指を、
……
僕の唇を
……
待っているじゃないですか」
ルークは再びディンの唇を塞いだ。今度は先ほどよりも深く、舌を絡ませ、ディンの抵抗をすべて溶かしていく。同時に、空いた方の手でディンの後頭部をしっかりと固定し、耳朶を親指で執拗に、ゆっくりと回すように揉みほぐした。
「
……
ん、
……
あ
……
、
……
ル
……
」
ディンの皮肉は、あっという間に快楽の吐息へと変えられていく。マッサージだなんて冗談を言える余裕は、ルークの指が耳の奥に響くような刺激を与えるたびに、霧散して消えてしまう。
「
……
ディンさんが、僕に触れられるたびに、そんなに魅力的な声を漏らすから
……
僕は」
ルークは耳元で低く囁き、仕上げのようにディンの首筋に鼻先を擦り寄せた。その喉元が激しく上下し、自分の熱に抗いきれなくなっている様子を至近距離で眺める。ルークにとって、これはもはや単なる愛撫ではなかった。ディンという名の「実り」が、自らの重みで零れ落ちるその瞬間を待つ、気の遠くなるような忍耐の儀式だ。
指先一つで、今すぐにでもこの人を暴き、すべてを奪い去りたい。
膨れ上がる独占欲と、完璧な抽出タイミングを測る自制心。ルークは、自身の内側でせめぎ合う二つの衝動を、ディンの肌の熱に溶かすようにして深く吐き出した。
――――
彼が、僕の手の中で完全に熟しきるまで。
あとどれだけの「水やり」に、自分は耐え抜かなければならないのだろうか。
***
今夜のルークは、どこか様子が違っていた。ソファに座るなり、彼はディンの両手を優しく、けれど逃げられないように自分の膝の上で固定した。
「
……
今日は
……
何をするつもりだ」
「
……
マッサージは、今日はお休みです。
……
代わりに、こっち」
ルークはそう言うと、ディンの返事を聞く前に、吸い付くようなキスを落とした。
今夜のルークは、ディンの身体を解そうとはしなかった。ただ、ディンの大きな両手を自分の指で強引に割り、逃げ場を塞ぐように強く、強く、握りしめているだけだ。
「
……
ふ、
……
ぁ、
……
っ、ん
……
」
視界を埋め尽くすルークの長い睫毛。鼻腔を突くコーヒーの香りと、ルーク自身の体温。
唇を割って侵入してきた舌は、驚くほど滑らかで、驚くほど貪欲だった。
「
……
んん
……
っ、
……
ル
……
」
呼びかけようとした舌を絡め取られ、ディンの口内はルークの熱によって徹底的に蹂躙されていく。上顎を愛撫するように、あるいは喉の奥を突くように。まるで宝探しでもするように丁寧に、執拗に撫で上げていく。
ルークは、ディンの身体がビクンと跳ね、繋いだ手にぐっと力がこもる瞬間を逃さない。
言葉を奪われたディンは、その震えだけで、自分がどこを、どんな風に攻められたいのかを、ルークに白状させられていた。
ルークはわざと唇を離さず、鼻から抜ける溜息のようなディンの甘い鳴き声を、すべて自分の喉で受け止める。
「
……
ん、
……
っ
……
、
……
ん
……
ぅ
……
」
ルークの瞳は至近距離で、熱に浮かされるディンの表情を、一滴も漏らさぬように観察している。
ディンは、手を繋いでいるだけなのに、まるで全身を愛撫されているかのような錯覚に震えることしかできない。
その青い瞳に、自分でも見たことがないほど熱に蕩けた顔の自分が映っている。見られている
——
その羞恥さえ、ルークの舌が急所をなぞるたびに、どうしようもない快感へと書き換えられていった。
奪われ、与えられ、さらに深く。思考は熱で溶け始め、手のひらにはじっとりと汗が滲む。固定された指先にぎゅっと力を込め、ただ与えられる刺激に翻弄されるしかなかった。
「
……
はぁ、
……
っ、
……
もう、
……
やめ
……
」
「
……
ダメです。
……
まだ、ディンさんの『一番のところ』を見つけていませんから」
ルークは、今度はディンの下唇をじわじわと、時間をかけて自分の唇で挟み込み、震える熱を吸い出した。唇だけで全身の力が抜けていく。ディンの頭はソファの背もたれに預けられ、視界は火花が散ったように明滅していた。
「ふふ
……
とろとろですね、ディンさん。
……
こんなに
……
可愛くなっちゃって」
ルークは最後に、まるで印をつけるように深く、深く舌を絡ませた。ディンは、ルークの熱が自分の芯に触れるたび、自分という存在が、この青年に包み込まれているように感じて、抗いがたい悦びに
……
ただ、激しく震えるしかなかった。
その震えが、恐怖ではなく、自分を求める渇望であることをルークは願っていた。
彼は、ぐったりと力なく指を絡めたままのディンを満足げに見つめ、その濡れた唇を指先でそっとなぞった。
ルークは今夜も、最高の一滴を飲み干すような満足感とともに、彼を優しく抱き寄せた。
***
「
……
君、今日は
……
妙に、手が止まっているな」
カウンターに座ったディンは、努めて平然を装いながら、目の前のルークに声をかけた。昨夜、あのソファで唇を奪い合っていた時とは別人のような、落ち着いた年上の男の姿。だが、その指先は、無意識にルークが執拗に弄ってきた「耳」を隠すように、髪を触っている。
「
……
いえ。少し、新しい豆のレシピを考えていただけですよ」
ルークは爽やかに答えながら、ドリップポットを傾ける。だが、その視線は隠しきれない熱を持って、ディンの首筋
――
自分の指が這い、脈動を感じ取ったあの場所
――
を、なぞるように見つめていた。
……
昨夜は、あんなに僕を求めて、震えていたのに、とルークは内側で、もどかしいほどの欲を飲み下す。こんなものじゃなく、自分が密かに育ててきたあの熱を、いい加減飲み込みたい。けれど、急ぎすぎてディンを怖がらせてはいけない。そのギリギリの自制心が、彼に完璧な店員の微笑みを維持させていた。
「
……
はい、ディンさん。『いつもの』です。
……
今日は、お砂糖もご用意しましょうか?」
「
……
余計な世話だ。
……
君は
……
少し、俺を甘やかしすぎる」
ディンはそう言いながら、ルークからカップを受け取った。指先が触れ合う、ほんの一瞬。二人だけにしかわからない「昨夜の体温」が、コーヒーの蒸気よりも熱く混ざり合う。
ディンは、カップを口に運びながら、心の中でひっそりと深い溜息をついた。
……
一人でいる時、不意に思い出してしまう。ルークの指の動き、唇の柔らかさ、そして自分を呼ぶ低い声。
……
俺は一体どうしてしまったんだ、と頭を抱えてしまいたい。
お互い、相手には決して悟らせない。自分たちの内側で、どれほど切実な「渇望」が渦巻いているのかを。
「
……
じゃあ、また。
……
今夜」
「はい。
……
待っててくださいね」
背を向けて店を出るディンと、それを見送るルーク。二人の背中には、夜の訪れを待ちわびる、甘く苦い中毒症状のような渇望がじわじわと回り続けていた。
***
その日の夜。ソファに座ったルークは、いつになく静かだった。
「
……
ディンさん。
……
すみません。今日は、少し
……
疲れちゃったみたいです」
そう言って、ルークは初めて、ディンの肩にこてんと頭を預けてきた。驚いて横を見ると、そこには朝の鋭さなど微塵もない、ひどく疲れ切った、けれど穏やかな表情で瞼を閉じる青年の姿があった。
「
……
ルーク
……
」
ディンは一瞬驚いたが、すぐに表情を和らげた。毎日、自分とグローグーのために仕事の後に通い詰め、食事を作り、自分を甘やかしてくれていた青年。彼だって人間だ。疲れないはずがない。
「いつも、無理をさせていたな。
……
少し、休め」
ディンは、ルークが自分にしてくれたように、大きな、少し荒れた手のひらで、ルークの柔らかな金髪をそっと撫でた。ルークもまた、この場所で、自分という存在に触れて安らぐことを、求めてくれた。撫でる手は、不器用だけれど、嘘偽りのない深い慈しみがあった。
「
…………
。ディンさんの手、
……
温かい
……
」
「ああ。いいから、目を閉じろ」
くるくる、ふわふわ。ディンの指先がルークの髪を撫でるたびに、ルークの意識は急速に遠のいていく。ディンの隣は、ルークにとって「格好つける場所」である以上に、世界で一番「安らげる場所」になっていた。ルークはそのまま、ディンの肩に体重を完全に預け、穏やかな寝息を立て始めた。
閉じられたルークの瞼を眺めながら、ディンはそっと彼の頬をなぞった。朝、あんなに凛として、自分を熱く射抜いていた瞳。それが今は、幼い子供のように無防備に閉じられている。
この青年は、どれほどの覚悟で自分に踏み込んできたのだろう。
傷だらけの自分を、根気強く、丁寧に、毎日水をやるようにして解し続けてくれた指。
ディンは、ルークの手をそっと包み込み、額に、慈しみを込めて一度だけ自分の額を合わせた。まるで大切な誓いを交わすように、静かに、優しく。
--
「
……
っ!!??」
窓から差し込む眩しい朝日に、ルークは跳ね起きた。首に走る鈍い痛みと、見覚えのない天井。
……
いや、ここはディンの家のリビングだ。
「
……
お、おはよう、ルーク」
目の前には、すでに着替えを終え、コーヒーを淹れているディンの姿があった。
「ディンさん!?す、すみません!僕、いつの間にか寝ちゃって
……
!なんで起こしてくれなかったんですか!?」
顔を真っ赤にして慌てるルークに、ディンは困ったように笑い、カップを差し出した。
「
……
起こせなかった。君が、あまりにも深く眠っていたから。
……
狭いソファで悪かったな。身体、痛くないか?」
その、全てを包み込むような落ち着いた声。優位に立って彼を揺さぶっていたつもりが、実はこんなにも優しく見守られていた事実に、ルークの胸に熱いものがこみ上げる。
……
きゅん、なんて言葉じゃ足りないくらいの衝撃。
ルークは差し出されたカップを両手で受け取った。
それは、自分のような緻密な計算も技術も介さない、ただお湯を注いだだけの、少し粉っぽさが残るインスタントコーヒーだ。
けれど、ルークにとってはどんな高級な豆よりも甘く、熱く感じられた。
「痛くないです
……
全然っ
……
あ、コーヒーいただきます!
……
おいしいです。ディンさん」
「
……
そうか。君のコーヒーには比べ物にならないだろうが」
ルークは火傷しそうな熱さに構わず、一気にそれを飲み干した。喉に落ちる安っぽい苦味が、今の自分にはたまらなく愛おしい。
「ごちそうさまでした!
……
あ、時間!
……
うわ、やば!!父さんに殺される!!」
「
……
ああ。早く行け。
……
君の親父さん、怒ると怖そうだからな」
「行ってきます!夜、また謝りに来ますから!!」
ルークはいつもの余裕をどこへやら、ジャケットをひったくるようにして、バタバタと玄関を飛び出していった。嵐のような朝。ディンは一人残されたリビングで、自分の肩に残ったルークの温もりを思い出し、ふっと小さく笑った。
「
……
君も、
……
可愛いところがあるんだな」
--
「はぁ、はぁ、
……
っ、おはよう、ございます
……
!」
開店時間を数分過ぎた頃、ルークは爆発したような髪のまま、店のドアに滑り込んだ。慣れないソファで寝た身体が悲鳴をあげていたが、気にしている余裕はなかった。カウンターの奥では、すでに完璧な手捌きで最初の一杯を淹れ終えたアナキンが、低く唸るような声で出迎えた。
「
……
随分と優雅なご出勤だな、ルーク」
「ごめん、父さん!寝坊した、すぐに準備を」
「待て」
エプロンに手を伸ばそうとしたルークの動きが、アナキンの鋭い声で止まる。アナキンはカウンターから身を乗り出し、ルークの格好を上から下まで、スキャンするようにじっくりと眺めた。
「お前
……
昨日の服のままだな?しかも、そのシャツのシワ
……
」
「え、あ、これは
……
っ」
「それに、お前から微かに漂ってるこの匂い。ディンが使ってる、いたって普通の石鹸と、インスタントコーヒーが混ざった香りだな?」
「っ!!怖い!!父さんさすがにそれは変態だよ」
ルークは息を呑んだ。そして怯えた。さすがはルークの父であり、店長。観察力が変態の域に達している。
「ディンさんが使ってる石鹸把握してるの?というかディンさんの香りがわかるって?」
ルークを無視して、アナキンは息子をさらに上から下まで観察した。
「
……
ほう。ついに『外泊』か。おめでとう。
……
だが、職場に私情を持ち込んで遅刻するような奴には、相応の罰が必要だよな?」
アナキンはニヤリと、暗黒面に片足突っ込んだような不敵な笑みを浮かべた。
「父さん、違うんだ!昨夜はただ、僕が勝手に寝ちゃって、ディンさんはソファで寝かせてくれただけで
……
!」
「ソファ?それは情けない。
……
いいか、今日は『特訓メニュー』を課す。
……
今日のドリップはすべてルークが担当しろ。それから、裏の倉庫の在庫整理と、エスプレッソマシンの完全分解清掃。
……
あ、あと、オビ=ワンの試作ケーキの試食&レポート」
「そ、そんな!? 一人でやる量じゃないよ!」
「甘えるな!お前がディンの肩で甘えてた時間の分、ここで取り返せ!」
アナキンは笑いながら、ルークの背中をバチンと叩いた。
「ほら、さっさと動け!客が来ちゃうぞ!」
ルークは必死に手を動かしながらも、昨夜のディンの手のひらの温かさを思い出し、顔を赤くして奮闘していた。その様子を、アナキンは店の奥からニヤニヤと眺めながら、ルークも隅に置けないなと、かつての自分を棚に上げて呟くのだった。
--
いつもならとっくにチャイムが鳴る時間だが、今日は静かだった。ディンは何度か窓の外を確認し、手元の時計を見る。
「
……
遅いな。
……
やはり、朝あんなに慌てていたし、今日は来ないのか
……
」
胸の奥に、ぽっかりと小さな穴が空いたような、妙な寂しさが広がる。今朝は自分も時間に余裕がなく、店には行けなかった。仕事に遅刻してでも、コーヒーを買いに行けばよかっただろうか。自分でも驚くほど、あのアロマのようなコーヒーの香りと、少し強引な青年の体温を求めている自分に気づき、ディンはひっそりと溜息をついた。
その時、弱々しく、けれど確かなノックの音が響いた。
「
……
ルーク
……
?」
ドアを開けると、そこには魂が抜けかけたような顔をしたルークが立っていた。髪はボサボサ、シャツの袖は捲り上がったまま。まるで台風にぶつかられたかのようなボロボロ具合だ。
「
……
ディン、さん。約束、守りに、来ました
……
」
「ルーク!
……
なんだ、その姿は。親父さんに何をされたんだ?」
「
……
特訓、という名の、強制労働を。でも、あなたの顔を見ないと、
……
今日が、終わらなくて
……
」
ルークが玄関で力尽きそうになるのを、ディンは慌ててその逞しい腕で支えた。そのまま、抱きかかえるようにしてソファへ運ぶ。
「無理をするなと言っただろう。
……
君は本当に、加減を知らないな」
ディンはソファにぐったりと横たわったルークの額に触れ、熱がないことを確認すると、昨夜のようにその柔らかな髪を優しく撫で始めた。
「
……
あ、
……
ディンさんの、なでなで。これで、
……
生き返ります」
「
……
馬鹿なことを言うな。
……
今日は、君は座っていろ。俺が何か作る」
「えっ、ディンさんが
……
?大丈夫ですか?」
「
……
失礼な奴だな。今日はもうグローグーも俺も、夕食は済んでいる。
……
残り物だが、スープと、あと何か簡単なものくらいは作れる。
……
君がいつも、俺たちのためにしてくれていることの、お返しだ」
ディンは不器用な手つきでエプロンを締め、キッチンに立った。背後でルークが「ディンさんのエプロン姿
……
眼福だ
……
」と小さく呟いているが、聞こえないふりをする。
コトコトと鍋が鳴る音。包丁のたどたどしい音。ルークはソファに沈み込みながら、その「自分を想って作られる音」に、胸がいっぱいになっていた。
「
……
ほら、できたぞ。
……
食べられるか、ルーク」
差し出されたのは、野菜がたっぷり入った、少し形は不揃いだけれど温かなスープと、トースト。残り物と言いつつ、スープには具が追加されていた。ディンはルークの隣に座り、まだ疲れで手が震えているルークの口元へ、スプーンを運んだ。
「ほら、あーん」
「
……
あーん、
……
ですか?」
普段、グローグーの世話をしている時と同じ、あまりにも自然で迷いのない動作。ディンは自分が「一人の青年」にそれをしているという事実に内心少しだけ驚いたが、それを悟らせるつもりはなかった。さも当然だと言わんばかりの、堂々とした眼差しがルークを捉える。
「
……
。
……
嫌か?」
「
……
いいえ、
……
一生の、宝物にします
……
」
ルークは涙目になりながら、ディンに食べさせてもらうスープを飲み込んだ。じわじわと身体の芯から温まっていく。自分の熱でディンを包み込むつもりでいたはずが、気づけば自分の方が、ディンの深い包容力によって、骨の髄までとろとろに溶かされていた。
「
……
美味しい、です。
……
ディンさん。
……
大好きです」
「
……
スープが冷める。
……
静かに食べろ」
耳まで真っ赤にしながらも、ディンはルークの髪を撫でる手を止めなかった。今夜は、ルークの完敗。そして、二人の距離がまた、理屈を超えて縮まった夜だった。
「もう、今日は泊まっていけ。その体じゃ帰るのも危なっかしいだろう」
ディンが放ったその一言に、スープを飲んでいたルークの動きが止まった。
お泊まり!?ということは
……
と、ルークは今まで積み重ねてきたものが報われる瞬間に感謝した。
「
……
いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて」
ルークはあくまで疲れたので仕方なく、という顔で頷いた。
シャワーを借り、さらにディンの予備のTシャツを借りた。ルークは深く深呼吸をした。借りたTシャツは少しサイズが大きくて、ディンの匂いに包まれている。寝室ではディンがグローグーを腕の中に抱いて、ベッドの端を空けて待っていた。
「シャワー、ありがとうございました。じゃあ、ソファお借りしますね」
「いや、こっちへ。グローグーも、君がいると安心するらしい」
「
……
そうですか。グローグーが
……
。
……
では、失礼します」
ルークは努めて冷静に、けれどその実、ディンから差し出された「救済」を逃すまいと、すぐさまベッドへと身を寄せた。ディンの隣、グローグーを挟んだその距離感に、ルークは仕方ないと自分に言い聞かせながら、震える指先を隠して横たわった。
「
……
ルーク。
……
まだ、身体が強張っているぞ」
ディンの大きな手が、ルークの背中にそっと置かれた。そして、グローグーを寝かしつける時と同じ、一定の、心地よいリズムで、トントン、トントン
……
と、優しく背中を叩き始めたのだ。
「
……
ぁ
……
、ディン、さん
……
」
「
……
静かに。
……
ゆっくり呼吸しろ。今日は、本当によく頑張ったな」
その低い、チェロのような心地よい声。そして、数多の修羅場をくぐり抜け、グローグーという赤子を幾晩も眠らせてきた「トントン」。それはルークのような若造の邪念など、一瞬で浄化してしまうほどの癒しを持っていた。
ルークのまぶたが、鉛のように重くなる。ディンの体温と、シャワーの湯気と、規則正しいリズム。ルークが仕掛けようとしていた攻撃を、ディンが癒しで上書きしていく。
「
……
ディン、
……
さ
……
。
……
だ
……
、す
……
き
……
」
最後の方はもう、言葉にもなっていなかった。ルークはディンの腕の中に吸い込まれるようにして、数分と経たずに、今度こそ泥のように深い眠りに落ちた。
ディンは、ルークの穏やかな寝息を聞きながら、ふっと口角を上げた。
「
……
おやすみ、ルーク」
自分を翻弄していた青年が、今は自分の腕の中で子供のように丸まっている。今夜もまた、ルークの作戦は、ディンの包容力の前に、心地よく崩れ去ったのだった。
--
柔らかい朝日が寝室に差し込んでいた。ルークは、自分の背中に感じる不思議な安心感と、心地よい重みにゆっくりと意識を浮上させた。
ディンと一緒にベッドに入った記憶が蘇る。ディンによる魔法のリズムに抗えず、作戦も何もなく爆睡してしまった自分。情けない
……
と顔を覆おうとした時、耳元で空気が震えた。
「
……
起きたか、ルーク」
まだ覚醒しきっていない、掠れた、それでいて身体の芯まで響くようなディンの低音。しかも、ディンはまだ眠気が残っているのか、ルークを抱き寄せたまま、その首筋に顔を埋めるようにして囁いたのだ。
「
……
よく眠れたか」
「
……
っ
……
、
……
ぁ
……
」
ルークの背筋に強烈な電流が走った。寝起きの無防備なディンは、自分がどれほど破廉恥な声を出し、どれほど密着しているか分かっていないのだろうか。ルークを呼ぶその声に含まれる、深く、甘い響き。
「
……
ディン、さん
……
。
……
僕、あの
……
」
「
……
ん?
……
なんだ」
ディンがさらに腕に力を込め、ルークを自分の胸板に引き寄せる。シーツ越しに伝わるディンの寝起き特有の少し高い体温。ルークは、昨日まで自分が「育てていた」はずのディンに、今や完全に骨抜きにされていることを痛感した。
「いえ。すごく、よく眠れました。今までで、一番」
ルークは、ディンの腕の中でくるりと向きを変え、まだ瞼を閉じているディンの整った顔を見つめた。朝の光を浴びたディンは、ただ愛する者を守る大きな盾のようで。
「
……
ふふ。今度は僕が、ディンさんを寝かしつけてあげたいです」
「
……
よせ。
……
俺は、赤ん坊じゃない
……
」
ディンが少しだけ困ったように眉を寄せ、ようやく薄く目を開ける。その茶色の瞳と至近距離で視線が合った瞬間、ルークは、もう二度とこの場所から離れたくない、と強く願ってしまった。
「
……
そろそろ起きましょうか。遅刻したら、また父さんに何を言われるか分かりませんから」
「
……
そうだな。
……
君の親父さんには、勝てそうもない」
ディンは名残惜しそうに腕を解くと、ルークの額に、静かで深い、誓いのようなキスを落とした。
「ところで、グローグーはどこですか?」
「ベッドにいないなら、あのぬいぐるみの山の中だ」
ディンの指さした先で、ぬいぐるみがもぞもぞと息をしていた。
続く
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内