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awase
2026-02-15 01:28:37
1770文字
Public
オビカカ
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地図にない町
現パロ|彼氏といつも続かないカカシ
きみを幸せにしたくて
その一言で、ようやく形になりそうだった愛が音もなく消えた。
カカシは古いとも新しいとも言えないマンションのエントランスから外に出て、湿った空気を吸い込んだ。生温い。溜息をついても気分は冴えず、ああ
…
という落胆の声が漏れた。
先ほどまで時間を共にしていた男は恋人だった。
ちょうど半年前それっぽい飲み屋で知り合い、それっぽく付き合い始めた。
余裕のあった男の目が機嫌を取るように媚びの色を浮かべるのにそう時間はかからなかった。
いつもそうだ。
なにをしても揺れないカカシの瞳の波の色を気にしている。こんなはずじゃなかったのにと優しい言葉の裏で言っている。
不満があるなら言えばいいのに、そう歪むカカシの口端に苛立ちながらも声にはしないその態度にがっかりすると、そこまで言わなきゃわからないのだろうか。
「きみを幸せにしてあげたくて」
恩着せがましくそんなことを最後に吐いた男を見下ろせば、「その目が嫌いだ」と俯き言われた。別にいいけど、と思いながら部屋を出れば、罵倒されたが聞こえなかった。
肌に纏わりつく湿度を鬱陶しいと思いながら歩いていたが、気づけば見慣れたアパートの前まで来ていた。
目指したわけではないのにいつもここに来てしまう。
また来たのか、と横目で笑われるのが想像できたから顔を合わせぬうちに引き返そうと思ったのに、頭上から声がした。
「よう」
今度はどうした、と楽しげな目尻が言っている。
気づかれたなら仕方なく、開けてよ、とジェスチャーすると、開いてる、とオビトが片手で鍵をまわす仕草を返した。
「半年もったんだから偉いじゃん」
なにも言っていないのに、カカシが部屋に入った途端オビトがそう言った。
今起きたのだろうか。ベランダから吹き込んだ風で室内の空気が入れ替わり、オビトの匂いが外へ消えていく。
「付き合わなきゃいーのに」
「いやあ、まあ、ねえ」
「寂しがり屋ちゃんだな」
上下黒のスウェットのオビトはテーブルにある食べかけのスナック菓子をどうぞと言って勧めてくる。
食べる気にはなれなくてベッドに腰かけると、オビトが隣に座って菓子に手を伸ばした。
さっきまで付き合っていた男のマンションよりもボロいアパートでだらだらと生きているこの男はカカシの幼馴染だった。だからといってなにがあるわけでもない。昔から気が合わなくて、今もそれは変わらない。比較的〝ハイソ〟な暮らしをするカカシとは対照的に、オビトは適当なその日暮らしを続けている。
「似た者同士なんだから怒んなよ」
「誰と誰が? あと、怒ってない」
「おまえとおまえの元カレが」
「どこが似てるんだよ。第一、知らないだろうが」
カカシは最後咳払いをした。
舌の根が乾かぬうちに語気が強くなり、少しバツが悪かった。オビトは喉の奥で笑い、スナック菓子の油で汚れた手をティッシュで拭うとベッドに寝転んだ。
「おまえのことアクセサリー代わりにしてる男」
「は?」
「キレーなおまえを連れ歩きたいだけなんだよ。それが不満なんだろ、おまえは」
「わかったような口利くな、ニートのくせに」
オビトの瞳がにやりとした笑みの色を浮かべる。図星だろ、とでも言いたげだ。カカシはオビトから顔を背けた。古い壁は所々剥げてきている。
「じゃあ来るなよ」
手首を掴まれ、あまりの熱さにカッと熱くなるような、そんな気がした。
「他人に幸せそうに見られたいならその男のとこに戻れよ、こんなニートのとこじゃなくてさ」
強く引かれたけれど抵抗するように力を込めると、先ほどより強い力で引きずられた。
それっぽい飲み屋で知り合ったそこそこの男、機嫌をとりたいのかそうじゃないのかよくわからない中途半端な目が、こっちだって嫌いだったと言ってやればよかった。
「かわいそうに」
オビトの声が嬉しそうに弾む。その通りだ。可哀想だと思うなら、憐れみついでに慰めてくれ。
いつまでものらりくらりと世間の隙間で生きている気の合わない幼馴染の家に訪れる意味を、少しは考えたことがあるのだろうか。
全部知ってるとでも言いたげな黒い瞳が細められ、いつ誰に貰ったかもわからないシルバーの時計を床に投げた。
end.
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