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風花莉亜
2026-02-15 00:25:55
3957文字
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フォークに乗った一欠片を。
第34回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点で、千早くんの家で藤堂くんお手製のチョコレートケーキを食べる話。イチャイチャしてるだけです
いつも通り、何でも大丈夫な方向け
「最高に美味いテリーヌショコラ持ってってやる」
そんな事を言って分かれた藤堂くんを自宅で待って、早一時間。
部活後の胃は限界を迎えていた。
ぐ〜〜〜っ、という情けない音が腹から響いてきて、一人きりだと言うのに恥しくなる。
堪え症がない腹を撫でながら、軽く何か食べてしまおうか、それとももう少し藤堂くんの到着を待とうか、ふたつを天秤にかける。
ガタン、と揺れて下がったのは、『もう少しだけ藤堂くんを待つ』と言う健気な俺の意思。
藤堂くんの作るテリーヌショコラが絶品であるのは間違いなくて、そこに空腹というスパイスが加わる事で更に美味しくなるのは目に見えている。
その誘惑に負けた、と言った方が正しい気もするが、健気という事にしておこう。
「藤堂くん、早く来ないかな」
このセリフだけを聞いたら、ちょっと健気っぽくないか?
健気に取り憑かれた俺は、それっぽい事をアレコレ並べて空腹を忘れる作戦に出た。
そう、例えば
……
『ピンポーン』おっと、誰か来たようだ。
誰かも何も藤堂くんしかいないのだが、確認は大事ですからね、モニターで見覚えのあるヤンキーを視認してからオートロックを解除した。
藤堂くんを部屋に上げると、俺が言う前に手洗いうがいを先に済ませるものだから、少し驚いてしまった。
俺の家に来たらまず最初にやる事としてインプットしているらしいのだが、そんな言う程何回も遊びに来た記憶はないんですけど。
こんな事ばかり覚えが良い藤堂くんは、「キッチン借りるぞ」と言うなりさっさとキッチンへと消えていった。
勝手知ったる、みたいな行動やめてくれませんかね?
まるで同棲でもしているような気分になってしまって、心臓が落ち着かない。
トントン、と胸を軽く叩いてから藤堂くんの後を追い掛けると、既に皿に乗ったテリーヌショコラがダイニングテーブルに鎮座していた。
ここで食べるのだろうか?
わからないけれど、皿とフォークが必要なのは理解でき、食器棚から取り出して軽く洗い始める。
すると横から手が伸びてきて、洗った皿を俺の手から奪っていった。
また、だ。
だから何で、同棲してるみたいな感じになってるんですかねぇ?
水気を綺麗に拭き取る作業を行う藤堂くんは、千早宅に馴染みすぎるくらい馴染んでいた。
「あの」
「ん〜?」
「
……
俺達って一緒に住んでましたっけ?」
「住んでねーけどって、すまん、何の話?」
「なんでもないでーす」
キョトン、とする顔が可愛いし、首を傾げる姿も可愛い。
凡そ、デカイ金髪ヤンキーに向ける表現では無い気もするが、俺にとって藤堂くんは、時折可愛いのだ。
他人には理解し難い感情だとしても、俺だけが理解してれば問題なし。
そもそも、他人に藤堂くんの可愛い所なんて教えてやる義理もないし、知らなくても良い事なので。
洗った皿に、藤堂くんの手によって切り分けられたお手製テリーヌショコラが盛り付けられる。
わざわざ持ってきたらしい砕いたナッツをかければ、店で出されるような見た目になった。
これは、美味しい事間違いなし。
早く食べたいと腹の虫が再び鳴りそうになり、慌ててケトルで沸かしたお湯で紅茶を淹れる事にした。
今日の茶葉は、チョコケーキと相性が良いとされるダージリンとアッサムのブレンド。
温めたティーポットに茶葉を入れて二人分の熱湯を注ぎ、直ぐに蓋をしてから蒸らす為に暫く放置。
ポットの中をスプーンでひとまぜしてから茶こしでこして、カップに最後の一滴まで注げば完成。
コーヒーも良いけれど、俺は紅茶の方が好みなので、藤堂くんの意見は聞きません。
強制的に紅茶が出されても藤堂くんは特に気にした様子もなく、出されたカップに鼻を近付け、良い香りだとか言っている。
まぁ、安くはない茶葉なので、香りだけでなく味の保証もしますけど。
向かい合わせに座って手を合わせ、仲良くいただきますをして。
お先にどうぞと言わんばかりの藤堂くんの視線を受けながら、テリーヌショコラをフォークで切り分けて口へと運ぶ。
滑らかな口溶けに、ねっとり濃厚なチョコレート。
ケーキよりも生チョコに近いくらい、チョコレートチョコレートしている。
甘さは控えめに作られているので、ある意味では重いけれど、そこまでではない。
紅茶を飲んでスッキリするのも手伝ってか、一切れなんてペロリと平らげてしまって、直ぐにおかわりを要求してしまうくらいには美味しくて。
なので、藤堂くんの言う通りこれは、『最高に美味い』で間違いなかった。
「藤堂くん」
「どした?」
「最高に美味い、ですね」
「ははっ、だろ?」
嬉しそうに笑う姿に、トクンと胸が高鳴る。
藤堂くんにドキドキするのを悔しく感じる時もあるけれど、今は愛おしさの方が勝っていた。
好きだな、とすんなり受け入れられるのは、このテリーヌショコラのお陰だろうか?
それともバレンタインという、この日のせいだろうか?
どちらにせよ、浮かれぽんち気味なのは確かなようで。
普段なら絶対にしないような事を少しだけしてみようか、などと頭の片隅で考えている自分がいる。
フォークで切り分けたテリーヌショコラを持ち上げては下げ、持ち上げては下げ。
らしくない事をしようとしているからなのか、なかなか踏ん切りが付かない。
だって、こんなバカップルみたいなやり取り、生まれてこの方した事もされた事もないし、今の今まで『してみよう』と思った事だってないのだ。
ちら、と目だけを藤堂くんへ向けると、タイミング良く顔を上げてくるものだから、目が合ってしまった。
「もうお腹いっぱいか?」
俺がなかなか食べないので、もう満腹なのだと勘違いされてしまい、それは違うと慌てて首を振る。
そうではない、断じてそうではない。
腹に余裕はまだあるし、食べる意思だって持っている。
じゃあ何でフォークを行ったり来たりさせているかと言うと、その、恋人っぽい事をしたいかも、なんて。
先に述べた通り、今日の俺は浮かれぽんち気味であって、なので、『あーん』とかしてみようなどと考えてしまったのだ。
俺のキャラじゃない事は重々承知、きっとそんな事をすれば、いくら藤堂くんと言えど見開いて固まるのだって目に浮かぶ。
でも、たまにはこんな俺も悪くないのでは?
誰に問うてるのかもわからないが、そう、悪くないと思うんですよね!!
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「いいけど?」
「もし俺が、このケーキをあ
……
食べさせ合いたいとか言ったら、笑いますか?」
「へ
……………………
?」
気の抜けたような声を出した藤堂くんは、呆けた表情のまま己の頬を抓った。
しかも、強めに。
そんな風にしたら絶対痛いだろう、案の定、若干涙目になりながら「いひゃい」と言っていて、その姿はどこか要くんを見ているかのようだった。
アレだ、おバカ可愛いってやつ。
「
…………
すみません、やっぱり今の聞かなかった事にしてください」
「いやいやいやいや、無理だわ」
「だって、柄じゃないですし」
「そんなんどーでもいいっての!! 俺的には、食べさせてくれるなら喜んで、なんだけど?」
そうして言い終わる頃にはパカッと大きく口を開けるものだから、この有無を言わさずな感じが狡いと眉を寄せる。
こんな風にされてしまったら、大人しくテリーヌショコラを口へと運んであげなくてはいけないじゃないか。
全くもって、こういう所が憎めない。
一欠片だけフォークの上に乗って所在無さげにしていたテリーヌショコラを、ゆっくり持ち上げる。
それと藤堂くんを交互に見やって、一向に閉じる気配のない口に、降参だと覚悟を決めた。
大丈夫、ただこれを口へ持っていくだけだ、何も緊張する事はない。
震えそうになる手に気付かないフリをして、藤堂くんの前にテリーヌショコラを差し出すと、待ってましたと言わんばかりに口の中へと招き入れられた。
「ん、うまい。じゃあ、次は千早の番な」
あーん、と言いながら差し出されるフォークの上には、俺が切り分けた物より大きな塊が乗っている。
入らなくもないけど、一口が大きくないか?
一瞬考えたが、どうでも良い事だと思う事にして口を開き、パクリ、とフォークに食い付いてテリーヌショコラを味わう。
しかし、自分で食べた時はあんなにも美味しく感じられたのに、今は味がしなかった。
やっぱり、緊張してるんですかね?
たかだか食べさせ合っただけ、間接的なキスをしただけ、俺達はもっと先の事までした仲なのに、たったこれだけで緊張するとは。
慣れない事は、繰り返さなければ慣れはしない。
幸い、藤堂くんはこのバカップルがやるような行為に嫌悪感がなく、寧ろ好意的。
ならば、やる事はひとつ。
「藤堂くん、もう一口ください」
「おー」
ニッと笑った藤堂くんが、俺の口へとフォークを突っ込んだ。
「あっ、紅茶が冷めてしまいましたね」
一切れ食べ終わるまでお互いに食べさせ合っていたので、半分程に減ったティーカップの中身は、時間の経過と量が減った事も相まってすっかりと冷めてしまっていた。
途中、照れが抜けきれずに何度か手が止まってしまったのも原因か。
けれど、最初の方は味のしなかったテリーヌショコラが、最後の方には濃厚なチョコレートを舌の上に残してくれたので、及第点だろう。
「紅茶、淹れ直しますか」
そうして二人仲良く立ち上がって、並んで紅茶を淹れるのだった。
END
「なぁなぁ、昨日の帰りに千早から貰った紅茶すげーのな。チョコの匂いしたんだけど!」
「まぁ、そういう紅茶なので」
ハッピーバレンタイン!
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