紫呉葛
2026-02-14 22:59:51
2531文字
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【オキラス】蓮華のようだと言いますか

何でも許せる人向け。ラスティ視点。バレンタインネタっぽいもの

任務を終えて帰投中のラスティの元に一本の通信が入った。
雪の中で動けなくなった別部隊のMTから救助信号を受信した、直ちに現場に向かって欲しい。
それが、信号から一番近い場所に居たスティールヘイズの搭乗者であるラスティの追加の任務となった。
承諾して、そちらへ機体を走らせる。

向かうにつれて空には灰色の分厚い雲が圧し掛かる。
そして目的地付近では雪が荒波のように吹き乱れていた。
風が強くスティールヘイズでも飛行が危うい。
早く見つけなければ、ルビコンの冬を知っているラスティ自身も遭難してしまう。
本来の景色がわからなくなるほどの嵩を増した山の中、そびえ立つ針葉樹すら雪のオブジェのようだ。
捕捉出来る地点に入ったらしく、救難の電子の音をスティールヘイズのレーダーが受け取った。残りの距離が判明する。
ようやく、吹雪で半分以上を白く塗られた一機のMTを見つけた。
接触限界の距離で機体を停めて、MTに飛び乗りハッチを開けて隊員の元へ。
機体は電源が落ち、空調が効かない操縦席は冷凍室の中より冷え込む。
一人乗りの席に居た隊員はかろうじて意識はあるものの、体温が極度に下がっている。
この状況は、かなり良くない。
スティールヘイズでのMT牽引はできない。重量、天候、距離のどれもが、諸共移動不可に導く答えしか選ばせない。
隊員をスティールヘイズの中へ連れて行きたいが……だめだ、コアへの移動中に隊員を吹雪に晒すことになる。
これ以上の体温低下を防がなければならない。
だが、温める方法が無い。
MTには毛布も防寒具も積んではいない。
それにラスティもその手の救助道具は持っていない。
通常AC乗りは上着を格納庫に置いて出撃する。機体に乗りっぱなしが前提だからだ。
このパイロットスーツには耐寒機能はあるが、脱げるものではないし、気温はとっくに耐寒の限度を越えている。
基地からも救助が向かっているだろう、だが、ここにたどり着くのに一時間以上はかかる。この悪天候に阻まれては思うように進めはしない。
ラスティの、ヴェスパー部隊の隊長としての目が、獲物を見据える獣のそれに変わる。
このまま既に息絶えたことにすることも出来る。相手はアーキバスの人間、ルビコンの解放の敵だ。
敵が一人減る。それだけだ。その方が良い。
なのに、
隊員が、誰かの名を呟いた。
………
ラスティが口を噤む。
おそらくそれは、大切な人の名なのだろう。
隊員の手には縋るように固く握られた一枚の写真。その皺の中には、別世界のような明るさを纏う人間の笑顔。
このような光景を嫌というほど見てきた。
排除したい星外の人間の場合も、同じ目的を持つはずの同郷の人間の場合も。
奪われた側であり、奪う側として身を置く、そんな己にどうこう言える資格なんてもう無いとわかっている。
……あぁ、今日は、大切な日に感謝を告げる日だったな。
ヴェスパー第四隊長のラスティとして、行動に移る。
己の持つ端末を取り出し、素早く必要な個所を押す。
通信を掛ければ、この回線を使用する意味を分かっているからこそ直ぐに、そして気怠げのように捉えられる応答の声が届いた。
「オキーフ、貴方に頼みたいことがある」
アーキバスの基地に連絡をするよりも、オキーフに直接連絡する方が解決策に早くたどり着く。彼の持つ情報量と経験則の多さは随一だ。
手短に状況を説明する。
「体温を上げられる物は、この近くにあるだろうか?スティールヘイズへの移動ですら、持ちそうにない」
すると、少しの沈黙のあと、
《お前は……宝探しは得意か?》
冗談めかした物言いだが、慎重な行動が必要であるという警告も含んでいる。
《今から送る座標に行け。雪の下に酒の入ったミニコンテナがある。お前の嗅覚ならば見つけられるだろう》
秘密裏に購入した物だ、必要量使用した後に然るべき処理をしろ、との指示付きだ。
「了解」
感謝を述べようとしたが、
《人命を優先しろ。事が済んでから報告を寄越せ》
と先に言われて通信を切られた。
ラスティは自然と目元を緩め、口角を上げていた。

送られてきた座標までスティールヘイズを飛ばし、パイロットスーツでは防ぎきれない寒さを慣れで耐え、雪の上に降り立った。
ラスティの視線の先には鈍色の空とひたすらの白い地。
範囲を絞って示されたとは言え、半径25mというのは極寒の中に居る人間にとっては広い。
目印は無い。本来ならば探知機を使うが持っていない。闇雲に掘って体力を消耗するわけにはいかない。なんとも難易度の高い宝探しだ。
だが、ラスティの勘は良く当たる。
つけた目星は正解を引き当てた。雪を除けば出てきた金属製の箱。
中に入っていたのはかなり上等なブランデー。
見覚えのあるラベルは、前にラスティが美味いと言った、飲ませて貰った物と同じだ。
そういえばオキーフの出撃予定がラスティの帰投予定時間付近にあったことを思い出した。
目的はおそらく……
ラスティはそれ以上深く思考するのを止めた。
今は優先すべきことがある。
酒瓶を鷲掴む。おもい、箱はそのまま置いて。
戻り、開栓して、隊員に飲ませる。
結果として、隊員は体温が上がったことにより無事に基地で治療を受けることが出来た。
ラスティも、安堵の笑みを浮かべた。

指示に従ってあの酒は雪にくれてやった。
諸々の手続きが済んで、最後の報告に向かった時には当日も残り僅かだった。
オキーフの部屋に、ラスティが入る。
「貴方のおかげで、助かったよ」
本心の微笑みを向けるラスティ。
「そうか」
本心を見せない仏頂面なままのオキーフ。
「今日出せるのは、これくらいだ」
と、いつものフィーカではなく、ホットチョコを淹れたオキーフ。
「ならば、私からはこれを」
と、ワインを持って来ていたラスティ。
「チョコに合うと聞いて、是非とも貴方にと思っていたんだ。温まるらしい。ちょうど良いだろう?」

珍しく、オキーフが僅かに口の端をつり上げて。
ラスティは穏やかさを乗せた笑みを向けて。
二つの湯気上がるカップに程よく瓶を傾けた。
やけるような甘味と酔いを分かち合う。

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