こゆ
2026-02-14 20:43:02
1358文字
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おいしい関係

バレンタインデーのペンシャチ今昔
ベッター保存用

 まだその日がバレンタインデーなんて知らないころ。ペンギンとシャチの母親たちは、幼い息子たちに上品な装飾が描かれた菓子箱をくれた。二人で仲良く食べなさいね、と言いつけて。
 箱をあけると、中には色とりどりにコーティングされた綺麗なチョコレートがあった。
 わぁ、とペンギンとシャチが声を漏らす。
「シャチ、どれがいい?」
「えぇと、これかな」
「じゃあおれはこっち」
 二人でそれぞれ選んだチョコを取り上げて、口に運ぶ。ふたりの瞳が同時に輝いた。
「んーまっ!」
「これ、ホワイトチョコの中にドライフルーツが入ってる」
「こっちはラズベリーのジャムだ」
 次はどれ、こっちはどんなのだろう、とふたりで話しながら、一つずつチョコを食べていく。
 見た目も中に入っているものもいろいろで、味を想像しふたりで答え合わせするのも楽しい。
 ホワイトチョコに紫のチョコでデコレーション、レーズンとか入ってるかな?
 シャチが考えながらそのチョコを摘み上げ、口に運ぶ。
「あ」とペンギンが上げる声が聞こえ、シャチは振り向いた。
 ペンギンが思わず言ってしまったという顔で、慌てて手を振る。
「なんでもない……
……あ)
 ペンギンもこれを食べたかったのか。
 そう気づき、シャチは椅子から立ち上がる。シャチがペンギンに身体を近づけ、への字に結ばれたその顔を小さな両手で押さえた。
「え? しゃ、」
 困惑の顔で見上げてくるペンギンに、シャチが唇を押しつける。驚いて固まったペンギンの口に、シャチは口の中のチョコを舌で押しこんだ。そして、目を白黒させているペンギンをまっすぐに見つめる。
「ペンギン。欲しいものは欲しいってちゃんと言えよ。おれに遠慮ばっかりするなよ!」
 ペンギンがなにか言いかけ、口の中にチョコがあるのを思い出して、もごもごと咀嚼する。ごくんと飲みこんでから、ペンギンはシャチに頷いた。
……うん。でも、シャチも今みたいにおれに欲しいもの譲ったらダメだ」
「あ、ほんとだ」
 素直に答えてくれる弟分に、ペンギンが笑みを浮かべる。
「じゃあ、今度はシャチが欲しいの食べな? どれが欲しい?」
 ペンギンが訊ねると、シャチは箱の中に残ったチョコを見比べた。その中の一つを取り上げる。
……これ」
「そっか! うん、」
 微笑んで頷いたペンギンが自分の口にチョコを咥えた。
……え?」
 目の前で意地悪をされて、シャチはどうしたらいいのかわからずにいると、ペンギンがチョコを咥えたまま、シャチの唇に飛びついた。
 
 
 
 ◇
「シャチどれにする?」
「んー、じゃあこれ」
 ポーラータング号の食堂で長方形の箱に所狭しと並ぶチョコレートの粒をペンギンとシャチが覗き込んでいる。
「うん。どうぞ」
 シャチは選んだ一粒を、微笑んで頷いたペンギンの唇にそのチョコを押しこむ。
……?」
 シャチがが食べたくて選んだんじゃないの?
 見守っていたクルーの誰もがそう思った。
 どうすんの、チョコを咥えたままでいるペンギンに静かに視線が集まる。
 シャチは少し顔を赤くしてペンギンを見つめ、ねだる。
「ちょうだい」
「ん、」
 当たり前みたいに、チョコを咥えたままのペンギンが頷いて、ふたりの唇が近づいた。