葵@はなれ
2026-02-14 21:00:00
2699文字
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チョコレートと、お酒と、

バレンタインの現パロ実福🌿🌹
既存のシリーズのような、そうでもないような。
※キャラ崩壊注意

一戀托生3の開催おめでとうございます&ありがとうございます。

そんなつもりじゃなかった――というのは、言い訳の常套句だ。やってしまった後でそんな事を言っても、なかった事にはならない。
でも、本当に、そんなつもりじゃなかったんだ


二月十四日、職場のクリニックでは、バレンタインにかこつけたお菓子交換会が恒例になっている。スタッフ同士で持ち寄った分と、院長先生が振舞ってくれる分と、患者さんからの差し入れが、みんなで分けても小さめの紙袋いっぱいになった。
僕は甘い物はそんなに食べないから、持ち帰ったお菓子は大半、福島のおやつになる。福島も勤め先のお花屋さんで色々貰ってくるものだから、申し合わせた訳じゃないけど、お互いへのバレンタインの贈り物はお菓子以外にするのが、最近では暗黙の了解。
今年、僕があげたテディベアは、今は福島がくれた花籠と仲良く寄り添って、リビングのテーブルに座っている。まぁ、それはいいんだけど。
ひとつ言い訳するなら、お菓子を分配してくれたのは院長先生と事務員さんで、詰め合わせられた紙袋を帰りがけに受け取った僕は、中身をよく見ていない。
お風呂に行く前に思い出して、紙袋ごと福島に手渡した、その中に、お酒入りのチョコが混ざっていたなんて知らなかったんだってば。

「じっきゅ。これ、おいしーよ」

お風呂から戻った僕を見上げて、普段は涼しげに切れ上がった目元をふにゃふにゃにゆるませた福島が、舌足らずに笑う。テーブルの上にはきらきら光る包み紙が、三枚。
元々、福島はアルコール度数3%の缶チューハイで潰れる下戸だ。ボンボン三つで、完全に、すっかり、何処から見ても出来上がっている。
たくさんあるお菓子の中から、どうしてよりによってお酒のチョコを選んでしまうんだろうね、この子は。味で分からなかったのかな。

「福島、これウィスキーボンボンだよ。呑めないくせに、何で三つも食べてるの
「? おいしかった、よ?」
「呂律回ってないよ。水持ってくるから、ちょっと待ってて」
「んもーいっこ

僕の話を聞いているのかいないのか、性懲りもなく手を伸ばしてくる福島から、慌てて袋を遠ざける。美味しかったのはいいけれど、親指の先くらいのチョコレート三粒でべろべろになってる人に、これ以上、食べさせられる訳がない。
空振りした手を不思議そうに眺めた福島が、不満げに僕を見た。首まで染まった赤い顔と、蕩けた上目遣いで。こてん、と首が傾ぐ。

「なぁもっと、ほしいいじわる、するなって

違うと分かった上で言うけどわざとかな???
これだから外では一滴だって呑ませられない。僕の前でよかったと言うべきなのかもしれないけど、こんなの、僕にだって目の毒だ。
とにかく水を、と立ち上がりかけた僕の服を、福島が掴んだ。酔っ払いのくせに――いや、酔ってるからこそ加減が利かないのか――物凄い力で引き倒される。

「痛ったちょっと、福島……福、島???」

尻餅をついた僕の上に、圧し掛かるように福島が身体を寄せた。お風呂の後だから、髪や身体から香るのは福島愛用のシャンプーとボディーソープの筈、だけど。
華やかなダマスクローズが、いつもより濃厚に感じるのは、アルコールで身体が火照っている所為だろうか。チョコレートとお酒の匂いも混ざり合って、ひどく、甘い。
思わず唾を飲み込んだ僕を、据わった眼をした福島が、まじまじと差し覗き――おもむろに、あーん、と口を開けた。

「ね、じっきゅのほしい……ふくちゃんの、ここに、ちょーだい?」 

………………うん。大丈夫。うん、分かってる。
「じっきゅの(貰ってきたチョコレート)ほしい……ふくちゃんの、ここ(口)に、ちょーだい(食べさせろ)」だよね。
お酒の所為で甘えたになっている福島の、可愛い、純粋なおねだり。いかがわしい意味なんて、まったく、これっぽちも、ない。そう聞こえたなら、僕の心が汚れている所為だ。

「福島。いい子だから、お水飲もう。お願い。僕の為に」
「ん? そしたら、くれる? じっきゅの?」
「あげるから、先にお水」

厳重にしまい込んだチョコレートに未練そうな眼を向ける福島を、何とか宥めて引き剝がして、冷蔵庫から水のペットボトルを出す。ついでに自分の頭を突っ込んで、ひんやりした冷気を浴びておいた。
バレンタインデーという特別な日で、明日は僕も福島も休みで、正直その気でいたのだけど、さすがにあんな酔っ払いをどうこうするのは駄目な気がする。いくら恋人がえっちで無防備で悩ましくても、そこはこう、人として。
水を飲ませたら、今日はもう寝かせてしまおう。それまで頑張れ、僕の理性と道徳心。

「福島、お水持ってきたけど、飲めそう?」

リビングに戻ると、福島はぼんやりした様子でラグの上に座り込んでいた。気持ち悪くなったりしていないかな。見た限り、顔色は悪くないみたいだ。
覗き込んだ僕の眼と、とろんとした福島の眼が、合う。
赤味がかった色の瞳は、光が当たると万華鏡みたいに複雑に色が入り混じって、きれいなそれを見るのが僕は大好きなのだけど、今日はいつもより更に深い色に見える。

じっきゅ」
「え、ん。むぐ」

思わず見とれた僕の隙を突くように、唇が押しつけられた。驚く間もなく、舌がねじ込まれる。アルコールで体温が上がっているのか、絡み合う粘膜も、息も、熱い。
福島の舌に残っていたチョコレートの味が、口の中に広がる。カカオのすっきりした苦みのある甘さと、鼻に抜ける洋酒の風味と、薔薇の香りと。

「ぷは」

散々に僕の口中を荒らし回った福島が、妙に可愛く息をついた。
濡れて光る唇もそのまま、僕を見上げて、へにゃりと笑う。

「おいしかった、からー。じっきゅにも、おすそわけ?」
………………

まだチョコレートを一粒も食べていないのに、口の中は痺れるほどに、甘い。お酒には強い方で、福島からの『おすそわけ』くらいで酔ってしまう筈もないのに、身体が熱いし、くらくらする。揺れているのは僕の理性とか道徳心とか自制心とか、かもしれない。
二月十四日、二十一時。チョコレートとお酒、薔薇。とろとろふにゃふにゃの恋人。明日は二人とも休み。
………………我慢しなくていいんじゃないかな、僕。

「ん? だっこ、する?」
「落ちると危ないから、掴まってて」
「んー」

素直に腕を回して抱きつく福島に、明日は盛大に文句を言われるかもしれないけど、仕方ない。
だって僕は本当に、そんなつもりじゃなかったんだから。

全部、チョコレートとお酒と、福島の所為だ。