おから
2026-02-14 18:47:02
1430文字
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新世界、まで

ハッピーバレンタイン(闇期)🐇🐢

 冬の繁華街はやたら煌びやかに見える。
 サングラスからはどれも灰色に見えるが。
 商店街と比べて圧倒的に繁華街は人間が多い。
 十亀はカラン、コロン、と下駄を鳴らしながら兎耳山が好きそうなものを買いに向かっていた。
 一体、どういうものが好みだろうかと考えながら店を探して歩いてゆく。
 時刻は午後七時半。
 二月十四日が終わるまであと少し。
 兎耳山がオリから家に帰るまでを逆算すると、選んでいる時間は無いのかもしれない。
 選ぶ?
 何を?
 どうして?
 答えは簡単だ。
 兎耳山が今日ってバレンタインなんだってね!と言うから、買いに行かなきゃなぁと心の中の幼い十亀がそう言った。
 果たして、ちょっとじいちゃんの様子見に行ってくると嘘をついてまで、チョコレートを買いに行く必要があったのか?
 十亀には分からない。
 分からない癖に足は繁華街を歩く。
 そうして、気づけば青いネオンが並ぶ若者向けのショップに入ってしまっていた。
 まあ目立つ目立つ。
 店内の視線を全て受け止めながら、そういうのには慣れているので手頃そうなものを見繕う。
 案外高いんだなぁとか、大きいのより小さくて種類がある方が良いよねぇとか、質より量かなぁとか、何故か嬉々として選んでいる自分に気づく。
 『そんな意味』で投げかけられた言葉じゃないのに。
 勝手に誤解して勝手に傷つくのはこれで何度目だろう。
 数えるのも面倒だ。
「あ」
 目の隅にキラキラ光るものが見えた。
「丁度いいかもぉ」
 網に入った円盤形に金のアルミ箔で包み込まれたチョコレート。
 枚数も入っているし、これにしようかなぁ。
 懐にも優しいし。
 レジに持っていき、会計をする。むき身のまま持って帰ることにした十亀はそのままオリへと帰ってゆく。
 兎耳山はまだいるだろうか。
 最近はオリにいる時間の方がずっと長い。家に帰っているのかも危うい。
 兎耳山の両親から十亀へ何か連絡が来る事も無いので、相変わらずなのだろう。
 カラン、コロンと下駄が鳴る。
 繁華街を抜け、商店街を歩き、飲み屋街、オリオン座へ。
「ちょーじぃ」
「なーにー?」
 随分遠くから声がする。
 何となく嫌な予感をしつつ、その方向……劇場へ行くのと同時に血の匂いをさせた誰かとすれ違った。
……なにかぁあったぁ?」
 兎耳山は足をブランブランさせながら椅子に座っている。
 血の匂いは、しない。
「なんにもないよ?ちょっと遊んでただけぇ」
……そっかぁ」
 ああ、皮を剥ぐべきだったかなか。
 十亀は兎耳山の隣に座るとはい、チョコレート、と言った。
「どうしたの?」
「ちょーじがバレンタインだって言ったからでしょぉ」
「そうだったっけ……これ、なに?」
「コインチョコだってぇ、綺麗だしぃ、いっぱい食べられるよぉ」
「えへへ、亀ちゃんありがとう!」
 二人、笑い合う。
 十亀はあのころとは違う笑みを浮かべてしまった。
 ああ、買ってきてよかった。
 十亀は笑みを浮かべながらコインチョコを早速一枚食べる兎耳山を見つめた。
 そこに空虚がある事を、知らない振りをして。
 いつかこの想いが実る日がくるのだろうか。
 幼い自分がそう泣きわめく。
 そんな日がきたのなら、自分はきっと………太陽に焼かれて死んでしまう。
「亀ちゃん!」
「なぁに、ちょーじぃ」
「だぁいすき!」
……オレも」
 大好きだよ、ちょーじ。