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2026-02-14 17:08:47
2914文字
Public 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
 

すてきなバレンタイン/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ

これはこれでハッピーではないのでしょうか

新エリー都、バレンタインデー当日。
旧文明から続く行事である。親しい間柄の者同士でプレゼントを交換したり、日頃お世話になっているひとに感謝の気持ちと共にチョコやキャンディを渡したり……
ギフト商戦とばかりにこの日までは広告も店頭の品揃えもバレンタイン向けアイテム一色で、当日もこれから慌てて選ぼうというひとでルミナ・スクエアは賑わっていた。
ライトが指定された公園に行くと、待ち合わせの相手であるパエトーンの片割れはデバイスをいじりながら川沿いの手すりにもたれて立っていた。ライトの姿に気づいてデバイスをジャケットの内ポケットにしまう。
「こんにちは、ライトさん」
「早いな」
「用事がすぐに終わってしまって。でも、待ってないから気にしないでほしい」
そう言いながら、アキラはショルダーバッグを開いて中から小さな封筒を出した。そして、ライトに差し出す。
「ハッピーバレンタイン、ライトさん。僕からのプレゼントだ。受け取ってほしい」
ライトはかたまってしまった。
バレンタイン。プレゼント。今日は二月十四日。
もちろん、何の日か知っている。
だが、まさか、この青年からもらえるとは思っていなかった。
賢明な読者はご存じのことではあるが、ライトは目下、このアキラという青年に恋をしており、好いていることを伝えているが、アキラは聞かなかったことにしている。つまり、アキラは二人の間には「何もない」という状態にしている。そのくせ身体的な親交はあるのが厄介だ。その真意はアキラ自身に聞かねばならないが、状況としてはライトの片思いというやつなのだ。
アキラから連絡が来たのは前日で、もし新エリー都に来ているなら会おうというものだった。ライトたちカリュドーンの子はバレンタインのギフト配送のおかげで、ふだんは小型配送はあまり受けないのに、都市部の方へとかり出されていて、彼からの誘いは願ったり叶ったりだった。
そりゃあ、バレンタインということも頭にはあった。が、アキラと知り合ってからというもの、そして彼に想いを告げたのになかったことにされてからというもの、何も期待しないのが吉であると悟った。そのため、彼から何か物をもらうなど、考えるだけで罰当たりだとすら身構えていたのである。書いていて筆者も泣けてきました。
アキラは「大した物じゃない」と肩をすくめた。
「開けていいか?」
「どうぞ」
小さなカードが出てきて、表にはRandomPlayのロゴマーク、そして裏にはマス目が10個並んでいた。その下には注意書きがある。曰く、有効期限はなし。スタンプが全部埋まったら願い事をひとつ(可能な限り)かなえるという。
ライトはアキラの目を見つめた。
アキラはくすぐったそうに笑う。
「いつもお世話になっているから、あなたに何かあげたいと思った。でも、僕は人付き合いがあまりないし、自分の欲しいものが世間とズレていることを知っている。だから、リンに相談してみた。彼女のアイデアだよ、それは」
「これは、相当レアなもんじゃないか」
「さあね。価値があるのかどうか。でも、世界に1枚しかないのは確かかな。おっと、この言い方だと、レアだと認めていることになるね」
「このスタンプはどうやったらたまるんだ?」
「それはリンに聞いてみてくれ。スタンプは彼女が持っているんだ」
「なんだって?」
「僕は判定が甘いからすぐにたまってしまうといっていた。確かに、今10個押してしまったほうが楽だとさえ思っている。それだとなんのわくわく感もないからNGだということで……ライトさん、聞いてる?」
「ああ、聞いてる」
「いつスタンプがたまるんだろうね。遠方にいるときに押したくなったらどうするんだろう。デバイスで記録しておくとか? でも、それならカードの意味がないから、あなたとリンが会ったときに押すことになるんだろう。そのときは僕も立ち会うから二人きりにならないように」
「わかった」
ライトは丁寧にカードを封筒にしまうと、ライダーズジャケットの内ポケットに慎重に入れた。絶対に紛失したくないが、荒事に巻き込まれるのは日常茶飯事のため、身につけているのは得策ではない。かといって、部屋で保管するのも考えものだ。走り屋は根無し草であり、たまたまブレイズウッドにいることが多いが、移動生活をしている。その中で安全な場所などあるのだろうか。
それに、とライトは半眼になる。サングラスをかけているからアキラからは見えないだろう。
どう考えても彼の妹は困難なスタンプカードを作っている。
いつ、何をすればスタンプがもらえるのか、まったく明示されていない。彼女の気まぐれであるとするならば、非常に遠い道のりといえた。ライトの中ではバーニスと同じくらい、リンはぶっ飛んでいる。彼の精算に付き合ったのが良い例だ。
「ライトさん、今のはスタンプ一個だね! カードは持ってる? え、忘れてきちゃったの? 後付けはできないから、今回はなしだね。残念だけど」
にっこり笑って平気でこんなことを言ってくるに違いない。
唸っていると、アキラがライトの腕をつついた。
「ところで、それは僕からのプレゼントと言ったけれど、厳密にはそうではないと考えている」
「うん?」
「幸い、公園には僕ら以外誰もいないからここで明かすけれど、特別な下着を身につけている」
…………
「オンラインショップでバレンタイン用におすすめされたもので、僕のこれまで蓄積したデータから、あなたが好きそうなやつかな、と思って買った」
「今、つけてるのか?」
「そう言ったじゃないか」
「ここで?」
「そうだよ」
血の巡りが悪いやつだとばかりにアキラは笑うが、これは事件だった。
「こんなものが日頃のお返しになるとは思わないが、この後の時間も一緒に過ごしてくれるなら、嬉しい。どうだろう」
「謹んで、ありがたく、いただこう」
「よかった」
準備してきたものが功を奏したことにアキラは満足している。
二人で歩き出したが、恥ずかしいことに、地面を歩いている感覚がなかった。ひとは舞い上がると地に足つかなくなるらしい。
「そういや、俺からのプレゼントだが」
「ライトさんがもらったチョコやキャンディの横流しで手を打つよ」
「もちろん、それで問題ない」
が、こちらにも入れ知恵されたプレゼントがあるのだ。
ルミナ・スクエアの往来でデバイスを出してもらい、彼が目下、夢中になっているというアプリを開いてもらう。そして、メッセージボックスを開いて承認、ガチャの画面を開いてまずは10連。
画面が虹色に光って、アキラが顔色を変える。
「わーい!」
普段のおとなしさはどこへやら、アキラは飛び上がってライトに抱きついた。道行く人がびっくりして足を止めこちらを見るが、すぐに興味を失い歩き出す。
「一番喜ぶのって、これだから!」
その言葉は確かに嘘ではなかった。
何やら複雑な思いではあるが、最大限のアキラからの賛辞を受け取り悪い気はしない。
それに、これから楽しいことが待っている。
この年は、こういうバレンタインを過ごしたのだった。