めまめ
2026-02-14 15:32:24
916文字
Public
 

穂・村×荒 合同ペーパー「バレンタイン」

穂・村×荒
2026/02/01 VRFの有志ペーパーラリー企画「愛船」に、合同ペーパーで参加した際の小説です

「荒船、口あけろ」
「んあ」
「荒船。こっちも、はい」
「んぐ」
 前触れもなく口に放り込まれたものを、荒船はモグモグとおとなしく咀嚼した。それはなめらかに舌の上でとろけ、ほのかに酒の香りの余韻を残して溶けていく。
……チョコ?」
「そう。今日はバレンタインだろ」
 ガスコンロのまえに立ち、鍋をかき混ぜている荒船の口元を村上がティッシュでぬぐった。ココアパウダーの味がする自分の唇をペロリと舐めていると、穂刈がチョコが刺さった爪楊枝を差し出してきた。
「生チョコだ。教えてもらったんだ、こんに」
「オーブンもいらないし、初心者でも簡単だって。初めてにしては、けっこううまくできてるだろ?」 
「なんだ。手作りかよ」
……まずかったか、もしかして」
 穂刈と村上が一瞬にして不安げな表情になった。
「ちげーよ。手作りならもっとゆっくり食わせろってことだ」
 三個目の生チョコを味わいながら荒船がそう言うと、乙女のように目を輝かせた穂刈が肩を、村上が腰を抱いてくる。
「はやく荒船に食べてもらいたくて」
「安心しろ、おかわりはまだある。鋼とたくさん作ったからな」
「わかったって。おい、あぶねーからさっさと離れやがれ」
「知ってるか、荒船」
 穂刈の低い声が、耳をくすぐった。「媚薬効果があるらしい、チョコレートには」
「まあ、迷信みたいだけどな」
 村上からのキスを頬で受けとめながら、鍋底が焦げつかないようにお玉を動かす。
「もし媚薬効果があるんだとしても、俺には効かないだろうな」
「なんでだ?」
「とっくにおまえらに惚れてんのに、いまさら媚薬でどうこうなんねえだろ」
 とたんにキャーと黄色く野太い悲鳴があがった。「オレたちの荒船がカッコよすぎる」「抱いて!」と悪ふざけするふたりを手で追い払う。それから鍋の中でふつふつと沸くカレーを二枚の小皿によそってやった。
「味見」
「わ……! 今日のカレー、すごくうまいな」
「うまい、ほんとうに。作りかたか材料でも変えたのか?」
 おかわりがほしい、と騒ぐ村上と穂刈を背に、荒船はカレーにいれたチョコレートの包み紙をゴミ箱へ投げ入れた。
「べつに、いつもと同じだよ」