もろみ(もず味噌)
2026-02-14 11:42:03
2728文字
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クコちと三成とド捏造左近

どうにもバレンタインには間に合わないので出来てるところまで 全員カルデアにいるド捏造です

「左近、どう思う」
 生前もよく聞いた言葉である。
 尋ねられた男は島清興、通り名を島左近。尋ねた側の男、石田三成の側近として名を馳せた将であり、三成の信頼の深いことといえば自他共に認めるところである。
 三成といえば明晰な頭脳と高い教養を持つためか自分の感性、行いこそが正しいと信じ切っている横柄者だが、こと左近に対しては再三意見を求める一種のくせがあった。そのうちのいくらかは自分の意見を認めてもらいたいがための行為なのだが、左近が論理立てて反論すれば聞き入れる素直さもあった。その素直さを豊臣家中でも発揮してほしかったものだと左近は思う。
「さて、なんとまァ、かわいらしいことで……
 とにかく、今回は同意を求めているのではない。本当に思いつくことがなく当然のように左近に白羽の矢が立ったらしい。左近が曖昧に流すと、何故か英霊として召喚された折から掛けている眼鏡の奥の理知的な目が不機嫌そうに細められた。
「左近。私は真剣に話している」
「これは失礼。ですがそんな幼子のような話を聞かされましてもね、左近は殿の親御じゃあありませんよ」
……わかっておる」
 あ、拗ねた。
 左近は苦く笑った。左近に頼るのもわざとらしく拗ねるのも、この主なりの甘えだ。三成の親ではないとは言ったものの、左近が彼に抱く感情は臣下から主に対するもの以上の親しみや慈しみがある。親のようだと言われればそうかもしれなかった。
 つまり、無下には出来ない。
 下唇を突き出す仕草はまるきり子どもである。はてこの姿は幾つの頃だったか、少なくとも左近に出会う前の姿ということはあるまい。まったく才童がそのまま大きくなったような御仁だった。殿もいい大人でしょうに、という小言を一旦飲み込み、左近はやれやれと肩を竦めた。
「逢い引きくらいさっさと誘ったらいいでしょう。ストレートに」
「あ!? ……逢い引きではない」
「まあ左近は何でも構いませんが、うかうかしてると邪馬の女王様達に取られちゃいますよ。なんやかや、付き合いの良い御仁でしょう」
「ぬう」
 確かに、と三成は唸る。
 当日、すなわちバレンタイン・デー。恋人達の祭日。マスターの生きる時代と土地においては意中の人にチョコレートを贈る甘々一大イベントであり、カルデアもこれに倣っていた。とはいえ必ずしもチョコレートを贈る必要はなく、それ以外のものを準備するサーヴァントたちの姿もあった。
 三成が小耳に挟んだところによると、友チョコ、というものがあるらしい。
 三成はこれに関し、なるほど合理的である、と頷いた。友であることに契約更新のようなものが必要であるとは流石の三成も思ってはいないが、言葉にも行動にも表さないよりは余程強固な結び付きが得られよう。
 ならば私も贈らない手はない、と三成は思った。思ったところでふと別の懸念に思い至る。クコチヒコは獣頭である。犬や猫にはチョコレートは毒であるという。身体は人間であるようだし、そもそもサーヴァントには適用されないかもしれないが、避けておくのが無難だろう。何より、彼は甘いもの──というより、娯楽としての「菓子」自体好んでいるようには見えなかった。カルデアのバレンタイン・デーが文化的、儀式的な意味合いが強いとはいえ、相手が好まないものを贈っても仕方がない。
 しかしクコチヒコには大した物欲もない。そうしてうんうん唸った三成は、マスターたる青年にいくらか話を聞き、「これならば」と思うプランを練り上げた。つまり、シミュレーターでの擬似旅行である。
 処理に困る物理的な贈り物よりは体験的な贈り物の方が迷惑にはなるまい、というやや後ろ向きなプランニングではあったが、事実マスターはそのような贈り物を多数受けているという。三成が手筈を整えたとておかしくはないはずだ。
「殿、なにゆえそう悩まれるのです? 断られると思っているわけでもないでしょう」
「う、む……そうだ、そうなのだが」
 おかしくはない、はずだが──どうにも三成の観測範囲では、バレンタイン・デーに際して友人とそのような計画を立てているサーヴァントが見受けられなかったのだ。
 そもそも、マスターの為のチョコレートやら宝具やら(「宝具を贈り物に?」と三成は訝しんだがマスターは遠い目をして「ほんと、何なんでしょうね」と呟くばかりであった)を用意するだけで時間的にも物資的にも電力的にもギリギリである。三成が相談してみてもマスターも経営顧問も技術顧問も止めはしなかったが、実際のところ他のサーヴァントが同じようなことをし出せばきりがないだろう。暗黙の了解というか、密かに交わされている盟約でもあるのだろうか、と眉間に皺を寄せて考えていたのが昨日のこと。
 ──クコチヒコが同じことを考えていた場合、三成が思慮に欠ける男のように思われてしまうのではないかと思い至ったのが今日のこと。
 このあたりの考えを三成は口に出していないが、左近はというと慣れたもので、その煩悶を正しく汲み取っていた。おおよそ承知の上で「別に好きにすればよろしいんじゃありませんか」と言っている。
 三成はいつもの悪い癖ですっかり思考から抜けているようだが、そもそも、クコチヒコは三成ほど所属する組織──カルデア自体を重視していない。決め事を作り査定し適用するのがさがとして染み付いている三成とは根本的に気に掛けるものが違う。つまり彼の心配している事柄は、頭から尻まで、すべてまったく気にしなくともよいことである。
 悪い癖、ではあるが左近はかつての主のこういうところが好ましかった。当然のように、皆が自分の利や欲よりも組織の秩序や円滑な組織の運営を重視し、優先するものと思っている。生前それで痛い目を見たことは確かだが、彼の美徳であるからして仕方がないと左近は諦めていた。
「殿、ここで働く人間には裏などありませぬよ」
……左近」
「まあサーヴァントは別でしょうがそこはそれ、左近がいくらでも盾になりましょう」
「そのようなことせずともよい。私とて矢面に立つくらいはできる」
 そう言って三成は顰め面でふんと鼻を鳴らす。左近にはこれが意地を張る子どものように見えるのだけれど、果たして三成がここで友と呼ぶ男は何を思うのだろうか。

§

「旅行に行くぞ」
 仁王立ちで宣言する友に、クコチヒコは「わかった」と頷いた。頷く以外の選択肢などなかったともいえる。
 バレンタイン・デーの前日のことである。
「その……旅行といってもシミュレーターで……あ、当日はマスターへの進上で枠がいっぱいで譲るしかなく……ひ、日頃の感謝を、だな……