こあらん
2026-02-14 07:42:19
3881文字
Public ロベシエ
 

とびっきり甘いものを、どうぞ(ロベシエ)

ハッピーバレンタイン!
ロベリアが言っている、去年云々は錬金術のイベントのやつです

──この島で評判のショコラティエのチョコを買ってきたんだ。良かったら、一緒に食べないか?
 

 そう言って、ロベリアはバレンタインの日にチョコレートを持って、シエテの自室に訪れた。ロベリアをサイドテーブルの傍にあるスツールに座らせ、自分もその隣りに座る。ロベリアが持ってきた菓子箱を開けると、そこにはまるで宝石箱のようにチョコレートが贅沢に並んでいた。ひとつひとつがデザインも中身も違い、高級な雰囲気を醸し出している。かぐわしいチョコレートの独特の香りが部屋中に漂う。あ、美味しそうと思い、ひとつを手に取って口に入れると、コクのある甘みとフルーツのキャラメリゼのほろ苦い味がした。芳醇な甘みを堪能していたら、妙な視線をロベリアから感じた。まーた、何か変な事考えているなと思いながら、眉をひそめてロベリアを見る。
食べないの?美味しいよー」
 ロベリアはただ頬杖をついて、ニヤニヤしながらシエテを見つめている。そして、悪戯っぽい口調でこう言った。
「キミは、このチョコレートに何か入っているかもって思わないのかい?」
 
 急に変な事を言わないで欲しい。既にひとつ食べてしまった。ジロリとロベリアを睨みつつ、もう一粒、箱からチョコレートを取り出す。
「ええ、……このチョコに?」
 信じられない、という驚いたような声を上げ、手元にあるチョコレートを様々な角度からまじまじと眺める。どこから見ても、普通の美味しそうなチョコレートだ。光沢のあるチョコの上にアーモンド、そして細かく砕かれたドライベリーが乗っている。ベリーの酸味、アーモンドの香ばしさそして、チョコの合わさる匂いが鼻をくすぐる。
「ウィ、去年もバレンタインでの騒動があったしね。毎年、何か起きているんだ。今年は何もないとは言えないだろ?例えばそうだな、惚れ薬入りのチョコレートとか、ね」
 その言葉に、シエテは視線を上げ、ロベリアを見つめた。ロベリアの声が、リズムに乗っているかのように弾んでいて楽しそうだ。瞳は期待に溢れ、なんだかキラキラしている。シエテがどういう反応をするのか、楽しみです、という顔をしている。きっと、こっそり反応を見て、その様子を録音でもするつもりなのだろうなと心の中でため息をついた。

「ふ〜ん、惚れ薬、ねぇ……」 
 この男はいまさら何を言っているんだそう思いながら、ロベリアの言葉なんか気にもせず、手に持っていたチョコレートをパクっと口に入れる。甘さが口いっぱいに広がる。一噛みすれば、口の中でコリッとアーモンドは砕け、ベリーの甘酸っぱい味がチョコと混ざり合う。「あ、美味しい」と思わず言葉が漏れてしまうほどだ。思わず笑みが溢れた。シエテの様子をじっと見ているロベリアの指がピクリと止まる。
 つい無意識に、もう一粒手に取ってしまう。今度のは、コーヒー豆が上に乗っていた。確かに、コーヒーの苦みとチョコは相性がいい。これも悪くない。コーヒー豆の苦味と香ばしさが、シエテの目を細めさせる。気にも留めずチョコを頬張っているシエテにロベリアは納得がいかないのか、指をコツコツとテーブルに鳴らしている。その子供っぽい仕草に、シエテは思わず吹き出した。
……そんなの、今さらでしょ」
シエテはゆっくり視線を上げ、ロベリアの目をまっすぐに見つめた。
「え……?」
 ロベリアの目が、大きく見開き、頬が一瞬で染まる。いつもは余裕たっぷりにシエテを翻弄する年下の恋人が、今は言葉を探している。そんな驚いているようなロベリアの様子を横目で見て、シエテは薄く笑った。
──いつもは、俺の方が振り回されているし
たまには俺だって意表をついてもいいよね。

だってねぇロベリア」
 そう言いながら、もう一粒、チョコレートを箱から取り出し、指先でくるくると回す。ツヤツヤと光っているチョコレートの上には何もトッピングがされていない。さて、これはどんな味かなと思いながら、口に含む。甘いマジパン入りだった。目を細めて、にんまりと笑いながらロベリアを見つめ、言葉を続けた。
俺に今、惚れ薬飲ませてもあまり面白くないと思うよー。そんな目新しい変化はないはずだからね」
「し、シエテ、そ、それは
 ロベリアの声がかすかに震えている。その反応が面白くて、くすっと笑ってしまう。まだ、口の中にチョコレートとマジパンの味が残っていて、その重厚な甘美がシエテの心を優しく満たしていく。いつもは恥ずかしくて言えないのに、今ならこの甘さにあやかり素直に言えるような気がした。

……まだ分からない?」

 頬杖をつきながら、ふふんと思わせぶりな、挑発的な目つきで目の前の恋人を見つめる。膝が軽く触れ合う距離だから、いつもより熱いロベリアの吐息がよく聞こえる。ロベリアは、さっきから顔が真っ赤だ。目を見開き、口をパクパクさせている。紡ぐ言葉が全く出てこない、という表情をしていて面白い。でも、そのエメラルドの瞳は期待に溢れ、シエテからの次の言葉を待ちわびるように、わずかに潤んでいる。

「惚れ薬とか、そんなのもう必要ないくらい、お前に惚れているってこと……。こんな恥ずかしいこと、言わせないでよー」
「────っ!!」
 眉を下げて笑いながら、なんだか照れくさくて耳まで熱くなる。ちょっと最後は冗談じみた感じになってしまった。一瞬、視線を逸らすも、ロベリアが気になってすぐに視線を戻してしまう。ロベリアは耳まで顔を真っ赤にして、手を口に覆って言葉を失っている。その反応にシエテは内心にんまりした。いつも自分を翻弄してくる年下の恋人は、こういう不意打ちの告白に弱い。こういうところが可愛らしいなぁと思う。口にしたら、不貞腐れるので滅多に言わないけど。

 視線をテーブルにあるチョコレートに移す。もう数個しか残っていない。そのうちのひとつを取り出し、ロベリアに見せる。
「でもさぁ、もし仮にこれが惚れ薬だったら俺だけ食べているのもフェアじゃなくない?」
 シエテはそう言いながら、ゆっくりと目を細める。口端が僅かに上がり、小悪魔のような悪戯っぽい笑みを浮かべロベリアを見つめる。指先で掴んでいたチョコに、軽くちゅっと口付けをする。ふんわりと、ビターなカカオの甘い香りが二人を包み込む。甘い匂いが、まるで媚薬のように脳を刺激する。そういえば、どこかの島ではチョコレートは媚薬効果があると信じていた逸話があった。あながち間違いではないのかもしれない
「ねぇ、ロベリア
 そのまま、ロベリアの方に視線を絡ませ、ゆっくりとベッドの方へと顎を傾ける。顔がなんだか熱い気がする。ロベリアは、じっとシエテを見つめ、意図を察したのか、ごくりと喉を鳴らした。その反応が愛おしくて、思わずふふっと笑みを零す。そして、手元にあるチョコをロベリアの方へと向ける。
……ロベリアも食べてみない?一緒にねぇ」
 ロベリアの瞳が一瞬揺れた。次の瞬間、ガタッとスツールが揺れる音と同時に、シエテの手首は勢いよく捕まれ、指ごとロベリアの口に含まれる。
「っ……
 指越しに、ロベリアの舌がチョコを溶かすのを感じる。指が、とても熱い。シエテの指先をぺろりと舐めながら、ロベリアと一瞬視線があった。目を細め、熱を孕んだ鋭い視線に、心臓がどきりと鳴った。
 そのまま、指を離したロベリアの唇が、シエテの唇に重なる。最初は、ただそっと重なるだけ。だが、ロベリアから仄かなブランデーの香りがして、甘さとお酒の香りだけで酔ってしまいそうだった。
「ん……ふっ……あ」
 シエテが小さく息を漏らすと、ロベリアの舌が待ち構えたように入ってきた。シエテにチョコの味を伝えるかのように、舌先でじっくりとシエテの口内を侵してゆく。シエテの舌もそれを受け入れるかのように、絡み合う。お互いの息が混じり合い、湿った音が部屋に響く。ブランデーの苦味と、チョコの甘みがシエテの口内にも広がっていく。熱くて、甘いキスだけで、頭がふわふわしてきてしまう。

……あっ
 ロベリアの手がシエテの腰に回り、ぐっと引き寄せられる。身体が密着して、互いの熱が、鼓動が服越しから伝わって来る。キスはさらに深くなっていく。舌が絡み合い、まるでお互いを貪るように求め合いながら、ロベリアはシエテをベッドに押し倒した。
 ようやく唇が離れ、顔を上げロベリアを見つめる。頬は紅く、彼の碧緑の瞳は宝石のように潤み、光っていて、欲に染まっていた。
「セボン……甘いな。くははっ、甘くて、どうにかなってしまいそうだ
 溶けたチョコレートの匂いが部屋中に満ちていく。ロベリアの声は熱を帯びて、蕩けた瞳でシエテを見つめながら、シエテの頬をそっと撫でる。そして、うっとりした視線を交え、こう言った。
「でも、もっと食べてもいいよな?」
 吐息混じりの掠れた声で、シエテを見つめている。その視線だけで、身体の奥が熱くなる。ロベリアの手は滑るように、頬から首へ、シエテの鎖骨を撫でる。シエテは愛おしそうに、ロベリアを見つめ、笑った。

「俺からのチョコ、まだ貰ってないでしょ?」

 シエテは両手をあげ、ロベリアの頭を優しく撫でる。セットされたふわふわの髪が手のひらに心地よく沈み、思わず指を滑らしてしまう。そのまま、ロベリアの頭を軽く引き寄せ、息がかかる距離で甘く囁くように呟いた。




「いいよ好きなだけ、どうぞ」