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Rana
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レノシス(短編)
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虚勢が剥がれる場所
レノ✕シスネ
レノは舌打ちをした。
黒いスーツの裾に、靴に、白いシャツの袖口にまで、どう見ても土としか言いようのない汚れがべったりとついている。払おうとしても、湿った土は布地にこびりついて離れない。
神羅ビルのエントランスをくぐり、エレベーターホールへ向かって歩き出したところで、背後から聞き慣れた足音が近づいてくる。
「レノ」
振り返ると、そこにいたのはシスネだった。彼女の視線が、まず靴に落ちる。次に、ズボンの裾。シャツの袖口。そして最後に、不機嫌そうな顔へと上がってくる。
ほんの一瞬の沈黙。それから、感情を含ませない声で言った。
「
……
今日はエアリスの監視でしょ?」
すべての業務を把握している口ぶりだった。その汚れの原因を察したように、彼女は僅かに眉をひそめる。
「怒らせるようなことでも言った?」
一瞬、レノの眉が動いた。
「
……
ちょっと本当のこと言ってやっただけだぞ、と」
軽く肩をすくめる。その仕草に、シスネの表情がほんのわずかに曇った。
「
……
本当のこと?」
「あぁ。ずっと音沙汰なしの恋人だぞ? 死んだか、捨てられたか、どっちかだろって。
……
どうせ会社じゃ、とっくに殉職扱いだ」
レノは吐き捨てるように言い、視線を逸らした。笑ったつもりだったが、声には乾いた響きしか残らない。
「
……
それで?」
「新しい男でも探せ、って言ってやったら
……
この有様だぞ、と」
レノは顎で、汚れた靴先を軽く示した。シスネはそれを見て、短く息を吐く。
エレベーターの到着音が、やけに大きく響いた。
「
……
最低ね」
「は? なんでだよ」
心底呆れた声音。真っ直ぐな視線は静かで、逃げ場がない。
「彼女がどれだけ不安で、それでも手紙を預けてくるか
……
わかってて言ったでしょう」
レノは一瞬、言葉に詰まる。
「だからこそだぞ、と。現実見せてやるのも
――
」
「優しさじゃない」
きっぱりと、遮られる。
「それは、あなたが楽になるための言葉よ」
シスネはそう言って、背を向けた。
「
……
報告の前に着替えたら。そのままツォンの前に出たら、余計な説明が増えるわ」
数歩歩き、エレベーターの前で足を止める。彼女はそこでゆっくりと振り返り、射抜くような視線で、真っ直ぐにレノの目を見た。
「それと。
……
次に同じことしたら、土じゃ済まないわよ」
淡々とした、けれど反論を許さない響き。レノが返事をする間もなく扉が開き、シスネは吸い込まれるように中に入った。閉まる扉の向こうで、冷ややかな視線が一瞬だけ重なり、消える。
一人取り残されたレノは、はだけたシャツの襟元を無造作に掻き、靴についた無様な汚れをじっと見下ろした。
「
……
手厳しいぞ、と」
口元に浮かんだのは、完敗を認める自嘲気味な苦笑だった。レノは首を振り、抜かれた毒気をやり過ごすと、次のエレベーターを待った。
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